帰宅
嶋倉と申します。
この度小説を書くことにいたしました。
私事に追われているのと、諸事情によりあまりスマホが使えない(PC不保持)ため、基本不定期連載となります。ご容赦ください。
重いです、暗いです。それでもよければお暇なときに覗きにきてください。
ご飯どきのファーストフード店は、とにかく忙しい。こうしている間にも、大量の注文がレジに舞い込み、店を混沌の渦に飲み込んでいく。千咲は騒然とした店内で黙々と料理を運び、少しずつ波を収縮させる。しかし勢いはそう簡単には止まらない。店中を歩き回りながら、誰にも聞こえないようにため息をつく。
(本当は夜のバイトなんてしたくないんだけど…時給がいいからなあ)
千咲は、母・優子と二人暮らしである。父の俊也と優子は千咲が生まれてすぐ、17年ほど前に離婚した。俊也は大手企業の次期社長候補の一人であり、かなり稼いでいた。しかし、家族の幸せを求める優子と、金や名誉を求める俊也の主張が噛み合うはずもなかった。話し合いの末に離婚が決まり、俊也名義だった家から祖母 正子が住んでいるアパートで3人同居することになった。だから千咲は、父の顔を写真でしか見たことがない。
(お父さんがいれば、こんなところでバイトしなくてもすむのに)
ほわほわの赤みがかった髪を指先でいじりながら、千咲は考える。俊也は経済面の援助を一切してくれなかった。それは何故なのか分からない。でもそれは、遠回しに「お前のことが可愛くない」と父に言われているようで、千咲はちょっぴり悲しかった。祖母も数年前になくなり、稼ぎ手は母一人となってしまった。当然ながら母だけの収入では生活が苦しいので、千咲がこうしてバイトをして家計を助けている。
(友達は彼氏とデートとかしてるのに なんで私は…)
「三上さん、レジ回ってちょうだい」
「あ、はい!」
考えていたことをとりあえず保留にし、千咲はレシートの飛び交う戦場へと駆けていった。
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戦いが終わったのは、午後11時を回ってからだった。空は雲で覆われ、月も見えない。明かりひとつない道を通り、千咲は帰路についた。
「ただいまー…」
インターホンを押して呼びかける。しかし返ってきたのは通話時特有の騒がしい無音だけだった。
(あれ?)
千咲は顔を曇らせる。いつもなら母はとっくに帰っている時間だ。先に寝てしまったのだろうか。いや、母は千咲の帰りがどれだけ遅くなっっても必ず待っていてくれた。どろどろしたものが心に流れ込んでくる。それが何かは、千咲には見当もつかなかった。
わからない気持ちを押し切るようにして、ドアノブに手をかける。カチリ、と軽い音がしてドアが開く。おかしい。母はいつも必ず鍵をかけて家を出るのに。家に帰ったらすぐ、戸締りを確認するのに。
手が震える。心臓が暴れ出す。千咲は駆け出した。どろどろしたものが心を飲み込んでいく。早く、早く母に会わなければ。母の顔を見て、この気持ちを落ち着けなければ。なんだ、気のせいだったと笑わなければ。
「ただいま!お母さん!」
叫ぶようにそう言い放って台所に駆け込む。必死で母を探す。だが、どこにも見当たらない。ここでないなら寝室だろうか、そう思って身を翻そうとした。そして、千咲は気づいてしまったのだ。
床に冷たく横たわる、母の姿に。
先ほどの雲は、音を置き去りにした光の矢を地上に降らせだした。空気を震わせる重低音が身体に共鳴する。そんな天候とは裏腹に、千咲の思考は止まったままだ。
何も考えられない。今日は母が千咲の大好きなトンカツを作ってくれる約束だった。よく見ると、冷蔵庫がわずかに開いている。母はきっと豚肉をあそこから出そうとして、そして…どうなった?
「うっ…うう…」
「うわあああああああ……!!」
抑えきれない悲しみは絶叫となり、虚しく部屋中に響き渡った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きは書いてありますので、スマホが使える時に書いて投稿したいと思っています。
もしよろしければこれからもよろしくお願いいたします。感想やツッコミ、お待ちしております。