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05.召喚獣???

 あの後、視界が白に染まり全身に痺れが走った俺は何が起こったのか状況を把握することも出来ずにあっさりと意識を手放した。簡単にいうとたぶん気絶した。

 だが俺は気が付けば、ふわっふわっの如何にも高級です感を醸し出したベッドの上に居て、何だかよくわからない白くてもふもふしたハムスターっぽい何かと見詰めあうことになっています。

 

「みゅっ」


 そのまま暫くじーっと互いに無言で見詰めあっていたが、寝転んだ俺の胸辺りを陣取るハムスター(仮)は何を思ったか食べかけの木の実を差し出してきた。

 

「………」


 え、なにこれ。俺にどうしろと?食えってことなの?そんないかにも仕方ねーなって感じ満載で差し出されても。


「みゅう?」


 食べないの?とばかりに首を傾げるハムスター(仮)は、俺が受け取らないというのを理解したのか「みゅふん」と溜息っぽい声を漏らしてから再びカリカリと木の実をかじり始めた。

 何がしたかったのこの子。

 俺には獣の気持ちを読み取るスキルなんてないからわからないよ。

 

 気を取り直して、寝転んだままの状態で周囲に視線を巡らせてみるが当然ながら見覚えのあるものは一切ない。勿論、こんな高級な部屋に住めるような知り合いは居ない。

 チンピラに殴られた頬は手当されたのか患部もガーゼで保護されている。

状況的にみて命の危険とかはないと思うのだが、先程とは違う意味での危険が迫っているという俺の直感は間違っていないだろう。

 あの状況からどうやって抜け出したかはわからないけれど、こんな高級感溢れる場所に俺がいる理由には恐らく…いや、十中八九…王子が絡んでいるはずだ。

 確かに気絶したままあの場所に放置されるよりはマシだけど…マシなんだけども、素直に喜べない俺が居る。

 だって助けに入っておいて結局何の助けにもならなかったとかダサすぎだろ。ついでに意識を失う前に考えたこととかもしっかりと覚えてるもんだから、今後一切王子に関わりたくないと思うレベルで恥ずかしい。ここが見知らぬ場所でなければ床をごろんごろん転って悶えていたに違いない。


「あ、目が覚めましたか?」


 ベッドの上で羞恥と戦っていた俺向かって、少し離れた場所から軽やかな声がかけられる。


「みゅみゅみゅっ!」


 俺の上で木の実に夢中だったハムスター(仮)は、恐らく歓喜の叫びを上げその声のした方向に向かってベッドを飛び下りていった。

 

「あらあら。見かけないと思ったら、こんなところにいたのね」


 ハムスター(仮)に遅れて声の発生源に視線を向けると、そこには美少女としか表現できないようなメイドさんが居た。

 抜けるような白い肌に、見るからにさらりとした手触りのプラチナブロンド。紫の瞳は髪と同色の睫毛に覆われているためかきらきらと輝いていて整った容姿の中でも特に印象深い。

 俺よりも少し年上であろうメイドさんはハムスター(仮)を抱き上げてから、ゆっくりとした動作で俺の顔を覗き込んでくる。


「ご気分はどうです?具合の悪いところなどはありませんか?」


 覗き込んだ拍子に顔にかかった髪の毛を耳にかける仕草が年齢に似合わず妙に色っぽい。

 というか、このメイドさんは誰なんだ。明らかにモブじゃない存在感なんですけど。

 でも俺の記憶にある限りは銀髪の女の子なんて攻略キャラにはいない。…俺のじゃなくてエリーの、だけど。


「みゅーう?」


 メイドさんの両手に抱えられた…というか、手のひらに乗っかっているハムスター(仮)も大丈夫?とでも聞きたげに小首を傾げている。

 美少女と小動物……うん、良いと思う。可愛いは正義だよね。

 しかし、状況が全く読めない。

 

「えーと、あの…アナタは?」

「まあ、申し訳ございません。名乗り遅れましたが、わたしは殿下付きのランと申します」

「みゅみゅっ」

 

 たぶんハムスター(仮)もメイドさん…ランさんに合わせて名乗ってくれたんだと思うが、全然理解出来ない。それに、なんだか妙にきらきらした目で俺を見詰めてくるんだけど理由がわからない。

 あと、さりげなく殿下付きとか言っちゃってるけど大丈夫?突っ込むべきなの?ふつうどこの馬の骨ともわからないやつに言うべきじゃないよね?


「……殿下?」

「ええ、レナード殿下です」


 ああ、王子ってレナードって名前だったんだ。言われてみればそんな名前だったような気もする。あんまり覚えてないけど。

 うん、でも…なんというか反応に困る。誰の事言ってんのかわかるからこそ、こういう場合の正常な反応というものがわからない。大袈裟に驚いてみるべきだったのかな…タイミング逃したから無理だけど。


「えっと…あの、それじゃあ…なんで俺はここに?」


 とりあえず、これは聞いてもおかしくないはずだ。というか、なぜここにいるのか正直よくわからないし。


「わたしも詳しいことはわかりませんけれど、ゴロツキどもから殿下を救って下さったのでしょう?あなたは殿下の恩人だから手厚くもてなすようにと言われております」


 どうなってんのこれ。あの後何が起こったんだ…?


「あら、どうかなさいました?」

「…いや、なんというか…その…恩人とか、俺には見覚えがないというか…」


 俺は結局何も出来なかったわけだから、正確には王子を助けていないはずだ。王子が自力で何とかしたとも思えないし、恩人というべき人は他にいるんじゃないだろうか。


「まあ、そんなに謙遜なさらないで下さいな。この子はあなたの召喚獣でしょう?この子がゴロツキどもを倒して殿下を救って下さったと聞いています。立派な恩人ですよ。あなたが居なければ殿下は今ごろゴロツキどもに囚われて大変なことになっていたはずでしょうし」

「…………」


 うん?あれ?この人、いま変なこといわなかった?


「みゅふふん!」


 ランさんのセリフに合わせてドヤァッという感じに胸を張るハムスター(仮)。

 …正直、ちょっとイラッとした。

 こんなのが召喚獣ってどういうことだ。これでどうやってゴロツキ倒せるの?…いや、それより俺が召喚したって何?


「ほんとうに素晴らしいです。幼生とはいえ稀少種である竜を召喚するなんて」

「…………りゅう?」

「ええ」


 え?竜?ドラゴン?…これが?どうみてもハムスターなんですけど。なんかドヤァッてしてるんですけど。


「いやいやいやいやいや!ちょっ、これ、どうみても竜じゃないよね!!?」

「みゅみゅみゅーッ!!」

「あらあら、この子は間違いなく竜の幼生ですよ」

「いや、だって竜って!もっとこう、羽があったり鱗があったりどっちかっていうとトカゲ寄りのやつじゃないの!?」


 何がどうしてこうなった。

 竜ってのはもっとこうロマン溢れる感じのアレだろ。

 美少女の手の中に納まって頬袋的なものを膨らませてる哺乳類ではないはずだろう!


「確かに一般的な竜はトカゲが進化したようなものですけど、この子は竜の中でも稀少種のウェイクドラゴンの幼生です」


 えぇー…嘘だー。


「いまは子ネズミのようなものですが、成長して覚醒すれば羽も生えますし竜らしい姿になります。それにウェイクドラゴンの覚醒後の姿は幼生期の過ごし方に応じて異なりますから育てる楽しみというものもありますし、召喚できることも合わせて本当にレアなんですよ」

「みゅっ、みゅっ!」

 

 その通りとばかりにランさんの言葉に力強く頷くドラゴン(仮)。

 

「まあ、その…これが竜なのは別に良いとして…俺が召喚したってのは…?」


 ドラゴン(仮)については、ひとまず置いておこう。いま大事な問題はそこじゃない。


「どういう意味でしょうか?」

「…いや、その…ほんとうに俺が召喚したんですか?」

「みゅー…」


 俺の言葉に反応してか、ドラゴン(仮)が悲しげな鳴き声を出している。

 しかし、俺には身に覚えがないから仕方ない。


「殿下が仰っていましたし、この子も懐いていますし間違いないと思いますけど…そうですね、その辺りのことは殿下にお聞きになると良いでしょう」

「……え?」

「あなたの目が覚めたらすぐに知らせるようにと言われていたのをすっかりと忘れていました。いま、殿下を呼んで参ります」

「いや…」

「それでは、少しだけお待ちくださいね」

「ちょ…っ」


 にっこりと笑って俺にドラゴン(仮)を手渡してランさんは部屋を出ていく。


「…えぇー…」


 何故だか口を挟む隙がなかった。出来る女ってのはこういうものなんだろうか。

 でも俺、王子に会う心の準備…いろんな意味で出来てないんですけど…。




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