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04.チェックメイト?

 ちょっとだけフラグ立っても良いなんて、血迷ったことを考えたせいだろうか。恐らくこの世界には実在しているであろう神と呼ばれる存在はとても残酷なようだ。

 いや、でもポジティブに考えよう。これは、あれだ。悟りを開くための試練とかそういうノリなのかもしれない。

 自らを過酷な状況に追い込んで肉体を痛めつけることにより精神を浄化するという苦行を行えということなのだろう。

 うん、でも…俺は悟りも解脱も望んでないんで、そういう気づかいはノーセンキューです。神さま、マジ勘弁して下さい。もし人生の難易度選べるなら、来世のことは考えずに俺はイージーモード一択なんで。ほんと勘弁して。俺的にはいまのこの転生先だけで人生ハードモードくらいの難易度あるから。これ以上の試練は必要ないから。


 まあ現実逃避はこれくらいにして、状況を説明しよう。

 裏通りへと逃げた俺は勘だけを頼りに、というより目についた路地へと片っ端から入り込みチンピラ三人を撒こうと王子の手を引いて必死に走った。

 幸い行き止まりには当たらず順調にチンピラたちとの距離を稼いでいた。

 このままのスピードで走って良い感じの隠れ場所を見つけることが出来れば、きっとあいつらに見つからずにやり過ごせるだろうと思えるくらいには順調だった。

 そして、チンピラ共の体格では入り込むのは難しいであろう建物と建物の間に僅かに空いた隙間…細道と言うべきかわからないがそんな感じものを見つけ、ああこれが主人公補正か、なんて調子に乗った考えが頭を過った瞬間――王子がこけた。

 もう一度言おう。

 王 子 が こ け た。

 王子がこけるイコール手を繋いでいる俺も一緒に仲良く地面にダイブだ。

 実際には俺は足がもつれて手と膝をついただけだったが、王子のこけっぷりは見事なものだった。

 ちょ、おま、このタイミングでとか狙ってたの?もしかしてタイミング計ってたの?なんて思わず草が生えそうになるレベルの王道っぷりを披露してくれた。流石メイン攻略キャラ。テンプレは全て回収しなければ気が済まないんですね、わかります。

 何かヒロインぽいテンプレ回収したついでに、この状況打破できるヒーロー呼んできてくんないかな?

 って、たぶん、状況からしてそれは俺以外の誰でもないんだろうな。……ないわー。それはないわー。俺には荷が重すぎるってば。


 地面についたせいで擦りむいた掌の痛みを堪えて、俺は急いで王子を振り返る。

 恐らく体力の限界だったのだろう。地べたに伏した王子は痛みからか恐怖からかは不明だが半泣きで、何とか立ち上がろうとする気配を見せるものの上手く身体を動かせないようだった。

 結構長いこと俺の全力で走っていただけに、気力だけで着いてきていたのかもしれない王子を責めるのは酷だろう。

 この状態から王子を立ち上がらせて細道に逃げ込むには、たぶん時間が足りない。

 それより早くチンピラがこの場に到着するだろう。目視できる位置に居るし。

 俺が時間稼ぎするからおまえは逃げろ!とか言えれば良いんだが、ここで一人逃がしても王子は後々チンピラに捕獲されそうだ。そんな予感がする。未来予知なんてスキルがある俺の勘だから、たぶん当たると思う。

 道を知らないのに、一度も行き止まりに当たらずにここまで逃げれたのもスキルの恩恵だと思うしね。うん、自分で言ってて何故王子相手に発動してくれなかったのかは疑問だ。この出会いは回避不可だったのだろうか。ほんとこのスキル役にたたねーな。

 

「チェックメイトってやつかなぁ…」


 思わず呟く。完全に詰んでいる。

 チンピラに捕まったらイケメンと恋愛するよりやばい目に合いそうだから、諦める気にはならないけどどうしたものか。

 とりあえずとばかりに王子を抱き起して立ち上がらせる。

 俺と違って半ズボンだった王子の膝が凄いことになっている。痛そうだが手当している余裕はないので我慢して貰おう。男の子だから大丈夫大丈夫。

 王子にも状況がわかっているのか、眉尻を下げ縋り付くような瞳で俺を見詰めて震える指先で服を掴んできた。

 …うん、お兄さん、そういう仕草は女の子にして貰いたいな。まだ子供だから気にならないけどさ。可愛いと思いますけど、子供ってかわいいなーとかそんな感じの感情だから。ラブにはなりませんから。残念!


「このクソガキ!もう逃がさねーぞ!」


 そうこうしている内にチンピラその一が追い付いてきた。

 一番身軽そうだったやつだ。更に詳しく言うとアニキとか言ってたやつだ。

 他のチンピラが追い付く前に何とかしたいものだが、打開策が思いつかない。

 俺の服を握りしめる王子の指に力がこもる。

 大丈夫、今さら見捨てたりしないって。追い詰められたからってそんなことするくらいなら最初から首を突っ込んだりはしない。

 王子を背に隠して、近づいてくるチンピラからじりじりと距離を取る。

 チンピラから距離を取るように見せかけて細道に近付いてみるものの、俺たちとチンピラまでの距離と細道までの距離なら断然チンピラの方が近い。

 俺のポケットの中には最終兵器塩が入っていたりするが、先程と同じスピードで王子が走れないのならあまり有効なものではない気がする。しかし、他に方法もないし一か八か試してみるしかないだろう。


「良いか?俺が合図したら、後ろにある細道に向かって全力で走るんだ」


 チンピラには聞こえないように、チンピラの方を向いたまま小声で王子に告げる。


「え…?で、でも…」

「つらくても、走れ。泣き言はきかないからな」


 戸惑う王子を突き放すように厳しい声を意識して念を押す。

 転んだことでチンピラが追い付くまでの時間で少しは休憩出来たはずだ。

 代わりに足が痛いかもしれないが、折れたわけではないのだから走れないことはないだろう。

 そっとポケットに右手を忍ばせ、塩を握り込む。

 擦りむいた掌に塩を擦りこむ結果になったが、顔が歪みそうになるのをチンピラを睨みつけることで何とか堪える。……正直に言うとうっかり泣きそうになるくらい痛いけど、我慢する。 

 

「手間ァ、かけさせやがって。おら、こっち来い!」


 こちらに手を伸ばしながら近づいてきたチンピラに向かって、俺は一歩を踏み出すと同時に王子に向かって合図を出す。


「いまだ!走れ!!」

「ッ!!!」


 叫んだ瞬間にチンピラに向かって塩を投げつける。

 上手く目に当たったかどうか確認することもなく、王子に続いて俺も細道に向かって走り出す。

 だが、目の前を走る王子の足がもつれそうになるのを見て一応後ろを確認する。

 チンピラは咄嗟に目を瞑ったのだろうか、余り効果はなさそうで罵声を上げ怒りの形相で俺たちを追いかけて来ている。

 このままでは俺は逃げ切れても、王子は捕まってしまうだろう。それでは俺の努力が水の泡だ。王子だけを助けると色々詰みそうだし、良い予感は余りしない。

 けれど、このまま王子を見捨てるのは更に悪いことになりそうな気がする。

 それなら、俺がこの場で取る行動は決まっている。


「…っぅわ…!」


 細道までもう少しというところで動きの鈍い王子に手を伸ばそうとするチンピラ見て、俺は王子を細道へと向かって力の限り突き飛ばした。突き飛ばしたというよりタックルに近かったかもしれないが、そこは広い慈悲の心で許して頂こう。

 それに、一度転ぶのも二度転ぶのも同じだろう。


 王子を突き飛ばした俺は必然的にチンピラに捕まってしまうことになったが、勿論、大人しく捕まる気などない。

 身体の向きを反転させてチンピラの脛を全力で蹴り飛ばす。


「ぐッ!このガキ…!!なめやがって!」

「…ッ、ぃ!」


 それなりに痛かっただろうに、チンピラは俺を掴む手を緩めずに殴りかかってくる。

 目を瞑る余裕すらなく頬の辺りに衝撃が走り、視界がブれた。

 幸い歯は折れなかったようだが口内を切ったのか血の味が滲む。

 反撃する手段など持っていないが、このチンピラ絶対ゆるさねー絶対何時か泣かすとばかりに尚もチンピラを睨みつけるのを止めない俺の胸元を掴み、更にもう一発ぶち込もうとチンピラが拳を振り被っているのが見えた。

 胸元を掴まれて引っ張られているせいで軽く爪先立ちな俺は衝撃に備えて受け身を取る事すら出来ない。


 正直痛いし、苦しいし、しんどいし、散々だ。おつかいの品も気付けば何処かに落としてきてしまったようで、ママ先生に申し訳ない。王子なんて放っておいて、やっぱり逃げれば良かったかもしれない。

 そう思うけれど、与えられる痛みと儘ならない状況にこの世界は今の俺にとっての現実なのだと実感してもいた。主人公だから大丈夫だろうって、舐めていたところがあったんだろう。

 確かにそういう部分もあるだろうが、ストーリーに沿って生きようとしていない時点でそんな考えは綺麗さっぱり捨て去るべきだったのだ。決められたレールから逸脱したのなら、何が起こってもおかしくはないのだから。

 …なんて、自分の身に危険が及んで初めて自分がそう感じていたことに気が付くなんてテンプレ過ぎて恥ずかしすぎるだろ。ヤメテ。

 それに、少しだけ後悔しながら、殴られたのが痛みに弱そうな王子でなくて良かったと安堵する俺も居て、更に恥ずかしい。俺ってこんなこと思う性格だったかな。


 スローモーションのように近づいてくるチンピラの拳を眺め、来たるべき衝撃に備えて俺は身構える。

 ――――が、俺を襲ったのはチンピラの拳ではなく痺れを伴う白い閃光だった。


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