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照れ屋のおおかみさん


「ルーグ君は何歳になったの?」

「夏で2歳。ナターシャのとこは?」

「この冬で2歳よ」


 お母さん達が買い物をしながら会話に花を咲かせている頃。


「もうっ! はなせよ!」

「やあー」


 私はまだルーグ君の尻尾が放せずにいました。

 だってさ、リラさんは灰色一色だけど彼の尻尾は濃いグレーから白へのグラデーション。触り心地はソサ並みときた! 視覚的にも触覚的にも私の中のもふもふランキング上位に食い込んできたんだよ。


「おこるぞっ」

「やあ、なの!」


 もしやこれは運命の出会いをしてしまったのかもしれない。


「あいと、るーぐはなかよし?」

「ね、るーぐとなかよしね!」


 うん! 私とルーグ君はとっても仲良しだよ!

 

 お姉ちゃん達の耳と尻尾もランキング上位だけどね、ルーグ君はその上に来ちゃったなー。


「はーなーせぇー!」


 放せ放せと言いながらも私を無理やり引き剥がそうとはしないし。

 ルーグ君は恥ずかしがり屋さんなんだね、きっと。

 

「そういえば……もうすぐ幼稚園生になるのよね」

「そうそう。早いもんだわぁ」


 ……今なんて言いました、ママさん方。

 なんでか涙目でしゃがみ込んでいるルーグ君を一旦解放して、お母さんに尋ねることにします。


「まぁま? ほーちえん?」


 ああ、また! 放置園てなんだ、怖いよ。

 それでもお母さんは私の言いたいことを理解してくれるので、さすがお母さんだなーと思います。


 ルーグ君が涙目だった理由は、私が尻尾を掴んだまま急停止したため、尻尾が取れるかと思うほど痛かったからだそうです。後でお姉ちゃんに密告されて怒られました。

 

 それで、幼稚園とな?


「アイラルが3歳になったら通うところ。お友達がたくさんいるのよ」


 この世界にも幼稚園ってあるんだ。

 また世界が広がると思うと、3歳になるのが楽しみだ。

 それに……お友達がたくさんってことは、もふもふがたくさんってことですよね、お母さん!

 

「でもアイラルちゃんだけ違うクラスってことになるね」

「そうなの。うちはパパが獣人じゃないから」


「……ちあう、くらしゅ?」


 ど、どういうことですか、それは。

 私だけ違うクラスということは、お姉ちゃんとお兄ちゃんとルーグ君は同じクラスなの?

 ぽかん、と口を開けてお母さんを見上げる。


「なあに? なんのおはなし?」


 お兄ちゃんが戻ってきてお母さんと私を交互に見る。


「幼稚園のお話をしてたの。アイラル、幼稚園では獣人……リスルやディオールと、アイラルのような人間とは違うお部屋で遊ぶの」


 お兄ちゃんには難しかったようで、ふーん?と相槌を打ってまたお姉ちゃん達を追って行った。でも精神年齢が高校生の私には、難しいからわからないとスルーするわけにはいかず、一瞬ショックで目の前が真っ暗になった。


「どぉちて……?」

「獣人のほうが大きくなるのが早いでしょ、人間のお友達を怪我させちゃうかもしれないから」


 お姉ちゃん達だってもうあれだけ走れるでしょ?

 確かに、そうだけど。

 

 ルーグ君は2歳でもうほとんど言葉を使いこなしてる。力だって私よりずっと強いのだろう。

 同じ獣人の感覚で人間の子供と遊ぶと、確かに怪我をさせてしまうかもしれない。


「クラスが別なだけで、幼稚園は一緒なんだから。会えないわけじゃないんだよ?」


 ありがとうリラさん。

 だけど立ち直るまでに少し時間をください。

 夢のもふもふ天国パラダイスが思い描いた途端砕け散ったんだもん……。


「るー……くん」


 ルーグ君、傷心の私をあなたの尻尾で癒して。

 ふらふらと近づいてくる私にルーグ君はギョッとして逃げ——あれ?


「……ちょっとだけだぞ!」


「……う?」


「しっぽ、ちょっとだけなら……いいぞ」


 ルーグ君……君はなんていい子なの。

 もふもふされるのは嫌なはずなのに、私が落ち込んでいるのを見て、触ってもいいぞ、なんて。

 そんなに顔を真っ赤にして。


「かーさんに、おこられたのか」


 私が飛びつかないでいるとルーグ君は不思議そうな顔で言った。

 ルーグ君の心遣いに感動しているだけです。なんて複雑な文章を伝えるのは不可能だから、首を横に振る。


「あい?」

「どーしたのー?」


 お姉ちゃんとお兄ちゃんにも心配させてしまった。

 だいじょおう、と笑顔を見せて、ルーグ君の尻尾をぎゅっ!


 そうだよ、離れ離れになるわけじゃないんだから。

 不安にさせてしまってごめんね。


「るー、くん、だいしゅきー」


 尻尾を掴まれて、ルーグ君は頬を膨らませていた。やっぱり照れて顔を真っ赤にしながら。





 いろんなお店を回って、お買い物が終わるまで、リラさんとルーグ君も私達家族と一緒にいた。

 

「次に丘を下りる時は連絡ちょうだいね」


 次に街に来れるのはいつになるのかな? またルーグ君に会えたらいいな。

 なんて思っていると。


「……ん」


 ルーグ君がグーにした手を私の前に突き出した。


「……なあに?」


 手を出すと、ルーグ君はそれを手のひらに落とす。

 

「きれいだった……から! あいらるにやる!」


 手の上にちょこんと乗った黄色い石。石を削って細工を施した、小さな黄色い羊。目の部分には緑の石がはめ込んである。

 これ、私に……?


「アイラルちゃんにあげるって、ルーグがね……」

「かーさん!」


 いつの間にこんなものを探してくれていたのだろう。

 羊を握りしめて、もう一度ルーグ君に飛びついた。

 今度は尻尾にじゃなくて、正面からぎゅーって。


「それじゃあみんな、ルーグ君にばいばいしましょうね」


「ばいばい!」

「ばいばーい」


 私も大きく手を振った。


「るー、ありあと!」




 家に戻ると羊を窓のそばに置いた。

 この羊、私とおんなじ色してる。

 だからこれをくれたのかな。

 次に会えるのはいつかな。


 また、お買い物に行きたいな。


 


ありがとうございます。

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