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クッキー作り、のはず

 一度確認しておく。

 私が騎士団にやって来たのはレンカの日のクッキーを作るためだったはずだ。

 ……それなのに。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん。……これ、どうしよう」


 私は今、庭園のテーブルで椅子に座ったまま、あっけにとられて動くことも声を出すこともできずにいる。

 花畑はぐしゃぐしゃ、地面もところどころ抉れている。目の前の光景を端的に表すとするなら、それはまさに地獄絵図。


「う、ウィンディちゃん……ごっごめんって……」

「謝って許されると思ってるの?」


 青ざめた顔で交代するアシュさんと、対照的にこちらはにこやかな笑みを浮かべているウィンディさん。

 ふたりの周りには、仲裁に入ろうとして巻き込まれた騎士団員さんたちが何人も、目を回して倒れている。

 なぜこんなことになっているのかを説明するためには、まずなぜ私たちが騎士団の庭園に集合しているのかから話していくのが早いと思います。






 時は私たちがクッキーを焼き始める直前まで遡る。


「アイラルちゃんのクッキーは、動物の形なんだねぇ。ふふ、かわいいー」


 私が並べたクッキーを見てサラさんが頬っぺたに手を当てる。

 うん、初めてにしてはなかなか上手に出来たんじゃないかな。

 サラさんも言う通り、私のクッキーは動物をかたどった動物クッキーだ。ココアを混ぜた生地を使って、目や口を作った。


「おやおやぁ? 狼のクッキーだけ、ちょっと大きいようなー」

「わあっ! 違います違います! 別にわざとじゃ……誤差の範囲ですよ!」

「ふぅん……?」


 くぅ、サラさん目ざとい。

 る、ルーグ君のあのもふもふ尻尾を再現しようとして気合い入っちゃっただけだよ。別に意図してやったわけじゃないよ。


「お姉ちゃんの綺麗だね!」


 なんとか話題を変えようと、お姉ちゃんに話を振る。


「うん、これね、混ぜたら美味しいかなって」


 お姉ちゃんのクッキーはマーブル模様のクッキーだ。形も星型だったりお花型だったり、バリエーション豊か。

 お姉ちゃんはお菓子作りに関して意外なセンスを発揮した。勉強や寮の掃除は大雑把なくせに、材料を計ったり混ぜたりするのは几帳面にきっちりとするのだ。

 今度おやつのお菓子作ってーって頼んでみようかな。

 ……で、最後にシトロンちゃん、なんだけど。


「……何よ」

「シトロンちゃん、それって何、かな」

「なっ何って、アフツァーさんのと同じものよ」


 うん、それはわかってる。シトロンちゃんも私と同じ動物クッキーを作っていることは知っている。

 だけど。

 その尻尾はどこから生えてるのかなーとか、足がその位置じゃ歩けないんじゃないかなーとか。ごめん、シトロンちゃん。ツッコミどころが満載なんです。


「よーし、3人とも出来たみたいだねぇ? それじゃ焼いていくよー」


 サラさんが調理室の大きなオーブンに全員のクッキーを入れてくれた後は、焼きあがるまでしばらく待機。

 片付けをしつつ待っているつもりだったんだけど。


「よ、サラ。楽しそうなことしてるじゃねぇの」

「ゴレムさん!」


 前触れもなく調理室にやって来たゴレムさんに、私は条件反射で飛びついた。

 鳥類のもふもふ成分補給ー。

 ゴレムさんは私をくっつけたまま調理室の中に入る。


「菓子作りか? 出来たら俺のとこにも持ってきてくれよ」

「ええー? 今焼いてるのはレンカの日用だからー……私が作ったのならあるけど、ゴレムちゃんそんなに甘い物好きじゃないよねぇ?」


 こてんと可愛いらしく首をかしげるサラさんに、ゴレムさんはがしがしと頭をかいて笑う。


「俺じゃねぇよ。学園のチビたちに勉強教えてやる約束になってな。菓子でも出してやろうかって。……ほらアイラル、お前の兄ちゃんたちだよ」


 お兄ちゃんたち! 騎士団に来てるんだ!


「クッキー、私が持って行っていいですか!?」


 サラさんにキラキラした視線を送ると、いいよー行っておいでーと心良く了承してくれた。

 サラさん作のクッキーを持ち、私はお姉ちゃんと、少し微妙な表情をしたシトロンちゃんと連れ立って調理室を飛び出した。

 聞いたところではお兄ちゃんたちがいるのは第一会議室。調理室からはすぐ近くだ。騎士団には何かとお邪魔してるからね、部屋の配置くらいはなんとなく頭に入っているのですよ。


「おーにぃちゃんっ!」


 会議室のドアを開いた途端、何かの鈍い音。


「……ルーグ君?」

「な、なななっ、なんで、アイラルがここに」


 音の正体は、椅子から落ちたルーグ君だったようです。


「ルーグ驚きすぎ。アイ、アイとリスルも騎士団に来てたんだ?」

「うん! サラさんとお菓子作ってた。お兄ちゃんはお勉強?」

「そう。青の人が教えてくれるって言うから、ルーグと、用事があるって出て行ったカオンと3人で。……それ、持ってきてくれたの?」


 話しながらお兄ちゃんの視線は、私の持つクッキーのカゴへと注がれていた。

 ふふん、お兄ちゃんは甘いもの好きだから、はちみつクッキーを多めにもらってきたのです。


「ルーグ君もはちみつクッキーでいい?」


 まだ椅子から落ちたままのルーグ君にカゴをさし出す。

 するとなぜか目をそらされた。でも尻尾はパタパタ振っていて。

 ん? クッキーは受け取ってもらえたけど、私何かしたかなぁ?

 一部始終を見ていたシトロンちゃんがぼそっと言う。


「それ、別にレンカの日のお菓子じゃないからね」

「わっわかってる! それくらいっ!」


 ん? ん? ふたりともどういうこと?


「ルーグかわいい」


 え? お姉ちゃんまで? もしかしてわかってないのって私だけ?

 お兄ちゃんに助けを求めても、お兄ちゃんはなんか冷めた目でルーグ君のこと見てるし!


「もう、みんなっ」


 一体なんなの! と言いかけて私は口をつぐんだ。

 部屋の外からガラスの割れるような、大きな音が響いたのだ。


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