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緑のハート


『スズ。あの子が貴方の主なのですね』


 穏やかな口調だが、風竜が森の中に隠れたアイラルに向ける視線は、氷のように凍てついている。


『……契約召喚なんて、人間の幻想で良かったのに』


 スズテカトルは何も言わない。


『貴方が契約したというから、どんな人間なのかと思ったけれど……あの子も何も変わらない、ただの人間のようですね』


 風竜と子どもたちの間に入るように、そっと移動する。風竜はその意味に気づいているのだろう、クルルと喉の奥を鳴らして、どこか楽しそうだ。


『……それで、何をしに来た』


 低く唸ってみるが、風竜にはまるで効果がない。こちらに視線を戻して、目を細めて笑う。


『スズに会いに来ただけですが?』

『…………』

『あら、本当ですよ。だから今日はもう消えます。せっかく会えたのに、スズはちっとも喜んでくれないようですし』


 バサッと風竜は翼を広げる。風が泉の水を揺らす。


『また、いつか会いましょう? ……ああ、そうだ。これは私からのプレゼントです。あの子が探していたようですから』







 お姉ちゃんを抱きしめて、くるくる回っていると、いきなり風が強くなった。見れば、風竜が風邪を纏い、消えたところだった。


「スズ! 風竜帰っちゃったの?」


 私たちは木の陰を飛び出して、どことなくぐったりした様子のグリフォンに群がる。

 寄るな、と一言言った後、翼を使って鬱陶しそうに追い払われた。私がそれでもスズテカトルを撫でていると、お姉ちゃんがハッとしたように声を上げる。


「宝探し! そろそろ集合場所に行かないと!」


 私もお兄ちゃんもハッとなる。

 そうだよ、風竜の登場ですっかり忘却の彼方だったけど、今は実習中。森に入ってからだいぶ時間が経っているはずだから、早く行かないと最下位になってしまう。

 最下位のグループにはお楽しみが待ってますよーと、先生がやけに明るい笑顔で言っていたのを思い出す。絶対お楽しみなんかじゃないよね、何させられるの。

 自然とため息が漏れる。

 飛ばされた青い星——アージャーティの花は、泉の向こう側、お姉ちゃんの見つけた場所から取ってくるとして、残すは緑のハートか。


『おい』

「ぐえっ」


 もう! 襟首に爪ひっかけるのはやめてってば! びっくりするし苦しいんだから!

 ちょっぴり涙目になって振り返れば、スズテカトルが嘴で何かを拾うところだった。緑色に光るそれをスズテカトルは無造作に私のほうへ放る。固いそれは私の鼻にぶつかって落ちる。もうっ!


「で、今の何っ」


 変なものぶつけてきたんだったら、一発怒鳴ってやろうと、それを拾って――


「スズ、これ……」

『風竜がお前に、と言っていた』


 驚く私を残してスズテカトルはさっさと石の羊の中に帰ってしまった。ちょっと!

 お姉ちゃんとお兄ちゃんに風竜からの贈り物だというそれ――緑色のハートを見せると、ふたりとも目を丸くした。

 それは太陽の光でエメラルドのように輝く、竜の鱗。


「緑のハートだっ!」


 お姉ちゃんが嬉しそうに飛び跳ねる。

 これが宝探しの答え? ずいぶん難易度の高い物のような気がするけど……。 まあ、でもいびつではあるけどハートに見えなくもないし。


「急ごう。最下位になっちゃう」


 アージャーティの花を摘んで、私たちは先生の待つ場所、森の外めがけて走った。







「三つ子ー、遅いぞー」


 懸命に走って森の外に出ると、既に大勢の生徒が集まっていた。今の呆れ声はルーグ君のものだ。シトロンちゃんとカオン君もいる。くそぅ、負けたー。

 走ったそのままの勢いで先生に花と鱗を渡しに行く。


「先生、持ってきました!」


 先生はにっこり笑ってお疲れ様と言ってくれた。

 が、私の持つ宝探しのお題、正確には緑のハートのほうを見て、眉を寄せた。


「アフツァーさん? それは何かしら?」


 失敗した、と思った。やっぱり鱗は緑のハートではなかったようだ。


「これは……いッ!」


 龍の鱗です、と言いかけて、お兄ちゃんに手の甲を抓られた。


「落ちてた石です。綺麗だから、これが緑のハートかと思って」


 いったた……。

 そうか、実習をしていた森に竜がいたなんて話が広まったら大事になるもんね……。

 誰も風竜を見たという話をしていないあたり、風竜が何か仕込んでいたのだろう。現れる時も風の中からいきなり出てきたくらいだ、姿を消すなど彼女には簡単なのだろう。


「うーん、確かに綺麗だけど、これはお題とは違うわね。もう一回探してきて……と言いたいところだけど、あなたたちのグループが最後みたいね」

「えっ」


 3人分の声が重なった。


「はい、全員帰ってきたみたいだから、集合してくださーい」


 先生はぱんぱんと手を叩きながら行ってしまった。

 結局最下位じゃないか……!

 

「お楽しみって、なんだろうね……」


 鱗をぎゅっと握って項垂れた。

 風竜め。


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