実習!
「青い星と、緑のハートを持って来ること!」
アージャーティの森の中、お姉ちゃんの声は弾んでいた。
「リスル、一人で先に行かない」
「いいの! アイも早く行こ!」
お兄ちゃんの忠告をさらっと受け流し、私の手を引くお姉ちゃん。反対の手には、先ほど先生から受け取った紙が握られている。
アージャーティの森での実習は、わかりやすく言えば、宝さがしだった。
紙に書かれたものを森の中で探して、集合場所の先生のもとへ持っていく。
三人か四人でグループを作るということで、いつもの六人でじゃんけんをした結果、私はお姉ちゃんとお兄ちゃんとグループになった。もう一つのグループは、ルーグ君、カオン君、シトロンちゃん。二人が喧嘩してシトロンちゃんが大変かな?と思っていたけど、出発前にシトロンちゃんがいい感じに仲裁してたからたぶん大丈夫だ。
「青い星ってなんだろうね?」
紙に書いてあるものは、簡単にはわからないようになっている。
「緑のハートもわからないね。ディオ、アイ、わかる?」
私は首を横に振る。
しかしお兄ちゃんは何か思い当たるものがあるようだ。
「青い星は、たぶんアージャーティの花のことだと思う」
「アージャーティ?」
「うん、この森にしか咲かないんだって。青い星型の花なんだ」
へえ! さすがお兄ちゃん、詳しいね!
青い星は、アージャーティの花で決まりだね。
「で、それってどこにあるの?」
お姉ちゃんは早く探しに行きたくてうずうずしているみたい。
「日当たりが……いいところ」
「……日当たりが?」
「いいところ……?」
三人ともその場でくるりと回る。
日当たりがいいところと、言われましても、ね?
アージャーティの森は昼間でも薄暗いのだ。日当たりのいい場所なんてあるの……?
「と、とりあえず、歩いてみようよ。たまたま日当たりのいいところが見つかるかも!」
姉兄の背中を押す。
と、突然私たちの上に落ちる影。
「リスルっ! お先に失礼っ!」
バサバサと羽音を立てて、知らない獣人の女の子が上空を飛んでいった。
おお、美しい白の羽……!
「お姉ちゃんの知り合い?」
「獣人闘技学部の鳩の獣人! このっ、あたしだって!」
「お姉ちゃん!?」
お姉ちゃんは鳩の獣人さんを追いかけて走っていってしまった。
私の呼びかけも虚しく、例のトンットンッの走り方で加速したお姉ちゃんは、深い森の奥に消えていった。
ぽっかーんと口を開ける私の肩をお兄ちゃんが叩く。
「アージャーティの花はリスルに任せて、僕とアイは緑のハートを探そう」
うう、せっかく三つ子が三人揃ったのに。学部が違うと学園じゃなかなか三人揃わないんだよ?
仕方なしにお兄ちゃんと二人で歩き始めた。
緑のハートって何だろう。緑ってことは葉っぱとかかな。うーん、でも青の星がアージャーティの花なら、緑のハートが葉っぱっていうのは、いくら初等部の宝探しでも単純過ぎる気もする。
「んー、うーん……んんー……あっ」
ぽんっと手を打つ私に、お兄ちゃんは首を傾げる。
そうだよ。今使わないで、いつ使うって言うの。
片手で増幅のペンダントを握りしめて、反対の手で風の玉を作る。ちゃんと授業で練習してるからね、片手でも風の玉が作れるようになった。
この玉を、増幅、増幅、増幅……。
「お兄ちゃん、この近くにどれくらいいる?」
頭のいいお兄ちゃんは、私が何をしようとしているのか、もう気づいたらしい。
「小さいのが、2匹……かな」
「近い?」
「うん、だいぶ近い」
よし、行ける。
増幅のペンダントを握る手に力を入れると、風の玉は私とお兄ちゃんを飲み込んでさらにさらに大きくなっていく。
目を閉じて集中していたお兄ちゃんが、風の玉が半径5メートルくらいまで広がったところで私を制した。
「アイ、たぶん入ったと思う」
「ん」
準備完了っと。
すうっと息を吸う。上手くいくかな?
「……えっと、聞こえるかな? ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだ。怪しい者じゃないから、出てきてくれない?」
言ってから思う。
すごく誘拐犯っぽいこと言ってる、私。
これじゃあ出てきてくれないかなー、と思っていたら、お兄ちゃんが「あっ」と声を出した。
『手伝ってもらいたいことって何だよ』
訝しげな声とともに正面の茂みからひょっこり顔を出したのは、茶色いうさぎ。私を見た瞬間、耳をピンと立てて目を丸くした。
『って、あれ? 人間? なんでオイラ人間と話せてるんだ?』
おお、成功だっ!
来てくれてたのはこの子だけだけど……ううん、十分だ。
「私の魔法だよ。あ、私はアイラル。こっちはお兄ちゃんのディオールだよ」
『へえ、魔法。人間はすごいことができるんだなぁ。オイラは、母ちゃんにはタオって呼ばれてるけど、好きに呼んでいいぞ』
「うん。それじゃ、タオ君って呼ばせてもらうね」
茂みから出て私の足元へやって来たタオ君に、問題を読み上げた。この時点で風の玉……じゃない、風のドームは小さくしていつもの大きさにする。宝を探す前に疲れてへばっちゃいそうだから。
問題を読むうちにタオ君は、ああ、と何か思いついたようだ。
『青い星はアージャーティの花だな』
アージャーティの花、あってた! お兄ちゃん、すごい!
『で、緑のハートっていうのは、たぶんアージャーティ様の心臓だ』
「えっ!」
「どうしたの、アイ」
あ、そうか。お兄ちゃんにはタオ君の声は聞こえてないんだよね。通訳しないと。
「タオ君が、緑のハートはアージャーティ……女神様の心臓、だって」
お兄ちゃんもぎょっとした表情になる。
だって心臓なんてものを女神様がくれるとは思えない。だいたい女神様って本当に存在するの?
お兄ちゃんとふたり、顔を見合わせて沈黙した。
『おーい。お前らなんで固まってるんだー?』
タオ君が私の足をてしてし叩く。
『よかったらオイラが案内するぞ? こっちだ!』
私たちの返事を聞く前にタオ君は走り出してしまった。
「しょうがない。行こう、アイ」
「う、うん」
もやもやした気分のまま、タオ君の小さな尻尾を追いかけること数分。私たちがやって来たのは……。
「う、わあ……! 何ここ、本当にあったんだ!」
透きとおった水を湛える小さな泉だった。
泉の周りには色とりどりの花が咲き乱れ、木々が茂っているはずのアージャーティの森の中で、なぜか泉の周りだけが陽だまりになっている。まるで木が花畑を避けているようだ。
私は思わず泉に駆け寄った。透明度抜群の水は、太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「あれっ? アイとディオ?」
よく知る声に顔を上げると、なんと鳩の獣人さんを追いかけていったはずのお姉ちゃんが、泉を挟んで反対側に立っているではないか。
「お姉ちゃん? 鳩の獣人さんは?」
「逃げられたのっ!」
お姉ちゃんは大股で泉のこっち側に回ってきた。
まあまあ、そんなに怒らないでよ。お姉ちゃんの迫力にタオ君が怯えてるから。
「でも、これは見つけたよ! ほら!」
そう言ったお姉ちゃんが私の手に何かを落とす。
手のひらほどの青い星、いや、青い星の形をした花を。
お兄ちゃんと、今は魔法を消してしまって話はできないけれどタオ君もやってくる。
「アージャーティの花だ。リスル、どこで見つけたの?」
「あそこ。泉の周りの花畑に咲いてたのを千切ってきた」
こらこらお姉ちゃん。千切ってきたはやめましょう。摘んできた、ね。
そうか。アージャーティの花は日当たりのいい場所に咲くんだから、この泉の周りはまさに好条件なのか。よーく見てみると、お姉ちゃんがいたところには青い花がぽつぽつと咲いていた。
「とにかく、これで青い星は見つけたから、次は緑のハートだね。タオ君にもうちょっと詳しく聞いてみる」
なんだなんだと見上げてくるタオ君にもう一度風の玉を近付けた……時だった。
『……見つけた』
そんな声が聞こえたのは。




