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脱出してみせましょう


 石の羊がなくなった。

 ルーグ君から貰った大事な羊をなくしてしまったことに言葉を失い、頭がくらくらした。今度は紐が切れてしまっただけではない。羊もなくなってしまった。

 そしてスズテカトルがいなくなってしまった。

 スズがいなくては、ドアがどこにあるかわからない。


「ご、めんなさい……。スズ、いなくなっちゃった……」


 この暗闇から出るための最善策を失った。

 羊はどこへ消えたのだろう。やはり、私を襲った誰かが持っていってしまったのだろうか。だとすると、犯人は私の羊がただの石のペンダントではないということを知っていた? 中にスズがいるということを知っていて羊を持ち去った?


「謝ることないわ。脱出の前に、取り返しに行きましょうか」

「でもっ、取り返すなんて。危険がが……」

「アイラルちゃんにとって大切なものなんでしょう? イベールから王都に来る間もずっと身に着けていたものね」


 決まりだね、とミナ先輩が言って、繋いでいた手がさらに強く握られた。


「俺の魔法石は盗られてないみたいだし、弱くてもいいなら火が出せる」


 ミナ先輩がペンダントを取り出して石を握ったのがわかった。ペンダントから赤い火の魔力が漏れ出して、ようやくお互いの顔が確認できるほどの明かりを得た。

 明かりで照らされたウィンディさんの顔がにこっと笑顔を作って、声を聞いたときの何倍も安心した。大丈夫、出られる。羊も取り返せる。


「扉は……あそこね」


 そろそろと歩いてみると、部屋は案外小さかったということがわかった。家具も何もない、石造りのちいさな部屋だ。窓もない。あるのは木の扉だけ。

 ウィンディさんが扉に手をかけるが、鍵がかかっている。

 そうだよ、私達を閉じ込めていた部屋に鍵がかかっていないはずがない。私はまた絶望しかけたが、二人は違うようだ。頷きあってミナ先輩がこんなことを言い出す。


「アイラル、俺があげた増幅の魔力石持ってる?」

「えっと……ありました。これは盗られてないんですね。やっぱりスズが目的だったのかな……」


 ミナ先輩に白い石のペンダントを渡すと、一緒に握るように言われた。ミナ先輩の手に自分の手を重ねるようにして石を握る。そしてミナ先輩は緑の鳥型の石を握った。


「せーの、で風の魔法使って」

「はい!」


 増幅、強化された風の魔力が扉を切り裂く。

 すごい、すごい。

 魔法ってすごい。

 火の魔法を使えば暗闇も照らせる。風の魔法を使えば扉だって壊せた。


「さあ、行くわよ。馬鹿な誘拐犯ぶっ飛ばしに」


 積み重なる木材へと変わった扉を踏みしめて、ウィンディさんがとびきりの笑顔で言った。






「でも、なんで見張りがいないんでしょうね?」


 最初は恐る恐る暗い廊下を歩いていたが、誰もいないことがわかると三人とも廊下の真ん中を堂々と歩くようになっていた。

 と言うか、見張りどころか人のいる気配が全くしない。


「物音や話し声も聞こえないのよね。アイラルちゃんの羊の場所がわからないじゃない」


 それにぶっとばせないじゃないの。

 あれー、本気で悔しそうな顔してますけどウィンディさん、実はそっちがメインの目的になっていたりはしませんよね?

 結構大きな建物のようだ。窓のない、明かりは壁に埋め込まれた発光する石だけ、という廊下を歩き続けること数分。


「足音が聞こえるわ。一人、ね」


 先頭を行くウィンディさんが振り返った。

 と、とうとう、人に出会ってしまった。あわよくば、このまま誰にも出会わずに羊を取り返して脱出!してしまえ、と思っていたのだけど。

 ウィンディさんがミナ先輩に何か耳打ちをした、と思ったら、ミナ先輩の手で目隠しをされた。

 え、え、ミナ先輩?

 その刹那聞こえた誰かのくぐもった呻き声。ミナ先輩の手が離れた時には、白衣を着た知らない男の人が倒れていました。


「ウィンディさん、あの……」

「雑魚ね」


 何をしたの、とは訊けませんでした。

 私、今日一日でウィンディさんの印象が変わった気がしますよ。


「ねーちゃん……。その人に羊の場所聞けばよかったのに、のしちゃってどうすんの」


 それに対してミナ先輩は平常運転。それでも気絶している男の人のポケットを漁って手がかりを探しているあたり、やっぱり姉弟だなーと思います。私は男の人が起きませんようにと緊張しっぱなしなのに。

 

「何も持ってないか」

「でもこっちから来たってことは、こっちに出口があるわけでしょ? それだけわかっただけでも十分じゃない。行くわよ、アイラルちゃん」

「はい」


 この二人と一緒なら、簡単に脱出できてしまいそうだと、この時の私は思っていた。


「ミナ先輩ー? 行きますよー?」

「ん、今行く」


 ミナ先輩が病気だなんて、知らなかったから。



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