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農場にはふわふわがいっぱい!


 二年目の秋を迎えた頃、私は歩けるようになりました。

 姉兄の背中をようやく追いかけることができるようになったのです。


「ねーねぇ」


 言葉もだいぶ上達したよ! ふたりを「ねーね」と「にーに」って呼べるようになった。

 双子三つ子ってお互い名前呼びのほうが一般的だよね、とも思ったけど、心の中とはいえ長い間お姉ちゃんお兄ちゃんと呼んでいたふたりを、いきなりリスルやディオールと呼ぶのはなんだか恥ずかしかったのでやめた。


「ねーね、にーにっ!」


 待ってー。

 私が成長すればふたりも成長するわけで。私が歩けるようになった頃に走り回っていました。よたよた走るんじゃなくて結構全力疾走です。

 

獣人の子供の成長、早すぎやしませんかね? 私が遅いだけなのかな。


「あいに、とうちゃーく」

「とうちゃく!」


 部屋をぐるっと一周して、お姉ちゃんとお兄ちゃんは私の背中にタッチ。私は全力で走ってるつもりなんだけど、こんなに差がでてしまいます。ちょっと悔しい。


「ぱぱのとこ、いこー」


 お姉ちゃんに手をつないでもらって本日の散策スタート。歩けるようになってからは行動範囲がかなり広がった。

 この時間のお父さんはきっと農場だね。農場へレッツゴー!


「りするずるいー、でぃーもっ、あい、でぃーも!」


 うん、反対の手はもちろんお兄ちゃんとつなぐよ。

 羊の獣人であるふたりは成長につれて手首のあたりから白い毛に覆われ始めた。これがふわふわもふもふでほんっとに気持ちがいいの。一日中なでなでしたいくらいだよ。

 お兄ちゃんはツノも伸びてきて、初めて見た時の出っ張りは、ツノだ、とわかるくらいの長さになった。色も黒くなってきて……大人になったら綺麗な黒い巻ヅノになるんだろうな。


 子供達だけで玄関を開けることもできるようになった。

 これはお姉ちゃんの悪知恵で、お母さんが高いところを掃除する時に使う踏み台によじ登って開けるのだ。見つかった時は三人揃って怒られたけど、反省はしないよ! 外に出るの楽しいもん。


「ぱぱぁー」


 それにお父さんは私達の味方だもんね。

 初めて子供達だけでドアを開けて農場に行った時、お父さんは起こるどころか褒めてくれた。そのあとお母さんに説教されてたのは確認済みだよ、お父さん。


「ここだよー」


 声が聞こえたのは家の裏から。

 

「しーっ、していこ!」


 お姉ちゃんが目を輝かせて言います。なるほど、こっそりお父さんに近づいて驚かせる作戦のようです。


「あい、やるー」

「しーっ」


 おっと。お兄ちゃんに怒られてしまいました。人差し指を口の前に立てる仕草、なんて可愛いのでしょう。

 いやいや、今はお父さんを驚かせる作戦に集中しなくては。


 家の裏は鳥小屋。今日は小屋の掃除をしているのか。

 そろり、そろり、家の裏へ回ります。

 うちは羊もどきの羊毛を出荷するのがメインだけど、にわとりに似た鳥の卵も売ってるよ。姿形はにわとりなのに赤いんだよなーあの鳥さん。なんて名前なんだろう。

 それと、そもそも最初は羊の獣人が羊毛売るってどうなんだろ、と思った。でもお父さんもお母さんも気にしていないからいいのでしょう。


 お父さんはー……いたいた。


「ぱぱ、あっちむいてるねっ」

「でぃお、しーっ、しーぃっ」


 お姉ちゃんとお兄ちゃんはとっても楽しそう。

 でも声が大きいからお父さんはたぶん気づいてると思います。気づかないふりをしてくれる優しいお父さん。

 もう一度顔を見合わせてふたりが走り出す。

 

 だ、だから速いよ……!

 私を残してふたりはお父さんの背中に突撃。私はぽてぽて急ぎます。


「ぱぱー、やあっ」


 私が背中に突撃するまで待ってくれてるお父さん、大好きです!


「なんだなんだ?」


 私達の大騒ぎに驚いた鳥さんが羽ばたいて赤い羽が散らばった。わ、鳥さんびっくりさせちゃってごめんなさい。


「おまえらかぁー悪い子達めー」


 そんなこと言いながらもお父さんは笑顔だから、お姉ちゃん達は作戦成功とくすくす笑っている。


「ぱぱぁ、とりしゃん……」


 まだバタバタしている鳥さん達を指差してお父さんの服を引っ張ると、ちょっと待ってなと言って鳥さんを一羽捕まえてきた。

 お父さんに羽の下を持ち上げられた鳥さんは、意外にも暴れたりせず、黒いつぶらな目で私をじっと見つめている。

 もふもふ……っ、胸の羽毛が……! 思いっきり顔をうずめたい……!

 しかしいきなり飛びつくわけにはいかないから、グッとこらえて。


「おなあえはー?」


 くそぉ、呂律が。

 

「ソサ。ソサって種類の鳥だよ」

「そしゃ?」

「そうだよ。お母さんが料理に使ってるたまごをくれるんだ」


 ソサって変な名前。

 触ってみるか?と言われた。もちろん触ります! 触らせてください! その言葉を待っていたんです。


「そっとね、怖がらせないように」


 お父さんが抑えてくれているソサのお腹にそーっと触れてみる。


「ふあふあっ!」


 ソサの触り心地は私が前世で触れてきたどの動物をも超えていた。羽毛は細かくて暖かい。触れた指がそっと羽毛の中に沈むのだ。

 手だけでは我慢できず、ほっぺたを押し当てたらお父さんが笑った。


「アイラルは動物が大好きだな」

「ん、しゅきー」


 これから三人で散策する時には、鳥小屋に行きたいと言おう。それでソサを好きなだけもふもふするんだ。

 あ、でも、放牧地の羊もどきも気持ち良さそうだったなー。あっちを先にしようか。


「……アイラル? おーい、もう満足か? ……まだか?」


 ソサに顔をうずめたまま私が今後のもふもふ計画に考えを巡らしている間、お姉ちゃんとお兄ちゃんが何をしていたかというと。


「そさっ! にげるなー!」


 お姉ちゃんは小屋の隅に逃げていたソサ達を捕まえようと追い回し。


「やだぁ! りする、やめてー!」


 お兄ちゃんはお姉ちゃんから逃げる赤い鳥の集団に追い回されていましたとさ。




ありがとうございます。

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