夏休みだよ!何をしようかな!
王都ネーテリア。
正門から王城へ続くメインストリートを中心にいくつもの通りが網目のように張り巡らされ、道沿いには多くの住宅や店が軒を連ねる。
王都の建造物には特徴がある。一部を除いて、統一感を持たせるために大多数の建物が白い石造りになっているのだ。どこまでも続く白は圧巻だ。ただ初めて王都に足を踏み入れた者は少々苦労するかもしれない。どこを見ても白い建物で、今通って来た道がどの道だったか、わからなくなってしまうからだ。
アイラルです。長々と失礼しました。
えー、以上を踏まえて何が言いたいかと申しますとですねぇ。
「みんなどこー……」
迷子です。
どこ見ても同じような建物ばっかりなんだもん。真っ白なんだもん。だんだん日が暮れてきて、余計に場所がわからなくなってきたんだもん!
北の街と比べて、暗くなってもまだまだ活気に溢れる王都と道を、一人肩を落としてとぼとぼ歩く。
きゅるる、とお腹が鳴って、泣きたくなった。
まだ太陽が真上にあった頃。私はお姉ちゃん、お兄ちゃんと一緒に王都の街へお買い物にやって来ていました。
季節が変わって夏。学園は夏休暇で長期のお休みになりました。
ルーグ君やシトロンちゃんのように家が学園の近くにある生徒は、長期休暇の間は家に帰ります。遠くの街に実家がある場合、里帰りをする子もいるにはいるのですが、学園に残る子が多いみたいです。私達も学園の寮に残る組です。
話を戻すね。
お買い物の目的は、闘技大会で切れてしまった革紐。いつまでもポケットに入れていたら、大事な羊をなくしちゃうかもしれないからね。それに、出せ息苦しい、とスズテカトルがうるさいから。
「アイラル、よそ見しない」
「はーい」
今日のお目付役は、パーティーでも付き添いをしてくれたというミナ先輩。夏休み中、初等生だけでの外出は許されていなくて、先生に買い物に行きたいと言うと、付き添いが出来そうな先輩に頼んでくれる。
ミナ先輩の家は王都にあって、本当は家に帰っているはずなんだけど、学園で研究してるほうがいいとか言って、寮に残っているらしい。
「へへー」
「嬉しそうだね。どうしたの」
「だってミナ先輩かっこいいじゃん! 一緒にお買い物嬉しい!」
お兄ちゃんは思わないの? チーターだよ、チーター。動物の中で最速を……あ、ということは。
「ミナ先輩は走るのが速いんですか?」
かっこよくて足が速いとか、どれだけモテ要素を兼ね備えているの。
期待に胸を膨らませてミナ先輩を見た。けれどミナ先輩はあまりいい顔をしなかった。
「……あんまし得意じゃない」
そうなの? ちょっとあの辺りまで走ってみて欲しかったけど、得意不得意は人それぞれ、だからね。これ以上の追求はやめておこう。
「ほら着いた。ここなら安いし、いろんなのあるだろ」
やって来たお店は、大通りから一本通りを入ったところにある小さな手芸店。統一された白の壁に、お店の前に植えられた花達が鮮やかに映えている。
「あたしも何か買うー!」
真っ先に飛び込んで行ったお姉ちゃんを追いかけて、私達も次々と入店する。
この店にはミナ先輩もよく研究で作っているペンダントの材料を買いに来るんだって。ふむふむ、布や手芸用の材料がたくさんだ。
「革紐はーっと」
お、ここだね。小さなお店だから目的のものはすぐに見つかった。
革紐にもいろんな色があるんだねー。赤、青、黄色……カラフルな紐も可愛いけど、やっぱり私はお母さんが付けてくれたのと同じ茶色が落ち着くかな。
「切れない紐にすればいいのに。僕ならそうする」
興味なさそうに店の中をうろうろしていたお兄ちゃんが、私の手元を覗き込んで言った。
「うーん。今まで革紐だったから、急に変えたら気持ち悪いというか……」
それから、お姉ちゃんは髪をまとめる用にリボンを、ミナ先輩はペンダントのための鎖をそれぞれ買って、手芸店を後にした。
革紐で何か作るのかい、とお店のおばちゃんに言われて羊を見せたところ、手際よく革紐を付けてくれた。ようやく私の首に帰ってきた羊。スズテカトルも『ここなら、まあよい』と言っている。
「買い物は終わったけど。帰るか? それとも……」
「帰らない!」
「他のお店にも行きたいです!」
そんなの決まってるじゃないですか、先輩。レッツ王都を散策!ですよ。
「あたしねぇ、ケーキ食べたい! 美味しいケーキ屋さんがあるんだって。クラスでね、友達が言ってた!」
ケーキ!
「私も行きたい! ね、お兄ちゃんも行こうよ」
「うん、行く」
よし、三人とも意見一致。お兄ちゃんは小さい頃お母さんにあまいのを貰ってから、甘いもの好きだもんねー。
三人そろってキラキラの視線を送ると、ミナ先輩は呆れ顔で頷いた。
やったー! ケーキっ、ケーキっ!
ぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいたのが、数時間前。ケーキ屋に行って、中央広場にある巨大噴水を見に行って、さてそろそろ帰ろうかという話をしていた時だった。
「あっ……」
通り過ぎようとしていた服屋さんの中に、見覚えのある灰色を見た。ふさふさの尻尾を左右に振りながら歩くあの女性は……もしかして。
女性がこちらを向いて、確信した。
リラさんだ。ルーグ君のお母さん。
うわー、リラさん変わらないなぁ。お友達らしき人と話している様子は、相変わらずニコニコして朗らかだし、尻尾は今日ももふもふだ。どうしよう、すごく声をかけたい。
……だが、首を振って自制。
「今日は…………あれ?」
お姉ちゃん達のほうへ視線を戻して、呆然となった。
あれ、れれれ? 羊さんとチーターさんはどこへ行ったのかな?
嫌な汗がぶわっと噴き出す。
そして冒頭へ戻る。
アイラル、人生初の迷子を経験する。
ありがとうございました。




