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待ちぼうけ


 それからもう二日間、大事をとって私は騎士団で過ごしました。

 とは言っても、騎士団の皆さんはバタバタと忙しそうで、私も授業に置いて行かれないかと不安だったので、騎士団の図書室に入らせてもらって自主勉強をしていました。

 でも本棚を眺めて、気になるのは異空間を作る魔法のことや、グリフォンのことばかりで、あんまり勉強ははかどらなかった。あーでも異空間のことも、あんまり分からなかったかな? 調べようにも、関係がありそうな本は昔話やおとぎ話だけなんだもん! 

 ……楽しく読ませていただいたけどさ。






 そして今日は私が学園に戻る日。

 騎士団の団員さんの一人が操縦する馬車で学園の門まで送ってもらった。


「では私はこれで。……本当に大丈夫ですか? 寮のほうまで一緒に行かなくて」

「うん、大丈夫。ありがとうお兄さん。お仕事頑張ってね」


 馬車の馬さん達にも魔法を使って、ありがとうと言うと、『いつでも乗せてやるさ』と男前な返事をしてくれた。

 帰っていく馬車を見送って、さて、と深呼吸。


 もうお昼過ぎだから、初等生はそろそろ授業が終わって帰ってくる頃かな。だったら寮に行けば、ちょうどお姉ちゃん達に会えるかもしれない。

 そんなことを考えて急いで寮に帰ってきたのですが。


「カオン君いないしー……」


 自分の部屋の鍵がないことに気づいて、部屋の外で体育座りです。

 私の鍵、誰が持ってるんだろう。闘技大会でお兄ちゃんに狼のぬいぐるみを預けた時に、荷物も一緒に渡したから……。やっぱりお兄ちゃんが持っててくれてるのかな。

 誰が持ってるにしても、カオン君が帰ってこないと部屋に入れないー。小学生の時に、鍵をなくして家に入れなくなって大泣きした記憶が思い出されるよ。


 お兄ちゃんの部屋に行ってみようか。王国歴史学部はもう帰って来てるかもしれない。

 うん、そうしよう。お兄ちゃんの部屋は同じ階だからね。


「お兄ちゃんー?」


 トントン、とドアをノック。


 ……トントン、もう一度ノック。

 

「お兄ちゃんも帰ってない……」

 

 あとは獣人闘技学部のお姉ちゃん。と、ルーグ君の部屋、何号室か聞いてないや。あとで教えてもらおう。それで突撃しよう。

 えーと、獣人闘技学部は四階……。

 


 そしてその数分後、私はまた体育座りをしています。


「なんで誰も帰ってこないのー……」


 授業が終わって続々と生徒が寮に戻ってくる中、私の姉兄きょうだいと友人達は誰も帰ってきてくれないのです。退屈を通り越して不安になってきたのですが。


『おい、石を握り締めるな。息苦しい』

「ねぇ、スズ」

『スズテカトルだ。縮めるならせめてスズテカトルと呼べ』

「……ねぇ、スズテカトル」


 いいもん、いいもん。誰か帰って来るまで、スズ……スズテカトルに話し相手になってもらうから。


「スズテカトルは異世界を作る魔法について、よく知ってるの?」


 緑の世界で、いろいろ話してくれたよね?


『よく知っている、わけでもないが、知っていた』

「何それ」

『我にも分からぬ。あの空間に引き込まれた瞬間、自分の置かれた状況とこれからすべきことが、頭の中に流れ込んだ』


 それで我はそれに従ったまで、と、ものすごく不機嫌な声が石の羊から響いてきた。

 うぐ、でも契約しないと私もスズテカトルも出られなかったんだし! 最終的には、鉄の檻よりは契約の檻を選ぶ、みたいなこと言ってたじゃん!

 ……あれ?


「鉄の檻……って何のこと?」


 あの場所、出られなかった、とも言っていなかったっけ。


『貴様は何も知らぬのだな。我らは闘技魔獣と呼ばれ、闘技場で育った』

「子供の頃から学園にいたの?」

『ああ。だが、生まれは貴様らがプラントンと呼ぶ街の側だ』


 プラントンと言えば、王都の南に位置する南の四方都市だ。


『母上が狩りから戻って来るのを待っている間に、人間に捕まった。それからは闘技場の檻の中だ。同じ闘技魔獣の風竜も小トカゲの時に連れて来られた』


 スズテカトル、随分淡々と語ってくれるけど、それって。捕まって連れて来られたって。


「それ誘拐じゃ……」

『だからそう言っているではないか』


 しかも今の話じゃ、お母さんと引き離されてる、よね。


『だからその点では貴様に感謝しているぞ。鉄の檻で生涯過ごすのは御免だからな』


 それから猫が喉を鳴らすようなゴロゴロという音が聞こえてきた。これは、機嫌がいいと思っていいのかな?


「スズ……お母さんに会いたい?」

『…………』


 何を言ってこないのは、肯定だと受け取っておこう。

 学園を卒業したら、プラントンに行ってみようか。農場に帰る前にちょっと寄り道ってことで。その時には私も13歳だもん、お父さん達も許してくれるよ。


「風竜、だっけ。風竜さんも」

「おーい、アイラルちゃーん!」


 パタパタと走ってくるのは……カオン君だ! やっと帰ってきた!

 カオン君は私のもとへたどり着くと、にっこり笑った。


「おかえりアイラルちゃん!」


 五日ぶりのカオン君ー!

 普段ならここで飛びつく。飛びつきたい……んだけど、まずは。


「カオン君どこにいたの? 誰も帰って来ないから部屋に入れなかったんだよー」


 しかしカオン君は聞く耳持たずで私の手を取った。


「いいからいいから! ちょっと来て」

 



ありがとうございました。

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