副団長召集
かなり間が空いてしまってすみません!
この先のストーリーが頭の中には2パターンあって、どちらにしようか悩んでおりました。
荒々しくドアを開けて、黄の副団長ジルが入室した。
「おいおい、猫ちゃん。召集に苛ついてるからってドアに当たっちゃいけねぇぜ」
「そうよぉ。皆忙しい中集まってるんだからー」
ジルは自分以外の副団長が既に集まっていたことに舌打ちをして、黄の蛇の細工が施された椅子に座った。
アイラル・アフツァーが闘技大会でグリフォンを消したという報告を受けてから、今日で三日目。団長ジェイは元より、副団長達もほぼ不眠不休で現地調査や情報集めに駆り出されていた。
ジルも今朝早くから学園に、闘技魔獣として使用したグリフォンに異常はなかったか、聞きに行って来たところだ。収穫はあったのだが、とにかく今は眠い。こんな集会をするより先に、とりあえずどこででもいいから眠ってしまいたい。それは他の副団長も同じようで、ゴレムは目の下に隈を作っているし、アシュレイはジルが入って来てから一言も喋らない。
「アシュ、起きろ。ジルが帰って来たぜ」
「……寝てたのかよ」
確かに緑の副団長アシュレイの任された仕事が一番ハードだ。情報収集用の風の鳥を何羽も一斉に飛ばしては、鳥が帰ってくるまでの間に、自分は過去の書類を漁っている。
「ああ、ジル。おかえり。何か新しい情報はあったか?」
「一応な。闘技魔獣のグリフォンが暴れたのは、怒らせるためにぶつけた魔法の加減が出来てなかったかららしい。魔法をぶつけた生徒が自白したってよ」
なるほど、とアシュレイは頷く。そして自分に割り当てられている、緑の鳥の細工が施された椅子に凭れた。
「それでぇ? アシュちゃんは何で私達を呼んだのー?」
サラが大きく伸びをしながら言った。サラもまた、騎士団にない過去の資料を探すために先程まで王都の大図書館に篭っていた身だ。普段から間延びしている声が、眠気が加わってさらにスローになっている。
「……団長にはもう伝えたんだけど。ついさっきアイラルちゃんが目を覚まして、俺のところに何があったのか話しに来てくれたんだ」
他の副団長達の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「アイラル、起きたのか」
「二日も医務室占領しやがって、あのチビ」
「よかったぁー。話しに来てくれたってことはー、アイラルちゃん元気なんだねぇ?」
まだ騎士団にいるから後で会いに行ってあげて欲しい、という旨を伝えると、ゴレムとサラは大喜びをした。
「猫ちゃんも行こうよー。疲れた時にはアイラルちゃんのあの笑顔だよぉ」
「はぁ? 行かねぇし」
ジルだけは微妙な表情をしたが、長く優美な尻尾がゆっくりと左右に揺れていた。なんだかんだ言って、アイラルが運び込まれた時からそわそわと心配していたようだし、恐らく一人で見舞いに行くつもりだ。アシュレイはジルに気づかれないように笑った。
ジルがまた弄られ始める前に、とアシュレイは口を開く。
「それでアイラルちゃんは、グリフォンがどこへ消えたのか知っていた」
ハッと一斉に顔を引き締める。
「契約召喚だ。アイラルちゃんはグリフォンと一緒に異空間へ飛んで、グリフォンと契約して戻ってきたらしい」
すかさずゴレムが手を挙げた。
「ちょっ、ちょい待て! 契約召喚なんざ……」
「ああ、使えるはずがないんだ」
契約召喚。
それは魔獣を異空間へと封じ、使役する魔法。
おとぎ話や昔話の中に度々登場する魔法の一つに契約召喚がある。国を襲う魔獣を英雄が異空間へ封じた話。契約召喚で竜を従えた若者が戦を治める話。親から子へ、子から孫へと語り継がれ、特に男の子は契約召喚に憧れて育つ。
だが、それはあくまで空想上の魔法。実際に契約召喚を行った人物がいた、という資料は残されていない。
その年初めての雪が降った日の次の朝、雪の精霊が枕元にプレゼントを置いていく、という伝承があり、親がこっそりプレゼントを置いているのと同じように、大人になるに連れて実在しないと気づく。それが契約召喚、のはずだった。
知っている者は多いが、誰も使えない魔法。物語の中だけの魔法。
それを七歳の子供が突然やってのけた。
アイラルがグリフォンを消し、さらにそれは契約召喚だった。そんな突飛もない話を聞かされた、赤、青、黄、それぞれの副団長は、話をした本人であるアシュレイに聞きたいことがごまんとあったのだが。
「……また研究所とのバトルだねぇ」
サラの一言でそれらを全て飲み込んで、項垂れた。
「カオンの時みたいなことにゃあ、したくないからな」
「しかも、カオンの時の非じゃないだろ。あのチビが使ったのは契約召喚だぜ」
仲の悪いゴレムとジルも珍しく頷き合い。
「まぁ、ちょっとだけ次の休みが遠退くだけだよ」
アシュレイの言葉に再び項垂れるのであった。
久振りに副団長全員集合!
ゴレムさんは国内最古の図書館を有する東の街へ飛んでいました。




