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グリフォン


「子どもの魔獣でよかったよな。これが成獣で凶暴な魔獣だったら、俺絶対この仕事放棄してるぜ」

「だよなー。ぶつける魔法の加減間違えたら、俺ら食われてるもんな」


 魔獣の檻を移動させながら、係りの男子生徒二人は愚痴る。グリフォンは前の試合の興奮がまだ冷めやらぬようで、鋼の檻に鋭い嘴で噛み付いている。


「あーやだやだ。ほんとなら先輩のする仕事なのに。試合が見たいからって、初心者の俺達に任せるなよなー」

「俺も試合見たかったのになぁ。この試合で魔獣戦は終了だろ? あと一回頑張ろうぜ」

 







 さて、お姉ちゃんはどんな武器を使ってくるのかな。

 とりあえず、いつでも投げられるように風の玉を作っておこう。


 と、いつもの感覚で手のひらに魔力を集めた途端、普段より一回り大きな玉が出来て、驚いてすぐに消してしまう。


 な、なんじゃ今のは。

 ミナ先輩のペンダント、効力が半端ない……!


 これは使えるかもしれない!

 これがあればルーグ君のサポート以外にも——


「アイラル!」

「ぐぇっ」


 いきなり息が詰まり視界がぐるっと回転したかと思うと、わけもわからないうちに背中を地面に思いっきりぶつけた。

 背中痛い! な、何が起こった!?


「あはは! ちょっと割れた!」


 視界には、青空を遮って仁王立ちするお姉ちゃんの顔。


「どけ、リスル!」


 いやああぁぁっ! 私の身体すれすれをルーグ君の薙刀が一閃。お姉ちゃんの姿が視界から消える。

 ちょ、待って待って! 私の上で何が起きているの!


「いきなり割られんなよ」


 ルーグ君に立たせてもらっても状況が理解出来ない。

 私の結界だけが少し薄くなっている。

 さっきまで私の上にいたお姉ちゃんは距離をとってシトロンちゃんの隣にいる。


「リスルがお前の首のとこ掴んで倒したんだ。あいつの動き、めちゃくちゃ速いな。しかも武器が素手とか……」


 そう言って首の後ろの服を引っ張られた。

 ああ、だから息が詰まったのね。なるほど。お姉ちゃんすごーい、私全然見えなかったよー。

 …………じゃなくて! 下手したら窒息するから! 実の妹に容赦ないですね、お姉ちゃん!

 

「早速素晴らしい動きを見せてくれました、リスル・アフツァーさん!」


 放送のお姉さんも煽らないで。お姉ちゃん、獲物を狙う捕食者の目してるから。


「準備運動はこれくらいにしておきましょう! お待たせしました! グリフォンの登場です!」


 私達が入って来たのとは違う、別の入り口から金属の擦れる音。


 来た、グリフォン……!


 鷲の翼を羽ばたかせて滑るように飛ぶグリフォンが、会場に現れた。一瞬で頭上まで舞い上がる。獅子の脚の先の黒い爪が、太陽の光で鋭く輝いた。

 思ったより大きくはない。普通のライオンより少し大きいくらいだ。

 ファンタジー生物を見てもなかなか驚かなくなってきましたよ。順応してきたなー私も。


「かっこいい……!」

「アイラル、見とれてたらやられるぞ」

「わかってるよ。よーし」


 要は、あのグリフォンを避けつつ、お姉ちゃん達を倒せばいいんだよね。

 旋回するグリフォンをチラッと見て、風の玉を作る。今度は加減を間違えない。

 とりあえず様子見。

 二人目掛けて風の玉を投げた——時だった。観客席から悲鳴が降ってきたのは。


「えっ……!?」


 何があったのかと、上を見上げて愕然とした。

 グリフォンが観客に襲いかかり、結界にぶつかっている。行く手を遮られてなお、前に進もうと結界を押す。結界が壊れないと分かると、また旋回をして、違う場所に体当たりする。

 闘技大会に初めて参加する私でさえ、今の状況が普通ではないと気づいた。

 

「お姉ちゃん! シトロンちゃん!」


 離れた場所にいた二人を呼び寄せる。


「何なの? グリフォンがおかしいわ」


 二人とも意外に落ち着いていて安心する。

 グリフォンがこちらに気づいて降りてくる前に、ここから避難したほうがいいだろう。


「あなた達! 急いでこっちへ来て!」


 案内をしてくれたお姉さんが手を振っていた。やはり緊急事態なのだ。観客席でも係りの誘導で避難が始まっている。

 私とお姉ちゃん、そしてルーグ君も無事建物の中に避難する。


「あなたも速く!」


 お姉さんの声でハッと振り返った。

 シトロンちゃんがまだ闘技場の中にいた。


「シトロンちゃん!」

「結界にヒビが!」


 見ればグリフォンがぶつかった結界に無数のヒビが走っている。グリフォンが歓喜に吼えた。鼓膜がビリビリ震えるような甲高い咆哮。

 もう一撃、同じ場所を攻撃されれば結界は完全に壊れてしまうだろう。


「やめなさいっ!」


 風の鷲が宙を駆ける。

 だめだよシトロンちゃん! そんなことしたら……!

 私は反射的に走り出した。お姉さんが止めるのをすり抜けて、シトロンちゃんのもとへ走る。

 ガアッ! とグリフォンが耳障りな声で吼える。風の鷲が背中に命中した。


「シトロンちゃん! 逃げよう!」


 血走った真っ赤な目が、ぎょろりとこちらを向く。

 全然効いてない。それどころかグリフォンはシトロンちゃんを標的と認識したようだ。一度大きく翼を羽ばたかせると一気に急降下した。


 間に合わない。

 間に合わないとわかっていて、このまま突っ込めば自分も爪の餌食になるとわかっていて、それでも飛び込んで行ってしまう私は、自分勝手で自己中ですね。

 悲しむ人がいるなんて考えもしないで。

 

 あ、また私死んだな。


 

 シトロンちゃんに指先が触れた時、グリフォンは数メートルの距離まで迫っていた。



 


お待たせしました!


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