さあ、出番ですよ
まだ心臓がドキドキしてる。
ウィンディさんの弟さんとはいつか会いたいと思っていたけれど、こんなに早く会えるとは思っていなかった。
ミナさん……ミナ先輩、かな。ミナ先輩はチーターの耳と尻尾はもちろん、ウィンディさんと同じで爪が鋭く尖っている。ただ頬の模様はなかった。チーターのアイデンティティなのに……!
男としては少し長めな赤毛、前髪の間からのぞく目は……なんだろう、ちょっと眠そう? とろーんとしています。
一発でぬいぐるみを仕留めた獣人のお兄さんに皆が憧れの視線を向ける中、お兄ちゃんだけは冷静に質問した。
「なんで、魔法使えたの」
はっ! 先輩のかっこよさに気を取られて、スルーしてしまうところでした。
そうだ。ミナ先輩は獣人なのに魔法射的の銃が使えたのだ。あの時の銃には私やシトロンちゃんの魔力は装填されていなかった。
「ああ、これ使っただけ」
ミナ先輩も冷静に対応する。
服の下に隠れていたのは四つの石がついたペンダント。
石は私の指の爪くらいに小さいが、それぞれ、赤い蜥蜴、青い魚、黄色い蛇、緑の鳥を象っている。
「俺の研究分野。魔法を他の媒体に移し替える研究してる。これは試作品」
ほへー。それからも同じようなペンダントが出てくるわ出てくるわ。
それぞれの魔力が単体で閉じ込めてあるものや、一つの石に二種類の魔力が閉じ込めてあるもの。魔力を増幅させるペンダントなんてものもあります。
「アイ、これ貰えば?」
ずらっと並べられたペンダントに目を輝かせていたお姉ちゃんが、その中の一つを私に差し出した。
ペンダントトップは、丸くて白い石。
「魔力ぞーふくだって。アイにぴったり! ねえ、これ貰ってもいいでしょ」
「いやいや、お姉ちゃん。欲しいけど、流石に……これはミナ先輩が作った物だし」
「それは俺使わないから、持っていっていい」
……いいんですか。
え、じゃあ、ありがたく頂いちゃいますよ。後で返してって言われても返しませんからね。
闘技場のほうから歓声が聞こえてくる。
「試合が始まったみたいだな」
「何試合目かなぁ?」
ルーグ君とカオン君が言うとミナ先輩がペンダントを片付けながら教えてくれる。
「この時間だと昼からの試合、第一試合目くらい」
「えっ!?」
複数の声が重なる。私、お姉ちゃん、ルーグ君、シトロンちゃんです。
第一試合目が始まっているということは、もう招集場所に集まっていなくてはならない時間だ。
「お兄ちゃん、このぬいぐるみ預けます! しっかり持ってて、なくさないでね!」
狼のぬいぐるみをお兄ちゃんに押し付けて走り出す。ミナ先輩に挨拶するのも忘れて。
屋台やミナ先輩に夢中になりすぎてたよー! どんな魔獣が出てくるのかも見れなかったー!
招集場所に行くと、係りをしていたお姉さんに「遅い!」と怒られた。
「謝ってる暇があるなら、早く準備して! この試合が終わったら、すぐにあなた達の試合よ!」
控え室に放り込まれる。
「前持って預けてもらった武器はあそこにあるから。今からもう一度、試合のルールを説明しておくわね」
お姉さん、かなり早口だ。ごめんなさい、ほんとごめんなさい。
「入り口のところで先生が結界を張ってくれるから、それが割れたら失格。人間の魔法、獣人の武器の使用はそれぞれ自由。魔力を増幅したり抑制したりする装飾品の使用も自由よ」
装飾品、ペンダントの使用も自由? いいことを聞いた。
ミナ先輩にもらったペンダントを握りしめる。
「まあ、増幅用の装飾品なんて珍しくて持ってる子なんていないけどね。ん、試合が終わったみたいね。ついて来て」
「え、あの、私持ってますけど……」
お姉さんには聞こえなかったようで、部屋を出ていった。
「もしかして、それ。すげぇレアなんじゃねぇの?」
「だよね……。ルーグ君、つけてもらっていい?」
歩きながらルーグ君に首の後ろの金具を留めてもらう。これで私の首にさがっているのは、魔力増幅のペンダントと石の羊の二つになった。
うん、見事にもらったものばかり。
「そうだ。お姉さん。どんな魔獣が出てくるかってわかりますか?」
心の準備がしたいよね。
「魔獣? 見てないの? 今回の魔獣はグリフォン。大人しい魔獣だから、グリフォンに結界を割られる心配はないと思うけど」
グリフォン、か……。私の知っているあのグリフォンだと思っていいのかな。
鷲の翼に獅子の体。怖いけど、見てみたい。
「さあ、試合よ。行ってらっしゃい」
待っていた先生が結界を張ると、お姉さんに背中を押されて、歓声の中に足を踏み出した。
「——試合形式は『魔獣“グリフォン”』!」
い、いよいよだ。緊張する……!
「アイラル・アフツァー、ルーグ・リュコス対シトロン・ヴィエーチル、リスル・アフツァー! なんと午前の試合で素晴らしい活躍を見せてくれたディオール・アフツァー君の、お姉さんと妹さんの登場だ! そしてシトロン・ヴィエーチルさんはあの緑の副団長の妹! これはすごい試合が期待できそうです!」
お、おお。期待されている。
シトロンちゃん、怒らないで耐えて。
「それでは、試合……開始!」
ミナ先輩の口調が定まらず、更新が遅れてしまいました。
これで登場人物は一旦落ち着くはずなのですが……。
更新の度に温かい感想をありがとうございます。みなさんのもふもふ好きが伝わってきます。




