休憩時間にまさかの出会い
観客席に戻ってきたお兄ちゃんにすかさず飛びつきます。
「お兄ちゃんの武器、何なのあれ! 炎の弾がバンッて!」
お兄ちゃんは私をくっつけたまま席に座る。
すかさずシトロンちゃんが帰ってきた二人に飲み物を渡した。
「簡単だよ。これは魔力を弾に変えて打ち出す銃。魔力のある人が触ると装填、で、打ち出すだけ。こんなの別にすごくないよ」
いえ、すごいですよ! 後ろの席の先輩達、お兄ちゃん達のこと絶賛してましたもん! あー惜しいなぁ。先輩達、二人が帰ってくる前に喉が渇いたと言ってどこかへ行っちゃった。
「じゃあ、打ち出したのはソーレ君の魔力なのね? ……どこかで見た炎な気がしたんだけど」
「し、シトロンちゃん! 次の試合が始まるみたいだよ!」
「本当だわ。次の形式はどれかしら?」
あっぶなーい! カオン君が騎士団所属なことはまだシトロンちゃんに言ってないんだよね。私のことを知ってるんだからシトロンちゃんには言ってもいい気もするけど、ここだとルーグ君がいるから。
私の華麗なごまかしを全く聞いていなかった様子の平常運転のお姉ちゃんが答える。
「次はねぇ、天候が変わるやつだって」
おお、気になってたやつだ。今日の天気は雲一つ無い晴天。これがどうなるのかなー。雨とか降るのかなー。
と、そんなことを思っていたのが数分前。
第二回戦の試合形式『天候』は、私の想定できる範囲を超えていました。
びゅうびゅうと音を立てて吹き荒ぶのは真っ白な、そう、雪。『天候“吹雪”』です。
結界のおかげで観客席にまでは雪は来ないけど、見ているだけで寒い! 吹雪の中で闘っている選手の皆さん、申し訳ないけど、運が無かったね。
あ、吹雪が止んだ。試合が終わったのかな。
「ねー、ご飯食べに行こうよ」
シャボン玉のアナウンスが勝者を告げた瞬間、お姉ちゃんが立ち上がる。今すぐにでも走って行きそうな勢いだ。
「まだ二試合目だろ」
「お昼休みまで、あと三つ試合あるよ?」
それをルーグ君、カオン君が引き止めて。
「でもお昼は混むだろ」
「まだ人が少ないうちに食べておくほうがいいかもしれないわね」
本当に初等生か疑わしい発言をする、お兄ちゃんとシトロンちゃんの意見で、今からご飯を食べに行くことが決定する。
見事な連携プレーです。私? 私はみんなの会話を聞いているだけで癒されてますよ。
闘技大会の期間中は学園内のいろんな場所に屋台が立ち並んで、食堂以外でも食事が出来るようになる。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、のような屋台の定番はさすがにこの世界にはないが、さっき通り過ぎた屋台ではりんご飴を売っていた。後で買いにいこーっと。
「ぼーっとするな。はぐれるぞ」
ルーグ君の手が私の手を捕まえる。
私、そんなに危なっかし……!?
「う、わっ、ルーグ君!? て、手が……」
ナチュラルに恋人繋ぎになっておりますよ!?
慌てる私に反してルーグ君は別に何とも思っていないらしく、繋いだ手にさらにぎゅっと力を入れる。
やーめーてー!
「なんだよ。これならはぐれないだろ」
私、今きっと顔が赤い。ルーグ君は首を傾げると歩き出した。
ルーグ君は七歳なんだもんね! これが恥ずかしいという概念がないだけだもんね!
でも、手を繋ぐなんていつぶりだろう。前世でも友達と手を繋いだ記憶がないように思う。
————たぶん、あの時以来だ。
鮮明に覚えているのは、恐ろしいほどの人混み。
「ん」
「……え」
差し出された手を見て私はフリーズした。
「柳井さん、迷子になりそうだから。これならはぐれないよ」
確か、地元の夏祭りだった。
田辺が一緒に行かない?と誘ってきて、悩んだ末に行くことにした。お母さんにそのことを言ったら、なぜか大喜びで浴衣を買ってきた。
「どした? あー、俺と手繋ぐの嫌?」
「そ、そんなことない」
ただ、なんでだろう、と。
学校で会っても会話はしない、手を振ってくるくらいで、あの日以来、一緒に帰ったこともない。それがなぜ突然お祭りなんかに誘われたのだろう。
手を引かれながら、どこか他人事のように考えていた。
「あ、俺あれ食いたい」
「あたし、あれ食べたい!」
パッと田辺がお姉ちゃんに変わった。
はぁ。嫌なため息が漏れる。
私はまた昔のことを思い出していたようだ。それにしても、あいつとお姉ちゃんがかぶるなんて。
はぁ。もうひとつため息。
「ホットドッグか。いいじゃん、それにしようぜ」
するりとルーグ君の手が離れていった。
むー……あっ、べ、別に残念とか思ってないよ!? ちょっと恥ずかしかったくらいだし!
「おばちゃん! おっきいのちょうだい!」
「リスル。無理言わない」
六人でホットドッグを頬張りながら、他のお店も見て回る。行儀が悪い? いいの、いいの。気にしない。
ん! あそこのお店!
パンッ、パンッ、と気持ちいい音が聞こえてくる。あれは……射的だ!
「みんな! あれやろうよ! 射的!」
カオン君が目を凝らす。
「魔法……射的?」
魔法? この距離からじゃ私にはよく見えない。同じく人間のシトロンちゃんと一緒にその屋台に向かった。
「おじさん、魔法射的ってなぁに?」
「おう、お嬢ちゃん達やってみるか? この銃に魔力を込めて、並べてある景品めがけて撃つ。それだけだ。獣人の場合は、友達の魔力で撃ってもいいぜ」
「やる!」
お金を払って、おじさんに銃を渡してもらう。ぬぬ、結構重たい。
これで魔力を込めるんだよね。教えてもらいながら、銃に魔力を流してみる。白かった銃が、薄い緑色に変わった。よし、装填できた!
さて、どの景品にしようかな。お菓子もある、おもちゃもある。アクセサリーなんかも置いてある。
一通り目を通して、一番上の段で目が止まった。
「あれにする!」
「あれはなかなか難しいぜー? 遠いし重いからな」
それは、灰色ボディーの狼のぬいぐるみ。むすっとした顔がどことなくルーグ君に似ている。
よーし、あれに狙いを定めて……。
みんなが私に注目して静かになる。
今だ!
ポシュッ、と情けない音と共に飛び出た風の弾が狼のぬいぐるみに向かって飛んでいく…………と思いきや、ぬいぐるみに当たる前に弾は空気に混じって消えてしまった。
あれ?
「なんでー!?」
何今の! この銃、不良品!?
「お嬢ちゃんの魔力が弱かったんだな。魔力の量に応じて、弾の強さが決まるからな」
先に言ってよ!
ぬいぐるみ欲しかったよー。しょぼーんだよー。
しょぼくれる私を見兼ねたシトロンちゃんが、今度は私がやるわ、とぬいぐるみに挑んだが、シトロンちゃんの魔力は強すぎて狙いが定まらず失敗。屋台の壁に穴を開けた。
「カオン君は?」
この中では一番安定した魔力のはず。なんてったってサラさんの魔力なんだから。
けれどカオン君は声を潜めて言った。
「さっきの試合で魔力使い果たしちゃったんだー。サラ姉に補充してもらわないと」
私達の魔力がどれも使えないということで、お姉ちゃんお兄ちゃんルーグ君は参加出来ず。
ぬいぐるみー……。
「あれが欲しいのか?」
諦めきれず狼のぬいぐるみを見つめていた私に、誰かが声をかけた。
「貸してみ」
その人が誰なのか私が確認するより早く、銃を取ってぬいぐるみを射ち落とした。
頭にぬいぐるみを乗せられる。
「ほれ」
ぬいぐるみを乗せたまま、私は呆然とその人を見た。瞬間、その容姿に釘付けになる。
赤い髪と、チーターの耳と尻尾を持つ、男の人。
“弟がいるわよ”
“十七歳なんだけど学園にいるから、もしかしたら会えるかもね”
「あの……お名前を……」
「んー? ミナ、だけど。……名字? 名字はゲシュウィント」
シトロンちゃんとルーグ君以外がハッと反応する。
この人! ウィンディさんの弟さんだ!
登場人物、多いですね…。
最後から二行目、
シトロンちゃんとルーグ君以外が…
でした。編集しました。すみません。




