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一歳になりましたけど…


 2回目の春がやって来て、私達三つ子は一歳になりました。どうやら私たちが産まれたのは冬だったようです。


「まーまっ! でぃー、りしゅのー!」

「ちあうー!」


 一歳になるとお姉ちゃんお兄ちゃんは歩けるようになって、言葉も増えてきました。

 ちなみに今の会話は、お兄ちゃんがぬいぐるみを持っていたところ、お姉ちゃんに「ディオが私のぬいぐるみとったー」と言われて必死に、違う! と弁解しているところ。


「でぃ、あいと、あしょぶー」


 お兄ちゃんが私のほうへ、ぽてぽて歩いてきてくれました。

 危なっかしいけどかわいい!

 羊の獣人だからか、ふたりの髪の毛はのびるのが異常に速くて、今ふわふわ感が倍増している。お母さんが散髪するまで、このふわふわで癒されよう。


「りしゅも! りしゅも、あいとあしょぶ!」


 わっ、お姉ちゃんまで。

 二人ならんで私の前に座らないでー。こんな至近距離であなた方の笑顔なんて見たら、なんかもう、かわい過ぎて鼻血出そうだから!


「あうあうー」

「あい、どーちたのー?」


 うう、情けない……。

 上のふたりが歩けるようになったというのに、実は私はまだ立てないし、単語すら話せません。

 お母さんは獣人と人間の成長には差があると言っていた。でも、普通は一歳になると多少は話せるもんじゃないのかなー。保健の授業で習った気がするんだけどなー。

 遊んでくれて「ありがとう」も言えないの辛いよ。


「あい、りしゅの、うしゃぎしゃん。どーぞー」


 お兄ちゃんと取り合っていたぬいぐるみをお姉ちゃんが私のお膝に乗せてくれた。

 お姉ちゃん天使!

 むっと頬を膨らませるお兄ちゃんも同じく天使!


「ありあおー」


 む、今ちょっとそれっぽかった?


「まーまっ! あい、ありあとー、いった!」

「ありあとーいった!」


 ふたりもすかさずお母さんに報告。……って、置いていかれた。


 ぬいぐるみのうさぎをだっこして、ぼんやりふたりが帰ってくるのを待っているうちに、ふと、あの小鳥のことを思い出す。

 あいつ獣人に転生させてくれるっていったのに。下っ端にはこれが限界ってか。獣人の王国だなんて言いながら、私とお父さんは人間だし。

 獣人だったら姉兄あねあにと同じ速度で成長できてただろうに。もっとお話しできてただろうに。


「あいー」

「あーいっ!」

「もうすぐご飯にするからアイラルもおいで」


 ふたりがお母さんと一緒に戻ってきた。

 お母さんが抱っこしてくれて台所へ。お姉ちゃんとお兄ちゃんはその後ろを追いかけてくる。


 でもまあ、いつか追い付けるはずなんだし、怖い怖いと言われていたあの頃よりは、今が幸せだからいっか。

 お母さんの抱っこも独占だしね!

 

「はい、到着」


 落ちないように手すり付きの椅子に座らせてもらう。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんも椅子に座らせると、お母さんはお父さんを呼びに出て行った。お昼までは仕事で農場にいるのだ。


「ごあんー……」


 今日の昼食はお母さん特製のサンドイッチ! パンまでお母さんの手作りだよ。挟んである野菜はお父さんが農場で育てたんだ。

 と言っても私達はまだ離乳食なんだけど。

 あ、お兄ちゃん。こっそりサンドイッチに手を伸ばして……。


「めっ!」


 お姉ちゃんに怒られた。

 羊の耳がしゅん……と垂れる。

 それが可笑しくて、ふたりを見てにこにこしていたら、お姉ちゃんが嬉しそうに言った。


「あい、にこにこー」


 そうしているうちに両親が帰ってきてご飯になった。


 お父さんは私が農場の動物を好きなのを知っているから、ご飯を食べながらいろんな話をしてくれる。

 サッシャ君がご機嫌斜めだったこと、羊もどきが一頭柵を越えて大変だったこと。

 お話を聞いてると、私も外に行きたくなってきました。問題は、さて、どうやってお父さんにそれを伝えるか。

 

「りしゅも、おしょと、いく!」


 なんとお姉ちゃんが理想のタイミングでおねだりしてくれました。

 我が子大好きなお父さんはもちろん即了承です。

 お姉ちゃん、ありがとう!


「やぁー……」


 ひとり不満気なのはお兄ちゃん。

 お兄ちゃんはお外デビューしたあの日から、なんとなくサッシャ君が苦手みたいです。お姉ちゃんの手をぺろりとしたのを見てたからかな。もう、そんなんじゃ仕事手伝えないよ!

 でもお姉ちゃんに負けるのは嫌みたいで、離乳食を飲み込んで、元気に宣言します。


「でぃ、も……さっしゃ……なでなでしゅる!」


 だけどね、お兄ちゃん。椅子の上の尻尾の先が震えてるの、私は見逃さないからね。


 ご飯が終わって、お母さんがお片づけをしている時に、お父さんが私達を外に出してくれました。

 お姉ちゃんは一目散にサッシャ君のもとへ走ります。舐められた本人は怖がっていない不思議。


「あうもー」


 アイもー!

 お父さんスピードアップお願いしますと抱っこの腕をぺしぺし叩く。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんがアイって呼んでくれてるし、アイラルよりも文字数少ないからこれなら発音できるかなと思ったんだけど、難しいなー。

 こっそり練習なんかしてみたほうがいいのかな。


「さっしゃ!」


 柵の高さはくっついた時にちょうど目から上が出るくらい。

 低過ぎる気もするけど、サッシャ君が逃げたという話は聞かないからいいのだろう。

 頭のいいサッシャ君は私達が来ると、触れる近さまで歩いて来てくれる。


「ディオールもおいで」

「や……でぃは、やだ!」


 あらら、お兄ちゃんは柵から数メートルでギブアップみたいです。でも玄関から出てこなかった時を考えると進歩だよ!


「さっしゃー」


 柵の上にのぞく頭をサッシャ君が鼻でつつくと、お姉ちゃんはくすぐったそうに首を縮める。


「あうー、あうもー」


 私が鼻タッチするとお返しだと手のひらを舐められる。ふふ、くすぐったい。


 お父さんがサッシャ君に乗っているところを何度か見たことがあります。白い馬に乗ったお父さんはかっこよかった。あ、お父さんはいつもかっこいいけどね。……てデレデレ顔じゃない時は。


 お姉ちゃんが乗りたいと言った時、まだ早いと返していたから、乗馬ならぬ乗ユニコーンが出来るのはもう少し先になるね。


 いつかひとりで乗れるようになるかなー。幼稚園生くらいに成長したら一緒に乗せてくれないかなー。


「でぃー、かあいいよー」

「やぁだ! なの!」



ありがとうございます。

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