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この結末は想像していなかった


 とは言っても、応用魔法学部な私達がすぐに魔法をマスター出来るはずもなく。


「この魔法に必要なのは想像力だよ。空を飛んでる小鳥を思い浮かべて……あ」

「消えちゃいました……」


 私は小鳥を想像しようとして魔法のほうの集中が途切れて、風が消滅。


 パァンッ!


「シトロン!?」


 シトロンちゃんはとりあえず風の玉を作る段階で、何度も爆発を起こしています。

 私との練習では風の玉までは二回に一回は成功するようになってたんだけどな。

 お兄さんが先生ということで緊張しているのかもしれない。


「見本がいたほうがいいかもなー」


 アシュさんは本部の建物の中に駆けていった。

 見本? 小鳥を連れて来るってこと? でもなんで室内に?


「でっ、出来たわ! 風の玉!」

「シトロンちゃん、すごい! あとは小鳥を想像して……」


「連れて来たぞー」


 パンッ!

 あー……。

 なんというタイミングで、アシュさん。シトロンちゃんはじとーっとお兄さんを睨む。せっかくシトロンちゃんが会う気になったのに、また好感度ガタ下がりじゃないですか。


「……で、なんでゴレムさんがいるんですか」


 シトロンちゃんがつっこめる状況じゃないので、私が代わりに気になっていたことを尋ねる。

 アシュさんの斜め後ろで「よぉ、アイラル」と手を振る鷲の獣人。

 見本を連れて来ると言っていましたが、まさか、まさか、それは流石にないですよねー。


「なんでって、小鳥の」

「小鳥? アシュ、何のことだ?」


 ……アシュさん?


「あきらかにゴレムさんには何の説明もしてませんね!? それにゴレムさんは断じて小鳥ではありません!」


 ぜえはあと肩で息をする。

 心の中に留めておくつもりが、思いっきり叫んでしまった。

 だって。だって、ゴレムさんは勇猛な白頭鷲さんであって、小鳥のジャンルに入れてはいけないと思うのですよ! 翼だって、バサーッて、広げたら私を包み込めるほど大きいのだ。


「いいですか、アシュさん。鷲は猛禽類と言いましてね……」


 ――小鳥とは違う。一括りにするな。ということを練習時間を削ってまで説き伏せた。

 

「お、俺は気にしてないからよ。そのへんにしとけ、なっ?」


 と、ゴレムさんに止められるまで。

 ゴレムさんがそう言うなら。最後に、わかりましたか、とビシッと指を突きつけて終了。アシュさんが顔面蒼白だったが気にしない。


「俺にはなんのことだか、いまいちわかんねえけど……それより、この集まりは何なんだ? シトロンまで来てんじゃねえか」

 

 シトロンちゃんはぺこりと頭を下げる。にっこり笑顔まで浮かべて、アシュさんと話す時と、まるで違う態度なんですけど。


「こんにちは、ゴレムさん。兄がお世話になってます」


 他の副団長さん達には優等生モードなんだね。


「兄さんに魔法を教えてもらってるんです。闘技大会があるから、宿題で魔法を習ってくるように言われて」

「ほおー。なるほどな。にしても、シトロンは相変わらずしっかりしてるな」


 ゴレムさんになでなでされても、控えめな笑顔を崩さない。わたしだっだら大喜びで騒いで翼に飛びつくだろう。いいなー私もなでなでされたいなー。

 羨ましいな、が表情に出てしまっていたのかな。アイラルもよく来てくれたな、と頭に手が置かれた。ふわわー!


「私、ゴレムさんに惚れてしまいそうです」

「アイラル、それは大袈裟じゃねえか?」


 おっとっと。本来の目的から脱線してしまうところでした。

 無言で突っ立っていたアシュさんに駆け寄る。


「そんなわけで、ゴレムさんを見本にすることは出来ませんが、練習の続きお願いします」


 ハッと我に返ったアシュさんは自分も魔法を使って緑の小鳥を作った。

 ふむ。やっぱりいつ見ても綺麗だ。綺麗でちょこちょこ動いて本物の小鳥と変わらないのだけど、透けているから、羽の質感をイメージしにくいのが弱点だよねー。

 小鳥じゃなかったらできるかなー。シトロンちゃんにも見本の小鳥を見せに行ったアシュさんを呼ぶ。

 

「アシュさん。この魔法、小鳥じゃなくても……」


 作っていた風の玉が揺れた。

 手のひらをぺちぺちと叩かれる感触。視線を落としてぎょっとした。後ろ足でかしかしと毛づくろいする魔獣が手のひらにおさまっていた。

 え。私今日、プキ連れて来てたっけ? プキって緑色・・だったっけ? ……透けてたっけ?


 深呼吸。

 連れて来てない。茶色。透けてない。ということは。


「で、出来たー!!」


 なんかよく分からないけど成功してる!


「ほんと!? アフツァーさん!」


 魔法が破裂する音。シトロンちゃんが駆けて来る。


「意外とすぐ出来たなー」

「見せてみろ、アイラル」


 アシュさんとゴレムさんもやって来る。

 ででーん。どうだ! 小鳥じゃないけど、ちゃんと動くんだよ!

 緑のプキは鳴きこそしないが、本物のプキと変わりない動きで私の肩によじ登る。

 シトロンちゃんが首を傾げた。


「……なんでプキ?」

「わかんない。他の動物じゃ出来ないのかな、て思ってたらプキがいた」


 無意識に、その瞬間にプキを思い描いていたのかもね、とアシュさんは言った。ふむ、そうなのか。そうなのだとしても、違ったとしても、成功したのだからどっちでもいいや! やったー! 


「消すときは、こう、魔力を意識しながら、霧が消えるように」


 言われたとおりに霧を想像すると、緑のプキは霧になって消えた。おおー! 一回で出来た! 小鳥は作れなかったのに、プキだったら消すところまで通して出来ちゃったよ!


「シトロンも頑張れよ」

「はい。ありがとうございます。ゴレムさん」

「私も応援してるからね、シトロンちゃん!」

「ええ、頑張るわ」


 今回はアシュさんがいたけど風の玉までは成功。その調子!

 シトロンちゃんも小鳥じゃなくて他の動物を想像してみるといいんじゃないかな。そうだなあ、シトロンちゃんだと……


「シトロンも鳥以外なら出来るんじゃないか? シトロン、犬好きだろ?」 


 なに! それは初耳ですな。

 でもアシュさん、あんまり近づき過ぎると……。シトロンちゃん、ものすごく嫌そうな顔してますし……。


「ほら、騎士団に来てた頃に迷い込んできた子犬を、お兄ちゃん飼いたい! ……って」


 あわわ、シトロンちゃんぷるぷるしてるよ!? アシュさん、そろそろ逃げたほうがいい気がします!


「あの頃のシトロンはどこに行くにも、俺について回って」

「うるさいわねっ!」


 風の玉を手にしたままのシトロンちゃんが叫ぶ。

 途端、風が形を変える。風の、鷲だ。風の鷲が宙高く舞い上がる。

 シトロンちゃんは何が起こったのかわからないようだ。私もわからない。何あれ!? 魔法!?


「アシュ逃げろ!」


 ゴレムさんが言いながらアシュさんの腕を引く、そして翼を羽ばたかせて宙に飛んだ。私達の上に大きな影が落ちる。風の鳥はアシュさんがいた場所の地面を抉り、花壇に突っ込んで止まると、霧になって消える。

 崩れた花壇から土煙が上がる。

 ゴレムさんが降りてきた。


「おー、こりゃ団長がお怒りになりそうだ。アシュ、早めに謝っといたほうがいいぜ」

「俺が悪いわけじゃ……いや、俺が悪いか」


 地面に降りたアシュさんは、大きなため息をつく。

 あのジェイさんのお説教か……。考えたくもない。アシュさんご愁傷様です。

 シトロンちゃんに手を引かれる。


「帰るわよ。アフツァーさん」

「でも花壇の修復……」

「兄さんにやらせとけばいいわ。副団長なんだから魔法で何とかするでしょ。それに私も」


 くす、と笑ってシトロンちゃんが魔法を使う。風はさっきと同じ鷲になった。


「新しい魔法を一つ覚えたし」


 鷲はアシュさんの上を飛んでいった。

 さっきまで魔法を爆発させていたのに。もう使いこなしちゃってるよ。シトロンちゃん、こわー。


「シトロン! 戻って来い!」


 鷲を避けて尻もちをついたアシュさんが手を振り上げる。

 それを無視してシトロンちゃんは騎士団を出た。

 アシュさん、ゴレムさん。ごめんなさい。後は任せます。その場に残ってジェイさんのお説教に巻き込まれるのはごめんです。


「この魔法なら闘技大会でも活躍出来るわね!」

「あ、はは……闘技場を壊さないようにね」


 嬉しそうだなー、シトロンちゃん。

 うーん。友達が強敵になってしまいました。




シトロンちゃんのペアを誰にするか迷ってます。


感想がいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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