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狼とわんこと


 こんにちは、アイラルです。

 えー、ただいまひっじょーに困ったことになっております。


「どけ、カオン」

「やだ。ルーグがどけるの!」


 寮の食堂で朝ご飯を食べようとしたところ、私はカオン君と行動していたのですが、ルーグ君とも出会ってしまいました。

 ここまではいいのです。朝から愛しの獣人sに会えたのはとても嬉しいことです。


「アイラルの隣は俺だ!」

「僕だよ!」


 私の頭上を飛び交う声。

 そう。先程から愛しの獣人sは私の隣の席を巡って激しい言い争いをしているのです。

 ううう、それ以上ヒートアップしないでー! みんな見てるよー! その中に例のコクハク騒動の子達もいるんだよー!

 だいたい、四人掛け席で私の前の席も空いてるんだから、そこでいいんじゃないかなあ?


「お前は部屋も一緒なんだろ! だからここは俺の席だ!」


 ルーグ君が怒鳴り。


「でも僕の方が早かったもん!」


 カオン君が言い返す。


「早くご飯食べませんか……?」

『プキ、お腹すいた』


 朝ご飯を前にお預け状態な私とプキは、どっちがどこ席に座ろうと、どっちでもいいのですが。

 

「じゃんけんで決めよう? そうしよう?」


 私の故郷ではこういう場面での定番だったじゃんけんを提案すると、二人は暫し睨み合って、従った。



 そして今、カオン君が私の隣にいるのである。

 嬉々とした表情でご飯を口に運ぶカオン君と、死にそうな顔と言っても過言ではないルーグ君。

 たった一食の間の席決めじゃないか。私にはわからない……。


 それから食事の度に二人は競い合うことになる。アイラルの隣は俺だ僕だと日に日に激しくなる争奪戦に、第三者に助けを求めたことは一度や二度じゃない。

 

「面白そー! あたしも一緒に食べたい!」

「え、知らないよ。そんなこと」


 RさんもDさんも助けてはくれませんでしたけどね!


 頼みの綱は! と、いうことで、本日はシトロンちゃんに相談してみたいと思います。


「……そんなわけでシトロンちゃん助けてください!」


 窓が元通りになった教室でシトロンちゃんに両手を合わせたら、じっと私を見て瞬きをした。なんだい、その反応は。


「アフツァーさん……」


 そしてため息。だからなんなんだい、その反応は! 子供が達観したようなため息をついてはいけません!

 私だけには素のシトロンちゃんで接してくれるようになって、嬉しく思っていたところだったのに。


「私に言えるのは一つだけよ。ソーレ君と獣人君がかわいそう」


 へ?

 ごめんなさい、シトロンちゃん。意味がわからないです。

 二人がかわいそう? というか、喧嘩に巻き込まれて困っているのは私のほうなんだけど。

 さっさといなくなってしまったシトロンちゃんを見送った私は、一人ぽつんと残された。






 かわいそう。かわいそう、ねえ?

 その日の晩ご飯の際。おなじみの争奪戦を繰り広げる二人をじっと観察してみた。


 やっぱりかわいそうなのは、私な気がする。


 今回はルーグ君が勝って、私の隣。負けたカオン君は……しょんぼりしていて、確かにかわいそう、ではある? そういう意味なの? シトロン先生。


「アイラル。……なあ、アイラル?」

「は、はい? ごめん、何? ルーグ君?」


 だめだ、だめだめ。どうも私は考え事をしていると、話が頭に入ってこないようだからね。


「今度、闘技大会あるだろ」

「うん。初めての行事だから楽しみなんだー」


 闘技大会とは、ネーテリア学園で行われる全校生徒参加型の行事のこと。年二回、春と秋に開催され、十日後に行われる闘技大会は春の部だ。

 生徒間の親睦を深めることと、魔法や闘技技術の向上を目的としていて、五日間は開催期間として授業がないし、全学部が参加するし、でお祭り騒ぎになるんだとか。


「それで、なぁに? 闘技大会がどうしたの?」

「お、おう。あの、アイラル、お、おおおお……俺と……」


 え、何?

 口の中でもごもご言われても、聞き取れないよ。

 それにルーグ君、顔が赤い。


「ん?」

「わあっ!?」


 なんだよー、と顔を寄せた途端、ものすごい勢いでルーグ君が飛び退いた。机の上のコップが倒れて、中身が溢れる。ジュースをほとんど飲んでいたことが多少の救いだ。


「アイラルちゃん、タオル」

「ありがとう」


 机の上に収まってくれたジュースは、カオン君に渡されたタオルで拭き取れた。

 

「カオン君、このタオル……」


 台拭きじゃないからカオン君のだよね?


「いいよー大丈夫」


 洗ってくるねー、とほわほわした笑顔で言って、流しのほうへ歩いて行った。

 私はまだ身体を引いたままのルーグ君に向き直る。


「驚かせちゃったのは私が悪かったけど、カオン君が帰ってきたら、ルーグ君もお礼言おうね」


 だが、ルーグ君は答えない。気まずそうに私から目を逸らす。


「あ、闘技大会。さっき、なんて言おうとしたの?」

「もう、いい」


 ガタン、と大きな音を立てて立ち上がる。「何が?」と聞き返す前に、ルーグ君は自分の食器を持って足早に行ってしまった。

 帰ってきたカオン君が首を傾げる。


「ルーグ、どうしたの? もう食べないのって聞いたのに、何も言わないで行っちゃった」


 いやー、私に聞かれても。

 まだ食べ終わってないのにお皿を返却してた。


「私が驚かせたからかなぁ?」

「ふうん。……それより、アイラルちゃん。ルーグと闘技大会出るの?」

「え、何が?」


 闘技大会に? 出るって、何が?

 カオン君は目をぱちぱちさせる。


「闘技大会は全員参加だよ? 獣人と人間のペアで出場するの。アイラルちゃん、ルーグと一緒に出るんでしょ?」


 ああ、また……。とことんルーグ君と仲悪いなあ。

 ぷう、と頬を膨らましたわんこに癒されながら、私は記憶を巻き戻す。


 お、おおおお……俺と……。


 ルーグ君がもごもご言って、私が聞き取れなかった、あれか!

 ど、どうしましょう。つまり、ルーグ君が立ち去ったのは、緊張マックスでお誘いしようとしたのに、私がYesもNoも言わず、しかも、ジュースの件でカオン君を見習え的なことを言ってしまったからか。

 そりゃあ、怒るよね。


「ルーグ君探して……あ……」


 むっすりしたカオン君と目があった。


「うん、僕もルーグ探すね」


 ハッと表情を変えて笑ってみせたカオン君に、ツキンと胸が痛んだ。

 そうだよね。あれだけ私の隣を取り合っていたのだから、カオン君も私とペアとやらになりたかったはずだ。

 ルーグ君を見つけてしまえば、ペアになれなくなる。


 変わらずにこにこしているカオン君。


“ソーレ君と獣人君がかわいそう”


 シトロンちゃんが言ったのは、こういう意味だったの?


「行かないのー?」

「うん…行く。行こう」


 少し気付くのが遅かったんだ。

 

 


狼とわんこ

皆さんどっち派なんでしょう。


ありがとうございました。

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