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嫌い


※シトロン視点

「嫌い! 大っ嫌い!」


 枕に顔をうずめて、声が響かないように叫ぶ。投げ出した足でベッドをバタバタ蹴った。


 兄さんなんて大嫌いよ!

 あの人のせいで私は! 兄さんが副団長になんてならなければ、私は今ほど失望されていなかった! 比べられなかった!


「ううー……」


 だけど、確かに兄は天才だ。それは十分に理解している。

 遊んでもらっていた頃の記憶は、小さ過ぎて覚えていないが、周りの大人が兄を持て囃していたのは知っている。私は常に兄に隠れてしまっていた。隠されてしまっていた。

 悔しかった。

 もっと私のことも見て欲しかった。

 兄に言うように、すごい、と褒めて欲しかった。


「嫌いよ……」


 だけど、全部が兄のせいではないことくらいわかっている。

 兄さんは私に魔法の扱いを教えてくれた。騎士団に連れて行って、他の副団長にも魔法を教えるよう頼んでくれた。どれだけ魔法で物を壊しても、怒ったりしなかった。

 兄さんは優しかった。優しかったあの人の手を振り払ったのは私だ。



 でも。なんで私だけ、こんな。



 もやもやする黒い感情を消してしまおうと首を振る。

 泣いたせいで視界は膜が張ったかのように霞んでいた。

 仰向けになって天井を眺める。


 同じ部屋の子がいなくてよかったわ。こんなところ見せられない。


 自分は優等生なのだから。


 でも、あの人達にはばれてしまった。


「アイラル・アフツァーさんと……カオン・ソーレ君……」


 アフツァーさんも風の属性だったな……。

 ああ、A型、羨ましいな……。

 ううん、もしA型だったとしても、私はきっとがっかりされていた。


 はあ、と溜め息をついた時だった。



「シトロンちゃん、いる?」



 ドアが数回ノックされた。

 慌てて跳ね起きて、濡れた頬を思いっきり擦る。


 どうしよう、泣いていたのがばれる。


「シトロンちゃん。アイラルです」


「……アフツァーさん?」


 ほっと胸を撫で下ろしたが、見られたくないことに変わりはない。目は真っ赤だし、暴れたせいで髪はぐしゃぐしゃだ。

 ドアを開けずに、どうしたものかと迷っていると。


「わ、私ね。どうしてもシトロンちゃんのこと気になって……。私、なんにも考えずに魔法のこと聞いちゃって、その……ごめんね」


 ——なんでアフツァーさんが謝るの。


 優等生ぶって皆を騙したのも、ガラスを割って授業を出来なくしたのも! 全部私なのに!


「シトロンちゃんに話したいことがあるの。私の部屋にいるから、落ち着いたら来てね。317号室だから」


 アフツァーさんの声を聞いて、なぜだか、また涙がポタポタ落ちてベッドを濡らした。

 

 同級生のはずなのに、ひどく安心する声色だった。寮に入る前、私を抱きしめてくれた時の、お母さんの声に似ている。


 ひとしきり泣いた後、私は部屋のドアを開けていた。



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