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授業が始まります


「アイラルちゃんはどっちが好きなの?」

「……はい?」


 アイラルです。絶賛、クラスメイトに囲まれ中です。

 こんなに話しかけてもらえるなんて初めてだね! やったね! ……じゃなくて。


「カオン君と、さっきの狼の獣人だよぉ」

「ねえ、どっち?」

「コクハクしてたもんなー!」


 ど、どうやら、あらぬ誤解を受けているようです。

 さっきの沈黙タイムが告白と勘違いされてしまったみたい。ルーグ君が「黙れ!」と真っ赤な顔で怒鳴ったのが更に怪しいと思われてしまったようだ。


 どうやってここから逃れよう……。


 囲まれてしまった私は席に座ったまま動くことができない。

 カオン君に助けを求めてみても、彼も同じような状況だ。どうしようもない。

 ルーグ君が授業に遅れるという理由をつけて去っていったのが数分前。ああ、早くこのクラスの授業も始まってくれないでしょうか。


 いや、こんな形だけど、怖がられずクラスに馴染めてちょっと嬉かったりはするのだけど。でも、ほんのちょっとだから。どうしよう、のほうが勝ってるから。



「ちょっと。その子困ってるでしょ」



 ……へ?

 

 ざわざわ騒がしかった教室の端から鋭い声。怒涛の質問がピタリと止んだ。


「もう授業が始まるわ。静かに座ってなさい」


 見ると後ろのほうの席に座っていた女の子がこちら――正確には私を囲んだクラスメイト達――を睨んでいる。


「ちぇー……」

「ケチー」


 するとあっという間に私達は解放されたではないか。残された私達はその女の子をぽかーんと見つめる。

 黒い髪を腰まで伸ばした、凛とした女の子。通常の入学は六歳からだから年下のはずなんだけど、髪と同じ黒い目は切れ長で、私よりも遥かに大人びて見えた。


「えっと……」


「皆さん、おはようございます」


 あ。

 お礼を言おうと立ち上がりかけたところで、運悪く担任の先生と思われる女の人が入ってきてしまった。

 黒い髪の女の子は何事もなかったかのように前を向いて座っている。


「席は自由なので好きな席に座ってくださいねー」


 ……自由か。


 生徒はざっと見て二十人ほど。対して机が多過ぎる気がする。

 他の学部だったら満員なんだろうな……。


 チラッと黒い髪の女の子のほうを確認する。

 隣の席、よし、空いてる。


「あそこ。二つ席が……あ、アイラルちゃん?」

「カオン君、行くよ」


 護衛というからには隣にいないといけないのだろう。でも大丈夫、あの子の側も二つ空いてるから。


「隣、いいかな?」


 おろおろするカオン君を引き連れて、返事も待たずに、隣の席に座った。最後列に左から、黒い髪の女の子、私、カオン君の順。


「どうぞ」


 女の子は表情を変えず、答えた。


「私、アイラルっていうの。さっきは助けてくれてありがとう」


 よし。言えた。緊張で極悪面になっていないことを願おう。

 幼稚園や騎士団では普通に対応できていたのに、場所が学校で同級生がたくさんいる教室となると、どうも上手くいかない。これは前世のトラウマというやつなのでしょうか。


「僕はカオン。僕も助かったよ、ありがとう」


 理想はカオン君のあのスマイルだけど……私にはまだ難易度高めだー。

 

「シトロンよ。煩かったから追い払っただけ。それと――」

 

 シトロンちゃんっていうのか。近くで見ると余計に大人っぽく見えるよー。お肌白いし、髪サラサラだし。

 私はお姉ちゃんやお兄ちゃんと外で元気に走り回って大きくなったから、程よく日焼けした肌だ。髪だってお母さんの獣人遺伝子でくるくるしてるしね。かと言ってこの髪が嫌いなわけじゃない。姉兄きょうだいとお揃いの髪は寧ろ気に入っている。


「ねえ、聞いてるの?」

「あ、ごめん」


 聞いてなかったです。



「はい。皆座りましたね。今日は自己紹介と魔力量の計測を行います」



 先生……またしてもなんてタイミングで……。

 シトロンちゃんも話をやめて先生のほうを向いちゃった。ああ、もう。せっかく仲良くなれると思ったのに何をしているんだ、私!


 でも、そうなってしまったものは、仕方ない。一日は長い。席も隣を確保した。まだシトロンちゃんに話しかけるチャンスはあるはずだ。


「魔力量は飴で測ったことがある人がほとんどだと思いますが、学園ではこれを使います」


 よいしょ、と先生が教卓の上に置いたのは……なんだろう? 水晶?

 抜群の透明度を誇る宝石のようなものだ。


「魔力測定水晶。通称、魔水晶ですね」


 水晶であってた。でも水晶と言えば占い師さんの丸いアレを想像するけど、ここのは原石のような鋭い水晶なんだね。きれー。


「では、名前を呼ばれた人から前に出て魔水晶に触れてください。飴と同じで魔力が強いほど色が濃くなります。最初は――」


 一番に名前を呼ばれた人が水晶に触れると薄い赤色になった。透明な水晶の中で、赤い靄がゆらゆらしている。水に絵の具を溶かした時みたい。

 次の人は濃い黄色だった。途中で先生が止めていたのは魔力が強すぎて危ないからだ、きっと。

 次々に水晶は色を変えるが、普通に綺麗な一色になる人はいなかった。最初の人みたいに水に溶かした絵の具だったり、むらがあったり。


 なるほど。ここは確かに応用魔法学部だ。


「次、カオン・ソーレ君」


 お、カオン君の番だ。


「ソーレ?」

「うん。サラさんの貸してもらったの」


 護衛的に本名は明かせないとか、そういうこと?

 あ、いや、その前に。カオン君は獣人なのに魔法が使えるの?


「えい」


 カオン君が触れたところから水晶が赤色に変わっていく。火属性の色だ。

 赤は薄い色で広がるのをやめる。


「ソーレ君はA型ね。次、アイラル・アフツァーさん」


 帰ってくるカオン君とすれ違った時に謎は解けた。カオンが握っているサラさんのペンダント。すごいや、サラさんの蜃気楼。


 さあ、私も頑張るか。

 

 触れるとすぐに緑色に変わる水晶。

 うーん……やっぱりすごく薄いなあ。私の魔法、動物との会話以外はからきしだもんなあ。


「はい、いいですよ。アフツァーさんもA型、と」


 皆の魔力を見た限りでは、少ないとA型、多いとB型に分類されるようだ。私はもちろんA型。魔力の少ないタイプです。


 私の次はシトロンちゃんだ。シトロンちゃんは何属性なのかなー?

 席に座って前を見た瞬間だった。


 バキンッ!!


 硬い何かを無理矢理破壊したような音と、窓ガラスが砕け散る音が耳をつんざいた。




ありがとうございます。

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