学園に行こう!
騎士団があれだけの敷地面積を持っているのだから、学園も相当なのだろうと覚悟はしていた。
「ふおおお……」
「アイ。落ち着いて」
「だっ、だってお兄ちゃん! あれっ! おし、お城!」
落ち着けるかぁ!
「すごーい! でかーい!」
「キレイ! おっきい!」
大はしゃぎの女の子達を男の子達が呆然と眺めているという、よくわからない光景になっているけど仕方ないでしょう。
騎士団から見えた塔は学園のほんの一部に過ぎなかった。
歴史を感じる重厚な作り、高い壁の向こうには尖塔がそびえ————
「アイラルちゃん。ついていかないと迷子になるよー」
気がつけばカオン君が門をくぐる途中で、私は一人取り残されていた。
お姉ちゃんまでいつの間に。
ファンタジー好きにとって、この学園には堪らない魅力があるんだよう。私が書いてた小説にもこんな学園が出て来たんだよー。
「今日は入学式だから裏門周辺は静かだな。ほら見つかると騒ぎになるから、急げチビども」
ちなみに今日の付き添いはジルさんです。ウィンディさんかと思っていたら、部屋に呼びに来たのがジルさんでした。
「騒ぎ?」
「ジルさん達副団長は有名人だからね」
なるほど。カオン君はなんでも知ってるね。
少し暗い廊下を歩いていくこと数分。ある部屋に通された。
中で待っていたのはローブを纏ったおじいさん。
私のテンションはまたもや跳ね上がる。
「じじい。入学予定のチビども連れて来たぞ」
じじい!?
こら、お姉ちゃん。隠れて笑わない。
「ほう。ジル君が連れて来てくれたか。サラ君あたりが来るかと思っていたがのう」
おじいさんは動じなかった。
それより二人は知り合い? サラさんの名前も……って、そうか。騎士団に入るには王都の学園卒業が大前提って昨日言ってたね。騎士団に勤めている人は皆、ここの卒業生なんだ。
「入学おめでとう。どうぞ座りなされ」
ソファに座ると、入りきらなかったジルさんはおじいさんの隣にドサッと腰を下ろす。
「お前ら。こいつ、ここの学園長」
「こらジル君。挨拶くらい、わしにさせておくれ」
おじいさん学園長だった! そんな気はしてたけど!
「……さて、君達はこれからこの学園に通ってもらうのじゃが。アイラル君は応用魔法学部と決まっておったな。リスル君とディオール君は希望の学部はあるかな」
あれ、カオン君は? と思ったが、当のカオン君はニコニコしながら話を聞いている。
「あたし、獣人闘技学部!」
「王国歴史学部」
二人とも家を出る時に言っていた希望学部を自信満々に告げる。
「ふむ。両方空きがあった学部じゃな。担当教諭に伝えておこう」
お姉ちゃんとお兄ちゃんの二人は、私の事情を知る者として、特別に入学試験免除で入学する。その代わり、私の力を公表するのは禁止。もしバラしてしまった場合は……ちょっと面倒なことになるのだとか。つまりそれって、たいが……なんでもない。
私の能力は前例がない。だから学園側も、授業で風の魔法の使い方を学ぶことで少しずつ上達していけばいいかなー、くらいのアバウトな対応しか出来ないという。
私が通う応用魔法学部は、通常の魔法コントロールが出来ない生徒を集めているクラスだ。私のように魔力が弱かったり、逆に暴走してしまったり。
そんな生徒は滅多にいないから、少数派クラスなんだって。ぐすん。
「今日はこれから寮の案内をするつもりじゃが……わしは腰があれじゃから、ジル君に任せようかの」
「マジかよ……。なんのためにこの部屋に呼んだんだよ、じじい」
「挨拶と学部の確認じゃのう」
「あーもういい。行くぞチビども」
学園長と別れてから、さらにイライラオーラが立ち上るようになったジルさん。嫌ならなんで付き添いしてくれてるのか謎だ。
じゃんけんで負けたとか。あの副団長達ならあり得なくもない。
寮までは、かなり歩かなければならなかった。
屋外に出て……芝生が素敵な庭を突き抜けて……ジルさんが女子生徒から黄色い歓声を浴びたりなんかして……やっと辿り着いた。
歩いてみて改めて感じる大きさ。途中、コロッセオみたいな建物が見えたんだけど、あれも学園の設備ですか。
「ん、部屋の鍵。失くすなよ」
ロビーで待っていると、ジルさんが受付から鍵をもらって来てくれた。
そのロビーもホテルのような内装だったけど、もう驚かないぞ。
「317……。三階ですか?」
「僕、325」
え、とお姉ちゃんが顔を上げる。
「あたし426だよ!? あたしだけ四階!?」
「学部によって大体分けられてんだよ。応用魔法は人数が少なくから王国歴史と同じ階」
ジルさんにバッサリ切り捨てられ、騒いでいたお姉ちゃんも大人しくなった。と思ったら、カオン君に飛びつく。
「カオンは? あれ? 317ってアイと一緒……」
え?
私ももう一度部屋番号を確認するが、間違いなく317号室だ。
「あ、えっとね。部屋は二人で一部屋だから」
「私はカオン君と同じ部屋なんだね」
よかった。
二人で一部屋というのは初耳だったけども、カオン君と一緒なら安心だ。騎士団の人が、護衛のために同じ部屋になるよう手配してくれたのだろう。
「……でも、カオン君は私と同じ学部じゃないよね?」
獣人のカオン君は魔法が使えないんだから、応用魔法学部はあり得ないよね。
するとカオン君はジルさんをチラッと見て、ジルさんも溜息をついて頷いた。
「部屋に着いたら、と思ってたんだけどねー」
服の中から赤いハート型のペンダントを引っ張り出す。
見てて、と言ってカオン君が犬の腕でペンダントトップを包むと、赤い光が溢れ。
赤い光が止んだ時、ペンダントを包んでいたのは、人の手だった。
尻尾も犬の耳も消え、私と同じ場所に人間の耳がついている。
「サラさんお手製の魔法具なの。しんきろーってので人間になれるんだよ」
サラさん、すごい!
やっぱり副団長はすごい人の集まりだと思った瞬間でした。
ありがとうございました。
スローペースですね、うん…。




