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迷子の迷子の



 さて、手紙は無事にリリーのもとへ飛んで行ったが、まだウィンディさん達が戻ってくる様子はない。

 部屋に入ってきたのは、飲み物持ってくるね、と言って出て行ったカオン君だ。


「アイラルちゃん、紅茶どうぞー」


 持ち手に指をかけられない代わりに両手で丁寧にカップを置く。


「ありがとう。……美味しい! カオン君が淹れてくれたの?」

「うん! 調理長のおじさんに教えてもらったんだ」


 そのわんこの手でどうやって紅茶を……? 

 

 任務を終えたアシュさんは書類と闘ってるし、どうせ暇なんだから、ここでぼーっとしてるんじゃなくてカオン君について行けばよかったよ。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんは、今頃、騎士団の色々な部屋を見せてもらっているのだろう。もしかしたら、庭園にも行ったかもしれない。

 いいなー。

 なんて考えたら、私も部屋の外に行きたくて堪らなくなってきた。


「アシュさん。今からカオン君と探検に行っていいですか?」

 

「え?」


 アシュさん、とカオン君もきょとんとする。が、カオン君のほうはすぐに瞳をキラキラと輝かせた。紅茶がまだ残っていると言うのに、私の手を引いて立たせる。

 だから肉球が……! やわらかい毛並みが腕に当たってくすぐったいし!


「僕がついてるから大丈夫だよ、アシュ兄。ほら、手も繋ぐよ!」


 もう! カオン君、あなたは私がどれだけあなたにときめいてるか気づいてないんだ! 繋いだ手をアシュさんに見せて、にへっ。


 あの、倒れてもいいですか?


 い、いやいや、アイラル。あなたにはルーグ君がいるでしょう。これは立派な浮気ですよ! 落ち着け、落ち着け、落ち着け……。


「お、おお……ウィンディちゃんと合流するって約束できるならいいよ」

「やったあ。アイラルちゃん、どこに行きたい? 僕、どこでも案内するよ」


 そうと決まれば。早速カオン君はドアのほうへ私を導く。

 アシュさんは椅子に深々と腰掛けたまま、手をひらひら振った。


「カオン、あんまり誘惑するなよー」


 アシュさん! にこやかに何てことを!

 カオン君も首を傾げないで。罪悪感で居た堪れなくなるから。

 

 逃げるように部屋を出て、ドアを閉める。赤い絨毯の上でやっと一息ついた。

 アシュさんの馬鹿。純粋無垢な子供に何を言ってるの。そういう意味じゃない、私にあまりもふもふを提供してやるなという意味であることは分かってる。でも恥ずかしいから!


「アイラルちゃん?」

「な、なんでもないの。最初はどこに連れて行ってくれるの? 私は団長さんに会ってみたいな」


 対してカオン君は全く動じていない。

 子供って羨ましいな。あ、私も今は子供か。




 仲良く手を繋いで長い廊下を歩く。

 団長さんの部屋は副団長——アシュさんの部屋の隣にあるのかと思っていたら、違うみたい。アシュさんの部屋は一階、それも玄関から入って結構近くにあったけど、団長さんの部屋は三階の奥にあるんだって。

 ウィンディさんと現場に出たこともあると言っていたから、出動しやすいように一階にいるのか。それとも単に三階まで上がるのが面倒だから一階にいるのか。カオン君は入団する前からこの配置だったから理由は知らないと言ったけど、私はアシュさんは後者な気がします。




「団長さんはねー。すっごく強くて、すっごく怖いよ。アイラルちゃんが会いたいなら僕は行くけど、すごく怖いよ」


 すごく怖いって二回言った!


「え、えー……やめようかなぁ」


 怖いって分かってる人のところには行きたくないよ。


「ちなみに、団長さんは獣人? 人間?」

「人間のおじさん」

「やめよう、カオン君。私、庭園に行ってみたいな! そっちを先に見せてもらってもいい?」


 廊下を引き返して、裏の庭園に出られる扉を開いてもらう。

 この扉のステンドグラスは、赤い蜥蜴、青い魚、黄色い蛇、そして緑の鳥を象っていた。色からして四つの属性を象徴しているのだろうと判断する。

 

「はい。ここが騎士団のお庭だよ。綺麗でしょー」


 アシュさんの部屋から見た小道とテーブルが見える。

 風で木や花は揺れ、春の日差しはポカポカと暖かい。花壇の上を蝶々達が舞っている。


「わあー……。プキも出てきてごらん。綺麗だよ」

『ぷきっ!? アイラル、ぽんぽん、やだー』


 ポケットを軽く叩くとプキが顔を出した。うん、首飾りの魔法はちゃんと継続できてる。

 地面に下りたプキは元気良く花壇の方へ走って行った。


『お花! かくれんぼ!』

「あ」

「待ってプキちゃん! 花壇は広いから……!」


 カオン君が止めるも、すでに遅し。プキは花壇の白い花の中へ飛び込んで行った。小さな茶色い身体が白の中に消える。


「プキ! 帰れなくなるよ!」


 サァッと血の気が引いていくのを感じる。

 プキには私の声は届かないんだ。


 白い花の中にいる間に見つけないと!


 隣の赤い花の花壇に行ってしまったら、見つけられるはずがない。プキは私の手よりも小さいのだ。


「アイラルちゃん、僕はむこうの赤い花の方からの探すね!」

「お願い。 私は白い方から見てみる!」


 花壇をそっと上から覗き込む。

 うー、私の身長じゃ背伸びしても真ん中の方は見えないよ。それにプキ、かくれんぼするって言ってたから、見えないように隠れてるよねー……。


「プキー? どこにいるのー?」


 私の魔法はプキと離れると使えないし。

 ああ、出ておいでなんて言わなければよかった。そのまま寝かせておけばよかった。

 広い花壇を見渡して呆然とした時。

 


「カオンと……誰だ。そこで何をしている」


 



無事卒業できたので更新再開です。


ありがとうございました。

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