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飛んでけ手紙



 そうそう。感動に浸ってないで、説明のほうをお願いしなきゃ。


「アイラルちゃん、お友達に手紙を出したいんだって? ウィンディちゃんがネーテリアに入ってすぐに連絡くれたんだけど。準備して待っとけって」


 ハッ、私が寝ている間にウィンディさん、そんなことを。申し訳ないです。ありがとうございます。

 

「手紙って風の魔法で飛ばすんですよね。どうやるんですか?」


 私がやるように風の玉に声を吹き込むのだろうか。


「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。カオン、その辺から紙とって」

「えー? その辺ってどこ? アシュ兄の部屋汚すぎるよー」


 アシュさんの執務席の上にあった紙をカオン君から受け取る。ほんのり緑がかった綺麗な紙だ。ついでにペンも渡される。

 ヒィ、私、万年筆なんか使ったことないよ。


「俺達は見ないようにしとくから、書けたら言って」


「あ、う……はい」


 リリーへ、と。一応インクが出たから使い方はあってるはず。

 手紙なんて書くのは初めてだ。むこうでもメールが主だったし、書いたとしても年賀状くらいか。年賀状書くような友達もほとんどいなかったし……はは……。いや、忘れろ忘れろそんなこと。

 

 今王都にいます。


 駄目だ。こんな書き出し。あ、でも万年筆だから消せないじゃん。しょうがなく黒でグリグリ……。

 書きたいことは山程あって、なんと始めればいいのかわからない。


 リリー、私は。

 






「でっ、出来ました……」


 書いて、消して。書いて、消して。

 緑が黒で台無しになった紙をそろりとアシュさんに渡す。


「ほー、どれどれ?」

「わあ! 見ないでください!」

「わかってるよ」


 クスクス笑いながら紙を細く折り畳んでいく。紙はやがてかなり細くなる。

 どうする気なのだろう。

 

「はい、じゃあ見てて」

 

 隣では目を輝かせるカオン君。

 アシュさんが手をグーにして私の前に持ってくる。そして手のひらを上にして、そっと開くと……。



「……何もないじゃないですか」



「あっれー?」


 わざとだ。わざとやってるでしょう、アシュさん。

 カオン君は、アシュ兄の魔法が失敗した! と、目を丸くしているけど、私の目は誤魔化せませんよ。

 

「アシュさん……」

「ああ、出す場所を間違えた。ほらアイラルちゃんの肩の上」

 

 え。


『鳥! 食べないで!』


 肩の上からプキが転がり落ちた。

 プキを驚かせたそれは、私の肩をつついて、机の上に舞い降りる。

 

 緑色の、小鳥だ。


 広げた羽が透けて、向こう側が見えている。一目で魔法だということがわかった。

 私もこの世界に来て七年。滅多なことでは驚かなくなりましたよ。魔法にユニコーン、魔獣。

 誘拐事件まで経験したもんね。あ、これは違う? あれ?


 と、とにかく。


「風の小鳥さんですね」


「え、あれ? アシュ兄すごーいってならないの? や、いいんだよ、うん」


 アシュさんは私を驚かせたかったようだ。

 ふふん。私を透ける小鳥で驚かせようなんぞ甘いのだ。あと、アシュ兄と呼んだことはないのだ。


「この鳥が手紙を運んでくれる。北の街なんてすぐだぞー」


 言いながら、アシュさんは小鳥の足に細くした紙を結んでいく。

 それを見て、ふと思った。


「そこのドアも鳥の模様でしたよね? 緑の……」


 さっきから緑が多い。

 小鳥も緑だし、紙も緑。プキにつけてあげた首飾りの石も緑だった。

 

「それはねー」


 足に紙をつけられるのを微妙に嫌がって抵抗する小鳥と格闘しているアシュさんの代わりに、カオン君が答えてくれる。


「アシュ兄の騎士団での、えーっと……アシュ兄、なんだっけ?」

色級しききゅう

「そう色級! 色級がね、緑なの」


 シキキューとは何だい。今まで聞いたことがないということは、騎士団での専門用語ですか。


「しききゅう?」

「そう。騎士団では階級を色で分けてるの。団長さんが黒でねー」


「よっしゃあ! 出来た!」


 ビクッ!

 アシュさん? 急に大声出してどうしました? あ、小鳥に手紙がつけれたんですね。

 口調が変わるほど歓喜してたけど、細かい作業が苦手なのでしょうか。

  

「ほらアイラルちゃん、飛ばすよ」


 ……口調、戻った。


 小鳥は窓から飛ばすらしい。窓を開け放って私を手招く。

 あーあ、シキキューの話、聞きそびれちゃった。また今度、カオン君やウィンディさんに聞いてみよう。


 アシュさんの部屋の外は庭園になっていた。玄関を入ってすぐ右に曲がった廊下を歩いてきたから、このお庭は騎士団本部の裏側になるのか。

 芝生のお庭には広い花壇があって、その花壇の間を小道が通っている。あっちには簡易式のテーブルと椅子が置いてある。ピクニックとかしたら気持ち良さそう。

 にしても、広いなぁ。うちの放牧地と大して変わらないんじゃないの?


「北の街イベールまで速達よろしく。アイラルちゃん、お友達の特徴を教えてあげて」


「リリーっていう緑の髪の女の子だよ。よろしくね、小鳥さん」


 アシュさんの指から小鳥が飛び立つ。小鳥は一直線に北の街があるだろう方向へ飛んで行った。

 うおー速いー。さすが速達ー。

 この魔法、私にも使えるのかな。使えたらすっごく便利だよね。



「アシュ兄……緑の髪……って」

「ん。カオンは気にするな」



「何の話ですか?」


 アシュさんは首を横に振る。ん? 何かコソコソ話していたような気がするけどな。

 まあ……いっか。小鳥に気を取られてた私が悪い。


「そうだ。今の小鳥さんの魔法、私にも使えるようになりますか?」

「アイラルちゃんに? ちょーっと難しいかなー」

「う……」

「うそうそ! 練習すればすぐに出来るようになるよ」


 



色級のお話はまた今度。



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