騎士団って賑やかですね
昨日の魔力切れを引きずって、今日も馬車の中で爆睡していた。そんな私を起こしたのは、外から響いてきた誰かの声でした。
まだ重い身体で窓のカーテンを開けにいく。
外が眩しいくらい明るい。もうお昼が近いのかな。
「あら、アイラル。起きたのね、ちょうどよかったわ」
ウィンディさんに降りてくるように言われて、ふらつきながら馬車を降りる。お姉ちゃんとお兄ちゃんは既に外にいた。
「あれ……ここ、どこ?」
馬車が停まっているのは白い建物の前。地面もいつの間にか土の道から石畳に変わっている。
建物は三階建てで大きさ的には私が通ってた高校くらい。金の装飾が施してある柱や壁は、年代を感じさせるのに小汚くはない。真っ白だ。
「今日の宿ですか?」
「何言ってるの。王国騎士団本部、目的地に着いたのよ」
「へっ……」
ほらあそこ見て、とウィンディさんが指差した先には、宝石に囲まれた大木の紋章。言わずとも知れた王国の紋章だ。
ということは、本当にここは騎士団本部。いや、別にウィンディさんを疑ってるわけじゃないけど。
王都に入ったことにさえ気付かないほど爆睡してたのか、私は。
「起こしてくれればよかったのにー」
けれど、ふたりは首を横に振る。お姉ちゃんもお兄ちゃんも、私が起きる少し前まで寝てたんだとか。
「おかえりなさい! ウィンディさん!」
「カオン。迎えに来てくれたの?」
突然両面開きの大きな扉が開いて、誰かが駆け出してきた。
ウィンディさんに飛び付くその子の腰には、ぶんぶん振り回される尻尾。
「カオン、お友達に挨拶」
「はい!」
私達に向き直ってニコニコする男の子は犬の獣人だ。薄茶髪の癖っ毛に同化している、同じく薄茶の垂れ耳。緑色の目は人懐っこそうに細められている。
「カオンです! 騎士団本部の獣人部隊で働いてます!」
パッと差し出された手を握って、変な声が漏れそうになった。
だって今までの獣人さんは人間と同じ手をしていたけど、この子、カオン君の手はもふもふに包まれた犬の手そのもの。
手のひらに……肉球の感触が……!
カオン君の手はお姉ちゃん達と握手するために離れていってくれたから良かった。そのままだったら、きっと私ここで幸せ死してた。
どういうこと。獣人の動物の部分は耳と尻尾だけじゃないの? 人それぞれなの?
「ここからは僕が本部をご案内するね! いいでしょ? ウィンディさん!」
私達の周りをぴょんぴょん飛び回るカオン君。
彼は一体どういう子なんだろう。冷静になってみれば、カオン君は騎士団というには幼過ぎる気がする。たぶん私と同い年か少し下くらい。
カオン君の後ろをついて行きながら、こっそりウィンディさんに聞いてみる。
「カオン君もウィンディさんと一緒に仕事をしているんですか?」
「ふふ。アイラルは鋭いのね」
扉が閉まらないように自分の背中で押さえてくれているカオン君をウィンディさんは、ありがとうと撫でて、彼が行ってしまってから口を開く。
「あの子は南の八方都市から来たの。私とこれから紹介する同僚が視察に行った時にカオンと出会って、王都に連れてきた。それからはこの本部で簡単な手伝いをしてもらってるの」
「八方都市って……。そんな遠くから、なんで?」
「それは秘密。ほら、そこの部屋よ」
秘密?
聞き返す前にウィンディさんは扉を開けに行ってしまって、それ以上話を聞くことはできなかった。
知りたいことを全然聞けなかったような。
たくさん並んだ扉の中でも一際豪華な扉。鳥の形をした緑色のステンドグラスが目を引く。
その扉をノックすることもなく、ウィンディさんは開いた。
「アシュ、いる?」
開いた扉から中の様子を見て私は絶句した。ふかふかの絨毯、高そうなソファ、どこの社長室だ、と言いたくなる。
しかし、その部屋を埋め尽くしている本の数は一体なんだ。
北の街の外にあったあのごっつい建物を思い出す荒れ具合。
折角の絨毯なのに、踏み場がないよ!
「はいはい、いますよー……っと、おわぁっ!」
ドンッ、ぐらぁ……バタバタバタッ、ドシャァ……
「だっ、大丈夫ですか!?」
カオン君が助けに走る。本棚にぶつかって落ちてきた本で生き埋めになったその人を。
全員で本をどかしていくと黒い髪が見えてきた。
なにしてるのこの人! 雪崩が起きるほど本を詰め込むからだよ! ピクリとも動かないけど、生きてるー!?
「ぶはぁっ! 痛ぁ……死ぬかと思った」
よかった生きてた。
しかも、よく見たらかなりの美形さん。髪ボサボサになってるし鼻血出てるのに、爽やかだ!
「ああ。団長さんが言ってた三つ子ちゃん達か。どの子がアイラルちゃんかな」
「あ、はい、私です」
「そうそう。そういや、一人だけ人間なんだよな」
むぅ、それは言われると腹立つぞ。気にしてるんだから。それに頭をわしゃわしゃしないで! 髪形が崩れるから!
「お兄さんは誰?」
お姉ちゃんが話しかけたことで、ようやくやめてくれる。髪の毛くくり直さないとだめじゃんー。
「俺? え、ウィンディちゃん言ってないのないの?」
「言ってないわよ。自己紹介くらい自分でしなさい」
ウィンディさんキツイな。
旅の間の優しさを微塵も感じさせない冷めた声だったよ。
黒髪のお兄さんは平然としてるけど。
「俺はアシュレイ・ヴィエーチル。騎士団の副団長さんです。アシュでいいからね」
「よろしくお願いしま……」
あれ、今サラッとすごいこと言いませんでした!?
新キャラ登場。
ありがとうございます。




