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順調に南へ

なんてことのない旅の一コマ。


 ウィンディさんに、かくかくしかじかで名前を付けたと説明すると、やると思ったと笑われてしまった。

 やると思ったってどういうこと! 


「それでその子、プキちゃんは一緒に王都まで行くってことでいいのかしら?」


 お椀にたっぷりよそったスープを渡してくれる。乾燥野菜とお肉が入った、ウィンディさん特製スープだそうです。旅の間は食べ物の保存が出来ないから、どうしても質素な食事になってしまうのだそう。

 平気ですよ。すっごく美味しいです、ウィンディさんの料理。


「つれていってもいいんですか?」

「ええ。私は構わないわ。学園の寮でペットを飼ってる学生もたくさんいるし……」


 やったね、プキ!

 食事中は両手が塞がってて魔法が使えないから、後で教えてあげるね。

 プキは今私の膝にちょこんと乗っている。よかったねーと言いながら背中を撫でると、ぷきっ、とまるで言ったことがわかっているかのように返事した。


「アイが飼うのー? あたしもプキと一緒がいいー」


 お姉ちゃんが食べているのはサンドイッチ。これもお肉を挟んだだけのものだ。


「でもプキはアイが気に入ってる」

「むー……。アイの部屋に遊びに行くからいいもん」


 どうやらプキは私と同室になりそうです。

 サンドイッチの端っこをちぎって渡すと、器用に両手で持って口に入れた。ほっぺたが、ほっぺたがパンパンになってるよ……! 頬袋があったのね。




 暗くなる前に夕食を切り上げて、馬車に帰る。

 まだ眠くないけど、することもないから仕方なく寝る体勢に入ります。昼間、お姉ちゃんとお兄ちゃんが寝ていたのと同じように並んで、毛布をかける。

 ウィンディさんは? と聞いたところ、もう少ししたら隣にお邪魔するわ、ということだった。


「プキ、王都に行くの楽しみ?」

『おうと、何?』

「ここから南の方にある大きな街のこと。私達は王都の学園に行くの。そこで魔法を勉強して、もっとプキとお話できるようになるからね」


 反応が薄かったから、たぶんわかってないことのほうが多いのだろう。王都とか学園とか、私もよく知らないから上手く説明できない。


『リスル、ディオール、は? 魔法、使えない』


「プキが、ふたりは魔法が使えないけど何を勉強するの? だって。獣人が魔法を使えないの、よく知ってたね、プキ」


 伝言しなくてもプキの声を届けられるようになりたいなぁ。


『じうじん? 違う、プキと一緒、だから魔法使えない』


 あれ? ちょっと噛み合ってないな?

 プキは獣人を知らない。だから魔法を使えるのは人間だけだということも知らなくて。ふたりはプキと同じだから、魔法が使えないのだ、と。

 整理したら、余計にわからなくなったような。


「プキ。僕とリスルのこと、何だと思ってる?」


 ん、お兄ちゃんはプキ語解読できたの?



『んん? ディオール、は、ひつじ。プキと、一緒!』



 わあっ! ふたりにはプキの言葉がわからないことも忘れて、慌てて口を指で押さえた。

 リスルとディオールは羊で動物だから魔法が使えない、とプキは言いたかったようだ。

 お姉ちゃんはいまいちピンと来てないみたいだからいいとして、お兄ちゃん笑ってるのに目が笑ってないよー……。

 羊だから、という爆弾発言は伝えなかったのに。「プキと一緒」だけで理解するなんて、お兄ちゃん、頭の回転が速すぎる。


「ぷき……!?」


 毛布の中に逃げ込むプキ。

 言っちゃいけないこともあるんだよ。特にお兄ちゃんにはね。







 馬車での夜が明け、再び長い旅が始まりました。

 ウィンディさんが言うには、王都まで一日半。今日は宿に泊まって、明日の昼頃に到着する予定だそう。


 暇です。

 することがありません、暇です。


「ううううー……」


 この暇な時間に耐えかねて、上の姉兄きょうだいは新しい遊びを思い付きました。

 自分達の足は馬車の速度に負けないと気付いたのは、お姉ちゃん。お兄ちゃんも誘って馬車と併走しています。例のあの走り方で。

 迫り来る道端の木を避けて疾走。

 それだけの遊びのはずなのに、参加できない私にとっては羨ましくて仕方ありません。

 

「これでもくらえっ!」


 できるのは腹いせに風の玉をぶつけるくらい。私の魔力じゃ、ふたりの髪をボサボサにするくらいにしかならないのだけど。

 獣人に生まれなかったことを恨んだのは、歩けるようになるのに差があったあの時以来かもしれない。


「アーイー! 速いでしょー見ててねー!」


 お姉ちゃんが自慢をしてるわけじゃないことくらい、私は理解してるよ。

 してる、んだけど、ね。


「ウィンディ、もっと速く走ってもいいよー!」


 お姉ちゃんは純粋なんだよね。

 あれはお姉ちゃんの素。落ち着けアイラル。右手に魔法を構えるな。


「僕飽きてきた。あれーアイは来ないのー?」


 魔法発射! お兄ちゃんはわざと言ってる!

 風の玉はお兄ちゃん目の前を飛んで行ったが、大して気にしていない様子。

 それからお姉ちゃんも巻き込んで、私の魔法射的はしばらく続きました。しばらくってどのくらいかというと、お昼ごはんを挟んで、宿に着くまでです。

 お兄ちゃんとお兄ちゃんは体力を、私は魔力を使い果たして、ウィンディさんに何をやってるのと呆れ顔で叱られました。


 宿の主人におんぶして運んでもらったとか、主人は熊の獣人だったとか、次の日に教えてもらったけど、全く記憶にない。

 その日は三人ともベッドに倒れこんで熟睡でした。





ありがとうございます。


やっと王都に着きます。

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