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返事がしたいの


 ぷきぃ。

 ぷきぃ、って言いましたよ、この子。


「なんて名前の魔獣なんだろうねー」


 お姉ちゃんが魔獣のほっぺたをつんつんしても逃げない。鳴いた後は、お前らなんて眼中にないとでも言いたげに毛づくろいを再開した。


「アイの魔法で聞いてみたら?」

「そうだよ! ディオ、頭いい!」


 ふたりとも簡単に言うけどね。私の魔法はまだまだ発展途上なんだよ?

 魔法で会話しようと思うと、風の玉の中に相手の動物が顔を突っ込んでくれないとダメ。サッシャ君はよくても、他の動物、例えばソサと会話しようとしたら思いっきり拒否された。風の玉を怖がってみんな逃げてしまう。


「だけどこの子も魔法を怖がるかもしれないし……。無理矢理はかわいそうだから」


 ふと、魔獣が毛づくろいをやめ、目が合った。

 そしてなんと私のほうへちょこちょこっと走ってくると、ズボンをよじ登ってきたではないか!


「アイのこと気に入ったんじゃないの? 話させてくれるかもよ。魔法使ってみたら?」


 膝より下で力尽きた魔獣をお兄ちゃんが引き剥がして私の目の前につれてきた。抵抗もせずにプラーンとぶらさがる姿はとってもかわいい。でも首筋をつまんで持ち上げるのはやめてあげて?

 よし。お兄ちゃんの手のひらに乗ってもらって。気は進まないけど魔法での会話に挑戦。

 ゆっくり魔法を近づけてみる。怖かったか逃げてもいいからねー。

 魔法が鼻先にあたるくらいになると、やはり魔獣は一瞬顔を背けた。


「ぷき……」


 が、一度魔法の匂いを嗅ぐと——無臭だと思うけど——顔を風の中に入れてくれた。

 やった! と思うよりも早く、とにかく顔を出してしまう前に話しかける。


「えっと……こんにちは?」


 魔獣は私の言っていることを理解できたことに驚いたのか、後ろ足二本で立って後ずさった。

 私もサッシャ君以外に言葉が通じたことに驚きだ。しかしここで私が引くわけにはいかない!


「怖くないよ。魔法だから」


『まほう……?』


 応えてくれた!


『人間、話できる。なんで?』


 幼稚園児くらいの女の子を思わせる声で、拙い喋り方だった。ごめん、好奇心旺盛だから勝手に男の子だと思ってた。

 私と話が出来ることに興味を持ってくれたようで、風の魔法を嫌がる様子はない。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんに報告すると、名前を聞き出せと言われる。そうだった。まず名前だよね。


「あなたの名前、教えてくれる?」

『なまえ……何?』


 魔獣は首を傾げる。

 

『なまえ?』


 おや、話が通じてないぞ? 

 魔獣は、なまえ、なまえ、と繰り返している。


「うん。あなたのこと、なんて呼べばいいのかな」

『わたし、呼ぶ? だれが?』

「私やお姉ちゃんお兄ちゃんが」


 また首を傾げる魔獣。うーん、これも通じてないみたいだ。それからいくつかの質問をしたけど、わからない、という答えばかりだった。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃん。この子、名前がないみたい」


 魔法を消して、作戦会議。その間も魔獣はお兄ちゃんの手の上でおとなしくしている。何を言っているかわからないはずなのに、じっと私達の話を聞いている。

 お姉ちゃんは魔獣の背中をなてで言う。


「お父さんやお母さんに付けてもらわなかったの?」

「それも聞いてみた。でも、わからない、知らない、だって」


 覚えていないというか、親というもの自体を知らない感じだった。でも親がいないわけでもないだろうし……。生まれたばかりの頃、名付けてもらう前にはぐれてしまったのかな。


「名前はね、あなたと他のひとを区別するための大切なものなの」


 もう一度魔法を近づけると躊躇うことなく中に顔を入れてくれた。


「私はアイラルが名前。お姉ちゃんはリスル、お兄ちゃんはディオールが名前。私達そっくりだけど、名前はみんな違うのよ」


『うん、違う。違うと、わかる』


「アイラルーって呼ばれた時には、私がはーいって返事するの」


 うん、うん、と頷きながら、魔獣の小さな身体は風の中にすっぽりと収まってしまっている。

 

『わたし、も。はーい、したい!』

 

 私がやったのを真似して右の前足を上げる。米粒ほどの小さな手で何度もはーいをしている魔獣さんのかわいさに気を取られて、魔法が消えかけた。

 こらこら、アイラル。戻ってきなさい。任務を遂行するの。


『はーい、は、なまえがいる? なまえない、と。はーいできない?』


「そうだね。名前があれば、私もあなたのこと呼べるね」


『なまえ、欲しい! はーい、する! なまえ、ちょうだい!』


 お兄ちゃんの手のひらをぺしぺし叩いて前進。進みすぎて風の玉から出ると、言葉がわからなくなって後退。前後しながら、なまえ! ちょうだい! 

 お兄ちゃん、くすぐったいのはわかるけど、そんな怖い顔しないで。耐えて。


 名前、名前か……。

 名前をあげたいのは山々なんだけどね、急には思いつかないよ?


「名前。この子の名前考えて」


 ふたりのセンスを総動員して!

 集中するために魔法を消しちゃったから、魔獣さんは参加できない。名前は命名の時のお楽しみってことで。いいよね。女の子らしいかわいい名前を期待してるよ!



「はい! もふもふがいいと思います!」


「……茶色」



 …………。期待するんじゃなかったーーー!!

 もふもふ……もどうかと思うけど、茶色は酷いよ! 魔法消しといてほんとによかったーーー! 


「却下却下! 見たまんま過ぎ!」


 もはやそんなレベルでない気もするけども。

 うん。これは私が考えるしかない。茶色はかわいそうだ。

 身体の色からだと……あ、だめだ、茶色だ。小さいからチビ? いやぁ、好奇心旺盛なこの子に、チビは似合わない気もする。じゃあ目の色。クロ、もなんか違うなぁ。

 こうして、自分のセンスもふたりと同レベルだと気付くことなく。かなりの時間魔獣さんを待たせた結果。名前が決定しました。



「決めた。プキ。この子の名前はプキで決定ね!」



 そうと決まれば魔獣さんに報告だ。変だとか似合わないとか言わせないぞ。


「なんでプキなの。ぼくの茶色のほうが」

「ぷきぃ、って鳴いたからプキ」


 お姉ちゃんもお兄ちゃんも、アイのもそのままじゃんとか言わない。もうこれは決定事項なんです!

 急いで今日何度目かの魔法を発動。魔獣さんとお話を始めちゃえばこっちのものだもんね!


「名前決まったよ」

『ほんと! なまえ、嬉しい!』


 うわ、尻尾のパタパタ、すごい勢いだ。待たせてごめんねー。


『あなたの名前は、プキ。今日からプキだからね』


 どうかな、気に入ってくれるかな。きょとんとする魔獣さんを見守る。でもそんな心配は要らなかったようです。尻尾のパタパタが加速していったから。

 

『プキ! アイラル、プキ、呼んで』

「プキちゃーん」

『はーい!!』


 両手をあげて、元気にはーい!

 やりたかった返事ができて、魔獣さん改めプキはご機嫌。お気に召したようで、よかったよかった。最後まで茶色を推してたお兄ちゃんも、まあいいか、といったご様子。


「夕食ができたわよー!」


 あ、ウィンディさんが手振ってる。もうそんな時間?

 見れば空は茜色。ふたりの羊耳がほんのり赤く染まっていた。


「プキもおいで。ウィンディさんに紹介してあげる」

「ぷきぃ?」


 プキをオーバーオールのポケットに入れて駆け出した。

 馬車まで競争!



作者もネーミングセンスはないです。


ありがとうございました。


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