え、なぜですか
ぺちん。
誰かに額を叩かれた。
「うー……」
せっかくいい気持ちで寝てたのに誰だ、こんな起こし方するやつは。すごくいい音がしたじゃないか。
ムッとしつつ、まだ眠たい瞼をこじ開けて、固まった。
いい意味で。
「あー」
ふわふわ金髪の赤ちゃんが私を見つめていたのです。
翠色のまん丸お目目がかっわいい! しかも、本来肌色の耳がある場所に生えているのは……ケモミミではないですか!
そうか獣人。
小鳥さんの転生が成功したんだ。
「うー?」
赤ちゃん獣人が私に手を伸ばしてくる。
さてさて、この子は何の獣人なのかな。頭の耳は真っ白だけどうさぎみたいに長くはないし……たれ耳だけど犬ほど大きくないし……あれ?
耳の上のちっちゃな出っ張り。ツノ?
手を伸ばした勢いで、ぽてんと転がった時に見えた尻尾の毛は癖っ毛でくるくるしている。
羊か!
「んぅー」
すると後ろからも声がして服を引っ張られた感触が。
もうひとりいる! と期待を込めて寝転がった体勢のまま方向転換……するのがやけに難しい。なんでだろう。身体が自分のものじゃないみたいに動かしにくい。転生後の後遺症みたいなものかな?
頑張って向きを変えると、やっぱりもうひとりの赤ちゃんがいて、私の服を引っ張っていました。
この子も羊の獣人だ。
同じ翠色の目と金髪で、真っ白な羊の耳を持っている。でもツノは見えない。
ん、もしや最初の子が男の子で、こっちは女の子? そうだとすると男の子と女の子の獣人双子?
なにそれ幸せ。双子の赤ちゃん、それも獣人に挟まれて寝ている私は今最高に幸せ者です。
かわいい! と叫びたいところだけど口が上手く動かないのでおあずけ。これも転生の後遺症なのか?
「あらあら。もうお目覚めかしら?」
不意に女の人の声が聞こえてきた。足音が近づいてくる。
この子達のお母さんかな。
ごめんなさい、幸せポジション独占してます。動けるようになったらすぐ去ります。だからもうちょっとだけこの幸せを——
「リスルったらまたアイラルの服を……」
伸びちゃうじゃないと言いながらもお母さんは子供達をだっ……こ?
「アイラル今日はご機嫌ねー」
あの……お母様?
私はあなたのお子様とは違うのですが……? 私を持ち上げるなんて力持ちですね?
女の人の顔を見上げると、にこりと笑ってくれた。あら美人。
それにこの人にも羊の耳がついている。双子とは違うグレーの髪に青い目、恥ずかしながら私のお尻と背中を支えてくれている腕には、ふわふわした白い巻き毛が生えていた。
…………うん?
私のお尻を支えてくれている?
今だ動かしにくい自分の手を恐る恐る目の前に持ってきて、ぎょっとした。
可愛らしい紅葉のような手がそこにありました。
女の人は私を下ろして今度は男の子のほうを抱え上げる。
男の子の尻尾がお母さんに背中をぽんぽんしてもらう度に揺れて、それはそれは可愛いのですが、今の私はそれどころじゃなかった。
私も赤ちゃん、になってる。
動きにくかったのは、言葉が出なかったのは、そのせいか。
いや、転生したんだから、いきなり女子高生が異世界にポンッと生まれてくるわけないよね! うん、落ち着け私。
どうやら私もこの女の人の娘らしい。
ということは、私も羊の獣人ってことだよね?
それなら耳が、羊の耳があるはず。
んー、このへんに。
「あう?」
あれ? 思わず出た声は随分間抜けな声になりました。
耳があるはずのところを触って、ふにふにした手のひらが触れたのは。
「ふえっ……うー……」
「アイラル? 急に泣き出して……どうしたの?」
まただっこしてくれた女の人の腕の中で私は泣き続けました。
神様、下っ端の小鳥、これはどういうことですか。
私の耳は前世と同じ人間の耳でした。
お尻には尻尾もない。
私は三つ子のひとり。唯一獣人の特徴を持たずに生まれてしまったようです。
ありがとうございます。