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楽しい道中


 平坦な土の道を馬車は順調に進んで行く。

 揺れもなくて、天気も良いし、馬車の旅には最高のコンディションなんだけどね?

 

「ふわぁ……」


「眠いなら寝ててもいいわよ。もう二時間か二時間半くらいは同じ風景が続くから」


 さっきから横を流れていく景色は木ばっかり。私達の街――北の街イベールから中央都市である王都ネーテリアに向かう道はどうやら森を切り開いて作ったみたい。この森を抜けるまで暇かもね、とウィンディさんに言われたのが一時間ほど前。

 まだ森の半分にも来てないってこと、ね。

 馬車の中にいるのに退屈してきたから、御者台のウィンディさんの隣に座らせてもらってたんだけど、大人しく中に戻ろうか。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん。何してるの?」


 身体をひねって声をかけるも、返事がない。

 御者台の後ろに付いた窓のカーテンを開けると、ああ、やっぱり。


「どう?」

「お兄ちゃんが潰されてます」


「え、それはどういう状況?」


 手綱を放せないウィンディさんにも分かるように説明するとですね。

 まずお姉ちゃんが退屈に負けてウトウトし始める、お兄ちゃんが「座ったまま寝たら危ないよ」と揺り起こそうとして蹴られたり叩かれたりと何かしらの反撃を受ける、KOされたお兄ちゃんにのしかかってお姉ちゃんは夢の中へ。

 と、まあ、こんな感じ。


「当たり前のように話してくれたけど……ディオールは大丈夫?」

「うちではよくあることだったので」


 大抵お兄ちゃんもそのまま寝ちゃうんだよね。だから知らない人が見たら慌てるけど、私にとっては兄弟が仲良く寝ている光景でしかない。たまに私もお姉ちゃんの上に重なることあるし。


 仲が良いのね、とウィンディさんは笑う。おおお……美女が笑うとさらに美しくなりますね。それに今さらだけどウィンディさんってスタイルも大変素晴らしい。チーターらしくすらっとしているのに出るところは出ている、というか。


「ウィンディさんには兄弟はいないんですか?」


 このままだとジロジロ見る変態になりそうだったので話題を変える。


「兄弟? 弟がいるわよ。十七歳なんだけど学園にいるから、もしかしたら会えるかもね」

「弟さんも獣人?」

「ええ。チーターのね」


 それは是非とも探さなければ! 女性のウィンディさんですらこのかっこよさなんだから、弟さんはさぞかしイケメンさんなのでしょう。やっぱり頬の模様はあるんだよね、腕の斑点もあるんだよね!


「あれ……でも、十七歳ってことは」


「留年五年目ね」


 ですよね。

 五年も留年するなんて学園とはそんなに難関なのか、それとも単に弟さんが……いえ、なんでもないです。


「もう卒業できる単位は取ってるはずなのに、まだやりたいことがあるとか言って。もう五年よ」


 へええ……。まだ勉強し足りないと。

 言ってみたいよそういうこと。私は中学も高校も早く卒業したい一心だったから。

 だとすると弟さんは学者タイプなのかな。きっと何かの研究に没頭してるんだろう。若いのにすごいなぁ。


「アイラルはお父さんの農場を手伝うって言ってたわね。それなら早く卒業しないと」


 言いながらウィンディさんは馬に鞭をいれる。夕方が近づいてきたから、早く森を抜けたいのかもしれない。


「イベールに友達もいたでしょう?」


 緑色の髪をした少女の姿が頭をよぎる。私の手を振り払って走って行く姿。


「うん……六年って言ったら寂しいって大泣きしてた」


 イベールで同じ学校に通えると思ってたのに、って。

 リリーを悲しませたくなくてギリギリまで言わなかったのが逆効果だった。なんで教えてくれなかったの、と怒ったリリーはそれから結局今日まで会ってはくれなかった。

 たぶん、今も泣いてる。


「リリーっていう子なんですけど、最後にケンカしちゃって……」


 あはは、と自嘲気味に笑ったのだが、ウィンディさんは意外な反応を見せた。

 耳をピンと立て、尻尾の毛は一斉に逆立つ。纏う空気が鋭くなった、気がした。


「リリー……?」

「……ウィンディさん?」


「あ、いえ、何でもないわ。ケンカね……王都に着いたら手紙を出せばいいんじゃないかしら?」


 しかしすぐにもとのウィンディさんに戻った。なんだったんだろう。すごく怖い顔してたけど。


「……でも手紙は同じ街の中にしか届かないですよ?」


 街と街の距離が離れ過ぎているため、手紙を運んでもらえるのは街の中だけ。今では常識だと思ってるけど、初めて教えてもらった時は驚いたな。どうしても荷物を他の街に届けたい時には、自分でその街まで出かけなければいけないんだって。


「そこは魔法の出番よ。私に本部から連絡が来たときのこと覚えてるでしょ」


「そっか。風の魔法!」


 でも私の魔法、この距離を飛ばす自信ないよ?


「騎士団に風魔法が得意な同僚がいるから頼んであげる。アイラルなら王様も知ってる超有名人だし、騎士団本部にも入れるわ」


 私そんなに知れ渡ってるの!? まだ王都に入ってもないのに。

 こんなんじゃ平凡な人生なんて送れそうにもないな……。


「学園でも有名人ですか……?」

「そうかもね」


 前世とは違った意味でウワサになりそう。項垂れるとウィンディさんに慰められた。



 それからしばらく色々な話をして時間を潰した。

 騎士団の本部には獣人部隊と人間部隊があるということ。騎士団といっても実際の仕事は街の治安を守ることで、ずっと昔に隣の国と争いになった時から『王国騎士団』って名前が変わってないだけだということ。

 王都のことも教えてもらった。

 イベールなんて目じゃないくらい大きいんだって。それでイベールは丘に囲まれた盆地だったけど、王都があるのは広大な平地。道が入り組んでるから最初は迷うかもね、だって。私、自分の街で迷ったことあるんだけど大丈夫かな。


「そろそろ今日寝泊まりする場所に着くわ。ふたりを起こして来てくれる?」

「はい!」


 ウィンディさんと話していると、長いと思っていた二時間もあっという間だった。

 一旦止まってもらって馬車の中に入る。ふたりはまだ熟睡中だった。夢を見ているのか、ふたりとも羊の耳がピクピク動いている。

 もう、相変わらず可愛いんだから! 実の妹を誘惑してどうしようっていうの!

 ていうか並んで寝てるけど、いつお姉ちゃんは振り落とされたんだろう。


「お姉ちゃん起きて! お兄ちゃんも! 今日の目的地に着いたって!」


 まずモゴモゴ言いながらも起き出すのはお姉ちゃん。


「もくてきち……王都……?」

「違うよ、今日の! お泊りするとこ!」


 お兄ちゃんはまだ起きないなー。眉間にシワを寄せて丸くなっている。お姉ちゃんもまた寝たし。

 こうなったら最終手段しかないか……。

 風の玉を作って、「起きろ!」と大声を吹き込む。あとは風をふたりの耳元で破裂させるだけ。


 無事にふたりは起床したけど、その後の私がどうなったかは、ご想像にお任せします。


「アイ! 何したのバカ!」

「アイ……鼓膜って知ってる?」




ありがとうございます。


ちょっと質問なんですけど、

草食の癒し系もふもふ と 肉食のワイルド系もふもふ

どっちが需要あるんでしょうか…?



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