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頼もしき護衛さん

 ガタンッ、と馬車が一際大きく揺れた。お説教中だった私は思わず座席から落ちそうになる。

 窓の外の景色が止まっていた。最初の目的地に着いたらしい。

 家が減り畑が増える郊外。こんなところまで来たのは初めてだ。窓から見える建物は何だろう? 街中に多いレンガ造りの建物より、ごっつい石でできた建物。


「……では、よろしくお願いします」

「ええ。お任せください」


 外で話し声。お互いに顔を見合わせ頷いて、馬車の扉を押し開けた。

 お父さんと話していたのは、肩までの赤毛の女の人。20代後半くらいだろうか。彼女を一目見た瞬間、私はピシッと音を立てて固まった。

 銀の肩当てに脛当て、がっつり全身とまではいかなくても要所要所を覆う銀は映画で見たことがあるような騎士の装備ではないか。そして腰には本物の長剣が。

 文句なしにかっこいい。

 だけど私の目を奪ったのは別のもの。


 目の下から口へと続く刺青にも見える模様。黄色と黒の耳。長くしなやかな尻尾には黒い斑点が散りばめられている。


「獣人……!」


 間違いない。俊足の狩人チーターだ。チーターの獣人だ。


「貴女がアイラル・アフツァーさんかしら?」


 滑らかに動く尻尾を目で追いかけていると、彼女はこちらへやって来た。私に右手を差し出す。その手の甲にもチーターの黒い斑点があり、爪は尖っていた。

 爪で私の手を傷つけないようにそっと握手をしてくれる。続いてお姉ちゃん、お兄ちゃんとも。


「ここから王都ネーテリアまでの護衛を担当するわ。王国騎士団獣人部隊ウィンディ・ゲシュウィント、気楽にウィンディでいいわよ」


 肩書きも名前もなんてかっこいいの。ゲシュ……えっと、ちょっと難しい苗字だけど、まさに騎士って感じだよね。


「あたしはリスル・アフツァー。あたしが一番お姉ちゃんよ」


「よろしくね、リスル。じゃあそっちが弟君になるのね」


 ふたりも順番に自己紹介していく。


「ディオール。うん、僕が真ん中。アイが妹」


 お兄ちゃんは緊張気味。お父さんのほうをチラチラ見て、握手はしたものの次にどうしたらいいのか迷っている。

 そのお父さんは私達が無事ウィンディさんと打ち解けて安心したようだ。黙ってにこにこしている。

 でもやっぱりお父さんも王都まで一緒に来たいんじゃないかな。仕事があるし動物たちを残して行けないからこの街に残ることになったけど、最初は家族みんなで王都に移ろうか、という案も出ていたくらいだ。


「お父さん」


 黙ったままのお父さん、このままじゃいつまでたってもお別れの決心がつかないから、私が代表して。

 私が呼ぶとお父さんはその顔をハッと引き締めた。

 

「アイラル……」

「お父さんの農場、お手伝いするって約束したでしょ?」


 学園を最短で卒業するのにかかる年月は六年。

 私は六年で動物と会話するというこの魔法を使いこなせるようになって帰ってくる。動物と会話が出来ればお父さんの仕事の役に立てる。

 そう言って、この七年でだいぶ近くなったお父さんの、泣きそうな顔に笑いかければ、お父さんも目元を袖で拭って笑った。


「でもまずはルーグ君を見つけないとな。アイラルが王都の学園を選んだ一番の理由はそれだろ?」

「うん。何も言わないで行っちゃったんだもん、見つけたら尻尾もふもふの刑」








 それからお父さんは私達ひとりひとりを抱きしめて、来た道を戻っていった。そっと風の玉を作って飛ばす。


「今の何?」


 お兄ちゃんが肩越しに風を飛ばした私の手を覗き込む。


「サッシャ君に伝言。お父さん一人にしたら泣いちゃうから、丘の下まで迎えに来てあげてって」

「ここから届くの」

「わかんないけど、サッシャ君になら届きそうじゃない?」


 丘の下まで帰ったときにサッシャ君が待ってたら、お父さんびっくりするだろうな。想像してクスクス笑うとお兄ちゃんに気持ち悪いと言われた。

 ひどい! 最近お兄ちゃん毒舌になった!

 

「ふたりとも! ウィンディが呼んでる!」


 お姉ちゃんの大声で振り返ると、なぜかお姉ちゃんはあのごっつい石の建物の中にいた。ウィンディさんの姿も見えない。いつの間に。

 

「王都の騎士団と連絡が取れないから、ちょっと待って出発するって」


 建物の中は……正直に言おう、衝撃的な汚さだった。

 お姉ちゃんが平然としているのが不思議なくらい。壁がごっついせいで中は狭いし、狭い空間に机、椅子、流し、食器棚、が無理矢理詰め込まれ、あとのスペースはとにかく紙、紙、紙だ。変色した紙の束があちこちに山を作り、みしみし嫌な音を立てる床の上にも散乱している。流しの中は、見るんじゃなかった、とだけ言っておく。


「ここはかつて騎士団が駐屯していた場所なんだけど、今じゃ四方都市しほうとしはどこも平和になったでしょう? だからここも使われなくなって、そのままになってるの」


 ウィンディさんは椅子の上の埃を払ってそのに落ち着いた。どうぞ座って? と促されたので、私達もいろんなところに移動している椅子を引っ張っていって座る。


「勝手に説明したけど、三人とも四方都市については知ってる?」


 私とお兄ちゃんは頷く。けどお姉ちゃんは自分以外が頷いたことに驚く。

 お父さんに教えてもらったよ?


「じゃあ、自信ありそうな……ディオール。説明できるかしら?」


「……中央都市のネーテリアを囲む、四つの中都市のこと。東西南北にそれぞれあって、ここは北の都市イベール。四方都市の外にある八方都市はっぽうとしとの中継地点でもある」

 

 お兄ちゃん淡々と話すなぁ。しかも教えてもらったこと完璧に覚えてる。これにはウィンディさんも拍手。


「八方都市については、アイラル説明できる?」


「え、えっと……。四方都市よりもっと外にあるのが八方都市で……えっと……」


 うわぁあん! 王国地理苦手だから、お父さんの授業途中で寝てたよー! 四方都市の説明なら出来たのにー!

 敢え無くお兄ちゃんにバトンタッチ。

 八方都市というのは、王国の国境線に位置する小都市たちのこと。都市といってもほとんど村のようなもので、中央都市から離れているため治安が良いとは言えない。らしい。

 お兄ちゃんすごいなぁ、よく覚えてられるね。


「ウィンディ、連絡取れた?」


 王国地理のクイズに飽きてきたお姉ちゃんが尋ねる。

 そもそも連絡ったって、どうやって取るの? この世界に電話というものがないのは知ってるよ。


「そうね、もう出発許可が出てもいいころなんだけど……あっ、連絡ついたみたい」


 ウィンディさんは胸のポケットからガラスの小瓶を取り出し、すかさずコルクの栓をはめた。

 すると机に置いた小瓶が触りもしないのにカタカタと音を立てる。



「……王国騎士団獣人部隊、ウィンディ・ゲシュウィント。アイラル・アフツァーの保護、及びその姉と兄の王都までの護衛を許可する」



 小瓶の中から聞こえるくぐもった声。重々しい声が聞こえなくなる頃には、小瓶の揺れは止まった。ウィンディさんは小瓶をもとのポケットに戻す。

 そして私達の興味津々な視線に気付いたのか、説明してくれた。


「風魔法の応用よ。声を風に乗せて相手の場所まで運ぶの。私みたいな獣人には魔法が使えないから、完全に向こうからの一方通行なんだけど」


 声付きのメールみたいな感じ?

 風の魔力を持った人にしか使えないから、王都でも普及率は低いんだって。


「さて許可ももらったことだし、出発しましょうか」




中途半端かなーと思いつつ一旦切ります。


ありがとうございます。

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