約束だよ?
学園編スタート。
アイラル達の成長を気長に見守ってやって下さい。
「アイラル。服を詰めてしまいなさい。そして早く寝るの、明日は忙しいわよ」
「わかってるよ。わかってるけど……これとこれ、どっちも好きな服なんだもんー」
ひとつはベージュのワンピースで裾は膝より上で動きやすいデザイン、胸元のリボンがワンポイント。もうひとつは茶色の所謂オーバーオールだ。足首できゅっと絞ってあって、こちらも動きやすい。
どっちか選ばないと鞄に収まり切らないなんて……。何か要らない物を出せば、いや、今から詰め直すのは無理だ。
「あ、そうだ! お姉ちゃん……」
「だめ」
即答!? まだ何にも言ってないよ!
そんなわけで、ただいま絶賛荷造り中です。何でってそれはもちろん家を出ることになったからです。
アイラルは今年で七歳になりました。
家を出るのは王都の学園に入学するため。さすがに別の街まで毎朝通うのはキツいし、第一、学園は全寮制なんだそうです。
本当は六歳から入学することは出来るけど、全寮制に送り込むのが心配だと、一年間家で魔法や王国地理の基礎知識をお父さんから学んで、七歳から入学することになりました。なんでも、学園では年齢によって学年を分けることはせず、相当するレベルに達したら次の学年に進むと、そういうシステムらしい。逆にずっと同じ学年に留まる可能性もある、とか。
幼稚園もそうだったけど、日本というか地球とはだいぶ世界の仕組みが違うよね。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんはどの学部に入りたいの?」
荷造りを終え、お姉ちゃんの隣に潜り込む。服は泣く泣く一着諦めた。王都だもん……似たようなワンピース、売ってるよね。
「獣人闘技学部。あたし、勉強キライだもん。ディオと違って」
「ふうん。……お兄ちゃんは?」
お兄ちゃんはお姉ちゃんの向こう側で丸くなっている。もう寝ちゃってるかな、と思ったら起きていたようだ。
迷惑そうに薄目を開ける。
「……王国歴史学部」
そしてまた目を閉じた。
王都の学園には様々な学部があって、入学者はその中からひとつ学部を選ぶことになっている。
獣人にしか入れない学部、人間にしか入れない学部、両方入れる学部。お父さんは全部あげていってくれたけど、私に関係のないところは忘れちゃった。
「……みんなバラバラだねぇ」
「そういうアイは?」
「私は、応用魔法学部。私はもうそこに入るって決まってるようなものだよ。学園の推薦状、お姉ちゃんも見たでしょ」
私の魔法について、王都から調査結果が届いていた。
お父さんも言っていた通り、そのような魔法は聞いたこともないし、書物を漁ったが前例もない。内容はそんな感じ。
それと一緒に学園の推薦状も届いて、両親を驚かせた。
『是非、お嬢様を我が学園に』だって。私の魔法、まだ風の玉を作るのが精一杯なレベルなんだけどねぇ。
「リスル、アイラル。寝なさい」
お母さんが強制的に照明を落としていった。
「……ルーグ、いるかな」
「……いる。絶対。ルーグ君、王都にいるんだから」
ヒソヒソ会話は続く。ガールズトークってやつです。姉妹だけど。
「いたら、どの学部かな。アイとは違うでしょ? 獣人だもん」
そう。それが、ね。
私はもう学部が決まってるから、ルーグ君がいるところにするわけにはいかない。
それに応用魔法学部は人間限定の学部だ。幼稚園に続き、また獣人がいない環境に強制入学というわけ。
私にもふもふ楽園が訪れるのはいつになるのでしょうか。
「ルーグ君……。会えたらいいな……」
「ゲンジツとソウゾウが違い過ぎてショック受けるかもね」
「やめてよ、そういうこと言うの!」
だからどこでそんな難しい言葉を覚えてくるの。
布団をバサっとお姉ちゃんの頭の上まで引き上げる。すると布団の中で足を蹴られた。すかさずやり返す。
「うるさい。寝れない」
お兄ちゃんも参戦で、お姉ちゃんを両側から攻撃だ!
なぜか三人とも布団に潜るかたちになって、くすくす笑った。
「このベッドで寝るの、今日で最後だな」
お兄ちゃんはすっかり目が覚めたみたい。誰に言うわけでもなく、ぽつりと言った。
そう言われてみれば、七年間過ごしたこの家ともお別れなんだ。これじゃないと嫌だ、と我儘言って使い続けてきたベッドとも、台所のテーブルとも、イスとも。農場の動物達とも。
私達三人がいなくなったら、お母さんとお父さんは二人暮らしだ。
寂しくないかな、寂しいよね。特にお父さんは。お手紙たくさん出さないと。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん。がんばって、絶対一緒に卒業しようね。それで、一緒にこの家に帰って来ようね」
「当たり前でしょ」
「うん」
またこのベッドに並んで仲良く寝ようね。
布団の中の秘密の誓い。
それからは誰も話そうとはせず、いつの間にか私は眠っていた。
ありがとうございます。




