表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

雪の日のこと2


 お、お姉ちゃん? 今なんとおっしゃいました?


「広場にいけば、ゆきがっせんできるよ。ねえ、アイもいっしょに行こうよ」


「アイラルちゃん、だれとお話してるの…?」

「あ……リリー」


 ほら、どんどん事態が悪化してるじゃん。私が帰ってこないのを不審に思ってか、リリーがテラスに出てきてしまった。


「……アイラルちゃんのお姉ちゃんと、お兄ちゃん」


 リリーの目は、なぜこんなところに?と言いたげだ。

 

「リスル。もうあきらめようよ」


 お兄ちゃんが言うけど、こんなことで諦めるようなお姉ちゃんではないことは、知っているはず。

 戸惑うリリーの手をお姉ちゃんは、きゅっと掴む。


「リリーもゆきがっせんしたいよね? リスルたちね、これから広場にゆきがっせんしに行くの。リリーも行こ」


 こらこら。リリーを巻き込まないで。

 こんなにいい子を先生のお説教の餌食にするわけにはいかないし。

 リリーだって、脱走のお誘いなんかに乗るわけ……。


「いいの……? 行きたい……!」


「リリー!?」


 行くの!?

 お姉ちゃん遠回しに、こっそり抜け出そうって言ってるんだよ?

 靴とって来るね、ってお姉ちゃん! お兄ちゃんも諦めた顔にならないで!


 リリー……なんでこんな時に限って積極的なのさ……!






 結局、決行された脱走。お姉ちゃん発の作戦は至極単純なものでした。


 門を乗り越えていくだけ。

 しかしこれが思ったより大変で。


「リリーがんばって。もうちょっと!」

 

 獣人には簡単でも、門は身長より高いわけで、人間組には同じようにはいかない。特にリリーは、お姉ちゃんお兄ちゃんと駆け回って鍛えた私とは違って、門を超えた時点でもう疲れが顔に出ていた。

 脱走、しちゃったけど、先生見てなかったよねー……?

 追いかけてこないから見つかってないと思うんだけど。


「リリーちゃん、ぼくと手つなぐ?」


 雪に足を取られて遅れがちなリリーにお兄ちゃんが手を差し伸べる。


 私はお姉ちゃんに手を引いてもらって、雪道をずんずん進んでいきます。もう幼稚園があんなに遠くに。

 お兄ちゃんも今ではなんだか楽しそう。という私も、悪いことをしているという意識はあれど、ちょっと楽しくなってきてたりする。

 雪合戦、楽しみだな。

 

 大人しく待機していたサッシャ君のそばを通り過ぎた時、利口なユニコーンはこちらをじっと見ていた。何か言いたげな目をして。

 ごめんね、サッシャ君。





「ディオ、この道どっちだっけ?」

「あっち……だと思う」


 家が増えてきて道も複雑になってきた。先頭を行くお姉ちゃんは度々後ろを振り返る。

 でも仕方ない。

 子供たちだけで歩く道は、お母さんについていくだけで目的地に着けるお買い物の時とは、まるで違う場所のよう。この道、こんなに長かったっけ? まだあのお店は見えてこないっけ?

 次第に言葉少なになっていく一同。

 知っている場所のはずなのに。


「リリー……ここ、来たことある?」


 私が尋ねるとリリーは首を横に振った。

 私たちは年に数回しかお買い物に下りてこないから…リリーなら道に詳しいかと思ったんだけど。


 子供だけで歩いている私たちに、周囲の人は不思議そうな顔をして通り過ぎていく。


「もうかえったほうが……」


 冷静にお兄ちゃんが忠告するも。


「リスルまよってないもん! 道知ってるもん!」


 お姉ちゃんは意地になっているようで、お兄ちゃんを睨み付けて、ひたすら当てもなく歩く。


 このあたり、もう見たことない。

 もしかしなくても、これは……遭難?


「おねーちゃん……」

「帰らない! アイきらい!」


 き、嫌い……? お姉ちゃんに嫌いと言われる日が来るなんて、ショックでくずおれそう。

 ……だけど、お姉ちゃんも必死なんだよね。私とリリーに怖い思いをさせないように。

 路地に入ったお姉ちゃんを追いかける。


 よし、私もお姉ちゃんを不安にさせるようなことは絶対に言わない。そう誓った時、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、若い黒髪男性。


「君達、迷子かな? 幼稚園の子達だよね。どうしてここにいるのかな?」


 リリーが私の後ろに隠れる。


「ゆきがっせん、しに来たの」


 さらにお姉ちゃんが私達を隠すように立つ。


「そう。でも先生はどうしたの? 君達だけで来たの?」

「う、ん。リスル達だけ」


 見た感じはいい人。だけど妙ににこにこしているのが不気味。最前線で話をしているお姉ちゃんが心配だ。

 

「そっちの緑色の髪……君はなんて名前?」


 リリーはビクッとして私にしがみつく。

 

「珍しい髪の色をしているね」


 そう言ってじりじりと近づいてくる。同じ速度でリリーは男から離れる。

 こいつ、ヤバイ人だ。

 頭の中で警報が鳴っていた。

 男は私やお兄ちゃんには見向きもせず、リリーに手を伸ばした。


「いやっ!」


 バシャ!


「おや、悪い子だね。冬に水なんて」


 男の髪から水が滴る。

 これはリリーの魔法。恐怖で反射的に魔法の水を投げつけたらしい。

 今のうちに! と、リリーに駆け寄ろうとしたのに。おかしい。足が動かない。その場に張り付いてしまったかのように、足が持ち上がらないのだ。


「リリーにげて!」


 しかしリリーは動かない。私と同じように足が動かないようだ。

 なにこれ、あいつの魔法!?

 全員がその場から逃げられないようにされてしまった。


「…や、やだ! アイラルちゃん!」


 男がリリーの腕を掴んだ。

 このままだとリリーが連れて行かれる。攫われる。

 自由な両手で咄嗟に魔法の玉を作った。しかしそれはあまりにも弱々しいもの。

 こんなものを投げても、あいつの濡れた髪を乾かすくらいにしかならない。

 逃げることもできず、反撃することもできず、ただ玉を持ったまま大声で叫んだ。



「だれか、たすけて!!」



 手の中の風が強く、震えた。




やっと物語が動き始めた気がします。

お気に入り登録がすごい勢いで増えていて、あわあわしてます。


ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ