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雪の日のこと


 五回目の冬です。

 アイラル・アフツァー、五歳。幼稚園ももうすぐ卒園が近づいてきました。


 この世界には冬休みという概念がないみたいで、雪が降ろうと幼稚園には通う。

 お母さんの送り迎え無しで通園することになったのが幼稚園最後の年になってから。今では普通になった、三人馬車の旅です。


「今日はゆきがっせんろわいやるをするのよ。リスルが優勝するけどね」


 馬車の窓から雪を指して、お姉ちゃんが教えてくれた。

 雪合戦ロワイヤル……? 随分物騒なネーミングだなぁ……。それにお姉ちゃんはロワイヤルなんて言葉をどこで覚えてくるんだろう。


「おにーちゃんも、ゆきがっせんするの?」

「ぼくはしないよ。リスルとゆきがっせんしたら、痛いんだもん」


 最近のお兄ちゃんはお姉ちゃんと張り合うことがなくなった。よく字の多い本を読んでいる。

 早くも趣味や性格が分かれてくる年頃なんだなぁ、と思うとなんだか感慨深いです。


「わたしもゆきがっせんしようかなー」

「アイ、リスルとしようよ。獣人クラス、アイのだいすきな……もふもふ? もふもふがいっぱいいるよ。ぬけだしちゃえ!」

「ぬけだすのは、だめだよー」


 獣人クラスに忍び込みたいとは幾度となく思ったけど、さすがに本当に抜け出すのはね。


 幼稚園につづく道も雪で真っ白で、長靴を履いた足がひざ下まで埋まる。

 歩き、にくい!


「まってー」


 脚力も人間とは違う獣人は深い雪をものともせず、ぴょんぴょん跳ねるように進んでいく。

 耳が……耳がすごく嬉しそう。

 跳ねるたび白い耳が動いている。


「ぼくが歩いたあとをアイが歩けばいいよ。ぼくのあしあとの上」

「ありがとう、おにーちゃん」


 それでも息も絶え絶えに幼稚園に着いた時には、長靴に入った雪で靴下はぐっしょり。

 裸足を先生が魔法で火を付けた暖房器具で暖める。


 はぁ……魔法って便利。


「アイラルちゃん」

「リリー。おはよー」


 今来たらしいリリーも雪で濡れているだろう、と暖房の前を開けようとしたが、どこも濡れているようには見えない。

 

「リリーどうやってきたの?」


 リリーは眉を下げて曖昧な笑いを見せる。


「家の人におくってもらったの。……私はひとりでいくって言ったのに」

「……ふーん?」


 街の中は馬車で走れないから、ここまでは来れないはずなんだけどな……? 


「……なにしてあそぶ?」


 家の人って誰だろう。おばあちゃんかな。

 そういえば、リリーのお母さんとお父さんって見たことない。入園式の日はルーグ君のことでいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕なんてなかったから、リリーの両親が来ていたとしても顔を知らない。

 忙しい人なんだろうか。


「アイラルちゃん? ……行かないの?」

「ご、ごめん。行く」

 

 リリーの家に遊びに行ければいいんだけど。






 お昼を過ぎてからまた雪が降ってきた。外に出るのは禁止。雪合戦ロワイヤル出来なくなったね。

 待ってるサッシャ君は平気かな、とぼんやり考える。


 と、そこへ。


 トン、トン。

 テラスに出る窓を叩く音。隠れきれずに見えている羊の耳。


「おねーちゃん、なにしてるの……」


 お兄ちゃんはこんなことしない。あれは間違いなくお姉ちゃんだ。

 大体、なんで外にいるのだろう。獣人クラスも外に出てはいけないはず。

 まさか、本当に。


 金髪のポニーテールがのぞいて、私を見つけて手を振った。


「おねーちゃん! 外にでるのきんし!」


 指を立てて、しーっ、という動作。

 窓を開けるようにジェスチャーされたので、渋々鍵を外して外に出る。

 寒いよ、お姉ちゃん。先生に見つかったら怒られるよ。


「ぬけだしてきた。ゆきがっせんしよ。ディオもきたから」


 テラスの陰からもそもそ出てくるお兄ちゃん。

 うわー心底嫌そうな顔してるなー。

 きたから、じゃなくて、つれてきたから、だね。


「はい、アイの長ぐつ」

「よういしゅうとう……」

「ようい?」

「なんでもない。でもお庭でゆきがっせんしたら、せんせいにばれちゃうよ?」


 庭は中から丸見えなんだから。

 しかしお姉ちゃんは、ふふんと鼻を鳴らした。


「まちの広場は雪がたくさんだとおもうの」

「え」


 お兄ちゃんと私の声が重なる。


 ……え。




ありがとうございます。

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