表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/67

魔法のコツはふわふわえいっ!

ちょっと更新に時間がかかりましたね。

友人の言葉を借りると、

世の受験生とともに戦っておりました。




 今日も今日とて魔法の練習。


「おだんご、つくるみたいに……まるく、まるく……。できたら、ふわっとなげる!」


 えい!

 夏になり青さを増した空の下、的にした花は……私を見つめるばかりで、ちっとも動いてくれませんでした。





「ちゃんとやってるのにぃ!」

「あいらるちゃん……だ、だいじょうぶ、だよ……」


 そう言うリリーはどうなんだい。

 リリーの的のバケツには、もう三分の一ほども水が溜まっている。


「もういっかい! おだんご……えいっ! ……ううー、だめだぁ」


 というわけで、魔法の自主練をしてました。

 今は幼稚園が終わって馬車が来るのを待っているところ。おばあちゃんかな?リリーのお迎えは来てるんだけど、お母さんがまだ来てないって言ったら一緒に待ってくれるって。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんは最初は魔法の練習を見てたんだけど、途中から飽きたみたいで、今は丘の斜面をどっちが速く登れるかで競ってる。


「ほわほわーってするのをね……えいってするの」


 リリー、それはできる人の感覚ってやつだよー。

 だいたい、ほわほわの感触すらまだ掴めてない。形だけ見よう見まねでやってるだけ。

 魔力が少ないのが原因なのかな? それとも私にセンスがないだけなのかなー……?


「サッシャきたよー! アイかえろー!」


 と、お姉ちゃんの声。

 丘を駆け下りてくるお姉ちゃんと、もうなぜか馬車に乗っているお兄ちゃんが見えた。


「それじゃあ私達も帰りましょうかねぇ」


 おばあちゃんが言ってリリーは頷く。


「アイラルー? 早く乗りなさーい」

「はーい! さっしゃくん、ただいまっ」







「ぱぱは、まほうがつかえるの?」

「え。いきなりどうしたんだい、アイラル」


 馬車から降りるとお父さんがお出迎えしてくれていたので、聞いてみました。

 お父さんの魔力が少ないから、私の魔力も少ないのかなーとも、実は思ってます。

 遺伝、みたいな。ね?


「パパは魔法得意だぞ? 見せたことなかったかな」

「なかった!」


 得意なの?

 ……遺伝の可能性は消えたか。


 ついておいで、と言って羊もどきのいる柵の中に入るお父さん。

 私もいいの?

 と、お父さんを見上げると抱っこで柵の中に入れてくれた。

 羊もどきが、なんだなんだ、と寄ってくるのをお父さんは片手で追い払う。

 あー……お父さん、私まだこの子達に触ったことないのに。


「アイラルの属性は風だったね。お父さんも風なんだ」


 お父さんちょっとドヤ顔。

 でもお父さんの場合、嬉しいのは、風が珍しいからじゃなくて、私が同じ属性だったからだよね。


 追い払っていた羊もどきのうちの一匹をお父さんが呼ぶ。毛が伸びに伸びて、目が隠れちゃってる。


「めがみえないよ?」

「うん。だから毛を刈ろうと思ってね」


 触っても平気ということで、頭をもふもふすると、綿菓子みたいな白い毛の間から青い目が見えた。

 かわいい! さわんな、みたいな不機嫌さが余計にかわいい!


「よく見てるんだよ」


 私に離れるように言って、お父さんが羊もどきに手をかざした。

 

 毛を刈るのに素手? そんなことを思った刹那。


パサ……


「はい、おしまい。行っていいよ」


 羊もどきの足元には、さっきまで身に纏っていた綿菓子が山になって落ちていた。

 身軽になった羊もどきは、さっさと草を食べに行ってしまった。


「……ぱぱ、なにしたの?」

「魔法だよ?」


 私の目には何も捉えることができませんでしたが。

 ファンタジーな本や映画では、魔法を使ったら風の刃や竜巻が飛んでいくよね?だから一瞬で羊もどきの毛を刈ったそれは、魔法というよりマジックで。

 

「風の魔法だからね。火や水のように目には見えないんだよ。ほら、今吹いてる風も見えないだろ?」


 このついでにもう少し毛刈りを進めるらしく、お父さんは次の羊を呼ぶ。


 お父さんの言ってることには、確かに納得はできる。

 風は目には見えない。当たり前だ。

 でもそれじゃあ、お父さんのお手本を見ても、何の参考にもならないんじゃ。

 

 ……丸めて、投げる。


 やはり魔法を使った感覚はない。


「ぱぱぁ……できない……」


 こうなれば泣き落とし作戦だ!

 お父さんにしがみつけば、ほら、もうへにゃっと笑って私の勝ち!


「アイラルが一番好きなふわふわしたものを思い浮かべてごらん」

「ふわふわ? なんで、ふわふわ?」

「魔法を使う時はね、ふわふわしたものにそっと触っているところを考えるんだ。魔法もふわふわしたものと同じで、強く触り過ぎると壊れてしまうんだよ」


 そういえば、私、おだんごを作るつもりで思いっきり握っていたかも。

 だから魔力の塊が潰れちゃったんだ。


 今度は壊さないように、力加減に気を付けて。ふわふわなものを思い浮かべる。

 ふわふわなものと言って最初に浮かんだのは、そこに落ちている羊もどきの毛。あの毛を両手で包んでいるところを想像して。


「えいっ!」


 あ、今……指先が……。


「おー、出来たじゃないか!」


 お父さんに頭を撫でられる。

 舞い上がる羊もどきの毛。まるで風に吹き上げられたみたい。


「いま、てがあったかかった」

「そう。それが魔法の感覚だよ。流石パパの子だな、飲み込みが早い」


 今のが魔法? じゃあこの宙を舞う綿菓子は私がやったの?

 ふわふわ降ってくる綿菓子を眺めるうちに、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。


 これが魔法!

 

「でもこれは集めるのが大変だなぁ……」


 お父さんがボソッと言って頭を掻く。

 でも私は聞いちゃいなかった。

 これはお姉ちゃんとお兄ちゃんに報告をしなければ! あなた達の妹は初めて魔法が使えましたよ!


「ねーちゃん! にーちゃん!」


 耳のいい獣人ならここから呼んでも聞こえるはず。

 競うようにドアを飛び出してきた。


「アイ、なに? じけん!?」


 事件……?


「わたしね、まほうつかえたよ!」


 動物嫌いなお兄ちゃんにも聞こえるように大声で言う。


「すごい! みせて、アイのまほう!」


 お姉ちゃんは自分のことのように喜んでくれる。

 これはいいところを見せないとね。


 ふわふわを丸めて、投げる。

 今度も風は毛の山の真ん中に落ちて、吹き上げることに成功した。お姉ちゃん達はもう拍手喝采。

 私も褒められて上機嫌。


「アイラル……一度ではなく二度までも……。さあ、一緒に片付けようか」


 いつもと違う笑顔のお父さんに捕まるまでだったけど。


 


ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ