魔法のコツはふわふわえいっ!
ちょっと更新に時間がかかりましたね。
友人の言葉を借りると、
世の受験生とともに戦っておりました。
今日も今日とて魔法の練習。
「おだんご、つくるみたいに……まるく、まるく……。できたら、ふわっとなげる!」
えい!
夏になり青さを増した空の下、的にした花は……私を見つめるばかりで、ちっとも動いてくれませんでした。
「ちゃんとやってるのにぃ!」
「あいらるちゃん……だ、だいじょうぶ、だよ……」
そう言うリリーはどうなんだい。
リリーの的のバケツには、もう三分の一ほども水が溜まっている。
「もういっかい! おだんご……えいっ! ……ううー、だめだぁ」
というわけで、魔法の自主練をしてました。
今は幼稚園が終わって馬車が来るのを待っているところ。おばあちゃんかな?リリーのお迎えは来てるんだけど、お母さんがまだ来てないって言ったら一緒に待ってくれるって。
お姉ちゃんとお兄ちゃんは最初は魔法の練習を見てたんだけど、途中から飽きたみたいで、今は丘の斜面をどっちが速く登れるかで競ってる。
「ほわほわーってするのをね……えいってするの」
リリー、それはできる人の感覚ってやつだよー。
だいたい、ほわほわの感触すらまだ掴めてない。形だけ見よう見まねでやってるだけ。
魔力が少ないのが原因なのかな? それとも私にセンスがないだけなのかなー……?
「サッシャきたよー! アイかえろー!」
と、お姉ちゃんの声。
丘を駆け下りてくるお姉ちゃんと、もうなぜか馬車に乗っているお兄ちゃんが見えた。
「それじゃあ私達も帰りましょうかねぇ」
おばあちゃんが言ってリリーは頷く。
「アイラルー? 早く乗りなさーい」
「はーい! さっしゃくん、ただいまっ」
「ぱぱは、まほうがつかえるの?」
「え。いきなりどうしたんだい、アイラル」
馬車から降りるとお父さんがお出迎えしてくれていたので、聞いてみました。
お父さんの魔力が少ないから、私の魔力も少ないのかなーとも、実は思ってます。
遺伝、みたいな。ね?
「パパは魔法得意だぞ? 見せたことなかったかな」
「なかった!」
得意なの?
……遺伝の可能性は消えたか。
ついておいで、と言って羊もどきのいる柵の中に入るお父さん。
私もいいの?
と、お父さんを見上げると抱っこで柵の中に入れてくれた。
羊もどきが、なんだなんだ、と寄ってくるのをお父さんは片手で追い払う。
あー……お父さん、私まだこの子達に触ったことないのに。
「アイラルの属性は風だったね。お父さんも風なんだ」
お父さんちょっとドヤ顔。
でもお父さんの場合、嬉しいのは、風が珍しいからじゃなくて、私が同じ属性だったからだよね。
追い払っていた羊もどきのうちの一匹をお父さんが呼ぶ。毛が伸びに伸びて、目が隠れちゃってる。
「めがみえないよ?」
「うん。だから毛を刈ろうと思ってね」
触っても平気ということで、頭をもふもふすると、綿菓子みたいな白い毛の間から青い目が見えた。
かわいい! さわんな、みたいな不機嫌さが余計にかわいい!
「よく見てるんだよ」
私に離れるように言って、お父さんが羊もどきに手をかざした。
毛を刈るのに素手? そんなことを思った刹那。
パサ……
「はい、おしまい。行っていいよ」
羊もどきの足元には、さっきまで身に纏っていた綿菓子が山になって落ちていた。
身軽になった羊もどきは、さっさと草を食べに行ってしまった。
「……ぱぱ、なにしたの?」
「魔法だよ?」
私の目には何も捉えることができませんでしたが。
ファンタジーな本や映画では、魔法を使ったら風の刃や竜巻が飛んでいくよね?だから一瞬で羊もどきの毛を刈ったそれは、魔法というよりマジックで。
「風の魔法だからね。火や水のように目には見えないんだよ。ほら、今吹いてる風も見えないだろ?」
このついでにもう少し毛刈りを進めるらしく、お父さんは次の羊を呼ぶ。
お父さんの言ってることには、確かに納得はできる。
風は目には見えない。当たり前だ。
でもそれじゃあ、お父さんのお手本を見ても、何の参考にもならないんじゃ。
……丸めて、投げる。
やはり魔法を使った感覚はない。
「ぱぱぁ……できない……」
こうなれば泣き落とし作戦だ!
お父さんにしがみつけば、ほら、もうへにゃっと笑って私の勝ち!
「アイラルが一番好きなふわふわしたものを思い浮かべてごらん」
「ふわふわ? なんで、ふわふわ?」
「魔法を使う時はね、ふわふわしたものにそっと触っているところを考えるんだ。魔法もふわふわしたものと同じで、強く触り過ぎると壊れてしまうんだよ」
そういえば、私、おだんごを作るつもりで思いっきり握っていたかも。
だから魔力の塊が潰れちゃったんだ。
今度は壊さないように、力加減に気を付けて。ふわふわなものを思い浮かべる。
ふわふわなものと言って最初に浮かんだのは、そこに落ちている羊もどきの毛。あの毛を両手で包んでいるところを想像して。
「えいっ!」
あ、今……指先が……。
「おー、出来たじゃないか!」
お父さんに頭を撫でられる。
舞い上がる羊もどきの毛。まるで風に吹き上げられたみたい。
「いま、てがあったかかった」
「そう。それが魔法の感覚だよ。流石パパの子だな、飲み込みが早い」
今のが魔法? じゃあこの宙を舞う綿菓子は私がやったの?
ふわふわ降ってくる綿菓子を眺めるうちに、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。
これが魔法!
「でもこれは集めるのが大変だなぁ……」
お父さんがボソッと言って頭を掻く。
でも私は聞いちゃいなかった。
これはお姉ちゃんとお兄ちゃんに報告をしなければ! あなた達の妹は初めて魔法が使えましたよ!
「ねーちゃん! にーちゃん!」
耳のいい獣人ならここから呼んでも聞こえるはず。
競うようにドアを飛び出してきた。
「アイ、なに? じけん!?」
事件……?
「わたしね、まほうつかえたよ!」
動物嫌いなお兄ちゃんにも聞こえるように大声で言う。
「すごい! みせて、アイのまほう!」
お姉ちゃんは自分のことのように喜んでくれる。
これはいいところを見せないとね。
ふわふわを丸めて、投げる。
今度も風は毛の山の真ん中に落ちて、吹き上げることに成功した。お姉ちゃん達はもう拍手喝采。
私も褒められて上機嫌。
「アイラル……一度ではなく二度までも……。さあ、一緒に片付けようか」
いつもと違う笑顔のお父さんに捕まるまでだったけど。
ありがとうございます。




