VS ~漆黒の蟲~
俺が寝支度をしていると僅かな気配と微かな音を感じた
その気配のした方へ目を配ると其処には漆黒の蟲が此方の動きを窺っていた
一瞬俺は身動きが取れなくなるが直ぐに対蟲用兵器の在処を確認
漆黒の蟲を目で牽制しながら対蟲用兵器に手を伸ばす
しかし目を離した刹那、再び目をやると其処には漆黒の蟲の姿が見えなくなっていた
見失った・・・俺は恐怖で眠気が吹き飛んだ
何処かに潜む漆黒の蟲に怯えながら対蟲用兵器を抱え辺りの気配を探る
漆黒の蟲の潜んで居そうな箇所を無差別に攻撃する事も考えたが対蟲用兵器の燃料が尽きてしまっては俺には対抗する術がなくなってしまう
幸いな事に自室の壁は白、少しでも漆黒の蟲が姿を現せば目標を捕捉出来ると踏んだ俺はただ只管待った
だが一向に姿を見せない漆黒の蟲
精神を削られ些細な音にも敏感に反応してしまう
一時間二時間にも感じられる数分間の葛藤、意を決し最初に存在していた箇所に歩む
しかし隙間を覗く程の勇気はなく待機
だが在らぬ場所から気配を感じた、俺が元居た場所の方角だ
まさかと思い振り向くと漆黒の蟲の姿を確認、奴は怯える俺を後ろから嘲笑っていたのだろう
俺は最初こそ怯んでしまったが即座に対蟲用兵器を構えた
漆黒の蟲は殺気を察知したのか俊敏に物陰に逃走を図る
これ以上好きにさせる訳にはいかないと感じた俺は漆黒の蟲が逃げ込んだ物陰の隙間に対蟲用兵器を噴射
霧があらゆる隙間から噴き出すと漆黒の蟲は別の場所から姿を見せる
未だ対蟲用兵器の毒牙に侵されてはいない様で俊敏性は失われていなかった
咄嗟に対蟲用兵器を漆黒の蟲に向けると逆鱗に触れたかのように飛翔、俺目掛けて特攻する
俺は走馬灯の様に昔のトラウマを思い出していた
あれはまだ小学生の頃・・・今では全く触れる事も出来ない様な蟲共も平気で捕らえ掴んでいた
時が経つにつれ少しずつではあるが蟲に対して嫌悪感を抱く様になっていた矢先、教室で漆黒の蟲が暴れ出したのだ
騒然となる教室に一人の勇敢な婆が現れる
姿形は只の婆なのだが其処は百戦錬磨の教頭、有無を言わさず漆黒の蟲を叩き潰した
此処で俺にとって最悪の任務が言い渡された
付近で見ていたのが運の尽き、後処理を頼まれてしまう
只でさえ潰れた蟲・・・更には大半の人間が忌み嫌う漆黒の蟲
溢れ出そうな涙を堪えティッシュを大量に使い掴み捨て、残骸を入念に処理した
全てが終わり安堵していたのだが追い打ちを掛ける様にして俺を不運が襲う
偶々の臭いを嗅いでみると今迄に嗅いだ事の無い激臭がした
直ぐに近くの洗面所へ走り、蛇口を捻り石鹸で狂った様に入念に洗浄
再び臭いを嗅いでみるが檸檬の香りに混じり先程の激臭が残っていた
俺は吐気を催しながら堪えていた涙を流し手を洗ったあの暖かな昼下がり・・・
刹那の走馬灯から我に返ると迫り来る漆黒の蟲に対蟲用兵器を噴射
効果の有無が解らないまま放ち続けると幸いな事に漆黒の蟲の軌道が逸れ壁へ激突
少しの間、壁に引っ付いていたが身体の制御が利かなくなり床へと墜ちる
しかしまだ肢を蠢かせ生への執着に藻掻き苦しむ
俺は追い打ちを掛けるかの如く無心で対蟲用兵器の引鉄を引き止めを刺した
一現れれば三十存在する・・・
そんな言い伝えを余所に処理後、安堵の眠りに就いた・・・