六時間目:移動
そして、小村先生は、皆を見回すと、言った。
「ひとまずはぁ、そうですねぇ、皆さん、座ってもらってもいいですかぁ? 場所はどこでもいいですからぁ」
俺はもう座っていたからわざわざ移動しなくてもいいが、ほとんどの生徒が座っていなかったので、しばらく机や椅子が動く音がする。
全員が席に着いたのを確認してから、小村先生は口を開いた。
「それではまずぅ、自己紹介でもしてもらいましょうかぁ」
それにしても小村先生、どうも間延びした喋り方をするな。いや、別にいいんだけどさ。
「それじゃあ、もうこの席の順番で行っちゃいますねぇ?」
と、言い、小村先生が指差したのは、一番窓側の席、つまり俺から一番遠い席だった。
ということは、俺には自己紹介までたっぷり考える時間があるということだ。
自己紹介って苦手なんだよな……。
何を言うか一生懸命考えていると、思ったよりも早く順番が回って来た。ヤベ、なにも思いつかなかった。
教室の一番前の教卓の所まで行き、教室を改めて見回す。見事に誰も俺のことなんざ見てねぇ。このまま席に戻ってもばれないんじゃないの? とか思いつつ、一応律義に名前だけは告げ、席に戻る。
自己紹介は俺で最後だったらしく、小村先生は教卓の所に立ち、口を開く。
「ではではぁ、まず、君達の能力、について説明させて頂きますねぇ。さて、この能力はですねぇ、科学では証明できない、神や、伝説上の動物や、悪魔の眷属などからぁ、加護を受けぇ、俗に超能力と呼ばれるぅ、超常現象を体現する人間の事を指しますぅ。そしてぇ、その、その能力者達を集めて観察・育成・実験するのがぁ、当志義野学園特殊科なのでぇす。お分かりですかぁ?」
小村先生は、そこで舌っ足らずの甘い声を切ると、ここまでで質問はないですかぁ、という意味であろう間を取ったが、誰も何も聞かない。
「君達はぁ、書類上はこの学園の志義野学園普通科に通っている事になっていますのでぇ、なにかあったらぁ、普通科生を名乗って下さいねぇ。後、私服登校可能なので、制服は別に着なくていいですよぉ?」
言葉の最後の方で俺のことを見てた気がする。そういえば、制服を着ているのは俺だけだった。…覚えて置けよ! 美杉!
「それではぁ、君達にはぁ、自分の能力が何なのかぁ、知ってもらわなければなりませんのでぇ、特別教
室に移動してくださぁい。この教室のすぐ隣ですからぁ、ちゃっちゃと移動してくださいねぇ」
そういって小村先生は俺たちを見回した。