五時間目:担任
大して広くなく、かといって狭くも無い教室にやっとたどりつき、空いている席に座る。
「全く、なんて広さだ…」
あの後、車を降りてすぐに美杉は、
「では、私は大事な用があるからね。先に特殊科の教室まで行っておいてくれたまえ。教室は、一般人と生徒立ち入り禁止と書かれてある教室だからね」
と言い残し、どこかへ行ってしまった。
この学園には初めて入るし、下手に一般生徒に聞いて特殊科の存在がばれたら、その時点で死は確定するしで、結局全部屋回って探した。小一時間かかった。
美杉の嫌がらせとしか思えないが、気を取り直して、級友達を観察することにする。
そこには、俺と同じ年ぐらいの少年少女が、思い思いの形で居る。ただ、居る。何をするでもなく。いや、俺と同じできょろきょろ辺りを見回している人間はいるにはいるんだが、なぜか、あれに関わっちゃいけない気がする。
俺と違うところはその視線が不安を含んでいるところだろうか。
彼女は、(言うまでも無く性別は女)極短いショート丈の短パンに、これまた極短い、へその少し上から、鎖骨の下辺りくらいまでを、布みたいな物で胸を覆っており、首の所には黒い革のベルト、右手首にも同じ物が二本、クロスする形で巻かれている。それと、足元はこれまた黒のハイソックス。編み上げの紅いブーツを履いている。
それくらいの服装ならば、まだ許容範囲内なのだが、いや、許しちゃダメだな。普通に着てたら周りからドン引かれるしな。まあいい、それくらいの異常がまだ普通に思えるほど、彼女は不思議な髪の色をしている。
白いのだ。底抜けに、ただ白く白く白く。白鳥の羽を、更に漂白しても足りないくらい白い髪が、毛先が腰に届きそうな髪を、ポニーテールにしている。ちなみに、その髪は、すごく服装に映えている。
おまけに、眼は黄金で、蛇みたいな縦長の瞳をしている。その勝気な瞳は大きく、猫みたいにも見える。
なぜ、そこまでの美人と関わっちゃいけないか?
簡単です。背中に明らかに悪魔の物と思しき漆黒の羽があるからです。
…絶対悪魔だ。
他にも、体中に鱗が浮いている者、あぐらをかいて浮きながら眠っている者、水が体中から滴り落ちている者、身の回りが凍り付いている者、様々だ。
そして、俺がそこに居た人間達の観察をしていたところ、教室のドアが開き、美杉ともう一人、カジュアルスーツの若い(俺たちより若く見える)女性が入って来た。
美杉は、パンパン、と二回手を叩くと、口を開いた。
「ようこそ、能力者の諸君。君達が、当学園で有意義な時間を過ごせる事を願う」
そして、女性に手を向けて言った。
「彼女が、君達の担任の、小村真李先生だ。
三年間お世話になる先生だからね。敬いたまえよ。それでは、私は忙しいのでこれで失礼させてもらうよ。じゃあ、後は小村先生に任せます」
言うだけ言うと、美杉は教室から出て行ってしまった。