五時間目:蜃気楼ってアレ、反則じゃね?
俺の足が、翔の体を貫いた。
否、俺の体ごと擦り抜けた。
…擦り抜けた?どういうことだ?
「……まぁ、ぼくもそこそこ化け物ですが」
さっき翔がいたのとは別の方向から声がかかる。
刹那、背中に寒気のようなものを感じ、跳び退りながら、体を反転させ声のしたほうに体を向けて着地する。
さっきまで俺が居た場所に、炎が上がっている。
今、確かに殺意というものを感じた。この身を持って。
さて置き、声がしたほうを見る。
そこには、数人の翔がいた。
いや、今も増え続けている。すでに十人を越えているだろう。
「は? 気のせいかな、翔がたくさん見える気がする」
その間も翔は増え続け、最終的には二五人にまでなった。…キモッ!
「……気のせいなんかじゃないですよ。これは、ぼくのいわば必殺技。名を《蜃気楼》って言います。今さっき思いつきました」
……なるほど! さっき俺が貫いたのは、蜃気楼の一つだったのか。それで、全てに合点がいった。
全方向に気を配りながら、この状況を打開する作戦を考える。
が、思い浮かばない。翔が能力を発動させるに連れて、焦りだけが募る。落ち着け、落ち着け俺。
はい深呼吸。吸ってー。
「グェホッ、グェホッ」
「君って馬鹿ですよね。ここで深呼吸なんてしたら炎の熱波に肺を焼かれますよ?」
翔からのじっとりした視線が痛い。
恥ずかしさを紛らわせる為に、とりあえず、蜃気楼の翔を吹き飛ばす。
本物がどれか分からないから、焔の壁内の床を全部踏み抜く。
「はい、せぇー、のッ」
ドガァン!
よし、成功。とりあえず、翔がどれかは分かった。
蜃気楼は全部消え、床とその地面の間のところで、翔と向き合う形になる。
「もはや化け物という言葉もなんかしっくり来ないですね」
「俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇの。じゃあ決着つけますか」
床を支える柱を蹴り付け、翔に飛び掛る。
……後ろで更に床が抜ける音がしたが気にしない。
渾身の一撃を、翔の顔面に当たる寸前で止める。
「降参する?」
「えぇ、悔しいですが僕の負けのようですね。全く反応できませんでした」
能力停止。
「勝者、琴香君~」
っし! 勝った! あと一人!
「ですが」
ですが? …いやな予感がする。
「施設を破壊しすぎです。見なさい、ほら」
確かに、特殊教室は大変な事になっていた。まともに立っていられる床は三箇所、天井や壁にはところどころに穴が空いている。全部俺だな、うん。
あと、小村先生口調変わってます。笑顔に影がついてるんですが。……夢に出る。
「琴香君、君は失格ですぅ。いくら存分に暴れてもいいといったってぇ、限度がありますよぅ。これは壊すじゃなくてぇ、砕くですよぅ」
はい、失格でいいです。俺にはその笑顔に口調チェンジのコンボが一番怖いです。




