ん? 世界? 壊せるけど……何で? プロローグ改稿なし原文
先に投稿してある、プロローグの原文ままです。
何も手を加えていません。
特に読む必要もないかと思いますが、先に投稿してあるものとは結構変わってるところがあったりしますので、よろしければどうぞ。
違いを探すのも結構面白いですよ?
プロローグ そして入学
二週間前。卒業を控えた三月。俺は、同級生の不良どもからリンチをうけていた。
金貸せや的旧世代なカツアゲを突っぱねたら、校舎裏に拉致された。
そこで待っていたのは二十二人の不良共で、その後、リンチだ。
抵抗はしない。
俺の内に眠る「力」を、決して呼び起こさない為に。
「力」が、他者を食い潰さないように。
それに今、俺は十五歳。もう、法で自分は裁かれる事になる。
ハッ、他人の命より保身の方が大事なんてどうかしてるって?
そんな事言う奴らは、どうせあれだろ?勇者か聖人。皆自分が一番可愛いんだ。
あ~、なんか語ったみたいになったけど、まず、俺っていうのは、琴香狩麻の事。余談だが、この名前は結構気に入っている。趣味は読書、特技は運動全般。
ちなみに、今こんなことを考えている間にも、俺は殴る蹴るの暴行を受けている。
しかし、こいつら無茶苦茶だな。二十数人で、一人を相手って。普通、数人ずつくらいで来るだろ。
ところで、俺が何でこんなに冷静でいられるかって言うとだ、喧嘩慣れしてるから、になるのかな、多分。喧嘩してるときに我を失うと大変なことになる。俺の場合は二重の意味で。
…いや、中二病じゃないから!「力」云々は嘘だけど!
いや、マジで力は嘘です。
さて、意識を現場に戻そうか。
今、俺は二人がかりで組み伏せられ、腕と脚を押さえつけられている。
目の前には、不良集団のリーダーがしゃがみこんで、俺の財布を覗き込んでいる。
「って、コラー! 呑気に描写してるんじゃなかった! 金! 返せ! どうすんの!俺の今月の食費!」
「知るか」
「返せー! 返あぐぁっ」
最後の方は、顔を蹴られたから、変な声が出た。
「親に養って貰えや。ハハハハハッ」
唇を噛む。こいつらは、俺に両親がいないことを分かっていて言っているのだ。ちなみに、五歳の時に父は飛行機事故で他界、二年前に母親が交通事故で死んでしまった。更に、母にも父にも親兄妹がいないので、俺には身内どころか親戚も誰一人としていない。
今は、自分で稼いだわずかなお金(新聞配達)と、遺産を食い潰して生きつないでいる。
そして、十年前に撮った唯一の家族写真が、我が家の家宝であり、俺にとって世界で唯一価値の見出せる物であった。
それが、
「おぉ、財布の中に写真見っけ。…何だコレは?」
そう、財布のなかに入れてあった。……ヤバ! 間違いなく破かれる! 破かれたら修復なんて出来ない。焼き増しもしてない。ネガももう残ってない。正真正銘世界で一枚だけの写真だ。
「ダッセぇ、こいつ、財布に家族写真入れてあるぜ?」
いいだろ、それが俺のこの世界の全てなんだよ。
「止めろ!」
リーダーの男は、ニヤリ、と酷薄そうな笑みを浮かべ、写真に手をかけた。
「止めろ! 止めてくれ! 金なら全部やるから!」
「ほぅ、これがそんなに大事か、琴香?」
「あぁ、頼む!」
再度、そいつは酷薄な笑みを浮かべ、写真を、
破いた。
…俺に、俺に力があれば、防御力なんて一切なくていい。今は必要ない。純粋に攻撃力、全てを破壊する力が欲しい。力、攻撃力が欲しい!こいつらを全員殺す攻撃力をだ。殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す。殺す!
そんなことを思っていても、思っているだけでどうにかなるものではない。行動で示せ、琴香狩麻!
俺を押さえつけていた奴らから逃れる為に、必死でもがいて、殴りつけて、蹴って、暴れる。が、逃れられない。
俺にもっと力があれば。力が欲しい。防御力が一切なくたっていい。ただ純粋に攻撃力が欲しいと、切に願う。
世界の全てを壊す力を。
いくら願ったところでそんな都合のいい力が手に入るわけが無い。
人間は、いくら頑張ったところでせいぜい、スポーツの天才で限界なんだ。
結局人間が出来る事には限りがある。
だから俺達は、何も出来ない。
だから世界は、俺から全てを奪った。
あぁ、もういいや。今まで、安っぽい正義感から本当に、この力を使うのだけは止めようと思っていたのに。
でも、本当にもうどうでもいいや。この世界において唯一価値が見出せる写真が失われてしまったんだ。この世界にはもう未練は無い。
いつから使えるようになったのかは知らないが、俺は世界を破壊するための力を手に取る事にする。
能力発動。
そう思った瞬間、俺に力がみなぎり、世界が、俺から、全てを奪った世界が、壊れる音を聞いた。
同時に、俺の中で燻っていた力がこの世に顕現する。
こいつらを壊せる絶対の破壊力。
同時に世界を破壊できる唯一無二の絶対の力でもある。
俺を押さえつけていた奴等を力任せに校舎に投げ飛ばす。骨が砕ける音がしたが、今はどうでもいい。
今は、写真を破いたクズを潰す事が先だ。
さて、どうやって殺したものか。考えあぐねる俺に、俺のことを、まるで化け物でも見るかのような目つきで見ているリーダーの男と、その男が持っている綺麗に縦に半分に破られた写真が目に入った。
そうだ、奴も写真と同じ目に遭えば良い。
自分の口から、狂ったような笑い声が漏れるが、今は気にならない。
ぐちゅり、という熟れた果実が潰れるような音を聞き、俺は、リーダーの男と男の一部だったものを両
脇に投げ捨てた。足りない。もっとだ。もっと、俺の手で、俺から全てを奪った世界を…。
俺たちを囲んでいた取り巻きの連中は、その時点であらかた逃げ出していたが、二、三人逃げ遅れた奴らがいるみたいだ。
そいつらは、腰を抜かしているのか、俺から逃げようとしない。否、逃げれない。
さて、そいつ等を、どうやって殺そうか。
撲殺轢殺圧殺焼殺裂殺絞殺。いくらでも思いつくが、どれでもいい。過程はどうあれ、こいつ等を待つのは死、永遠の闇だ。
俺は、動かなくなった人間の首から手を放すと、次の獲物を探しに学校を駆けた。
全員を殺さないように、だが、最低でも一ヶ月は動けないように「破壊」していき、思った。
つまらない、飽きた、と。
同時に、気分の高ぶりも急激に冷めた。
その後、俺は警察に捕まり、けがを負わせた人数二二人で、懲役一二年になった。ちなみに、俺が潰したのは不良集団だけで、全員が奇跡的に一命は取りとめたんだとか。いや、おおげさに言いすぎか? 全員骨が折れたりしただけで、命には全く別状はないし、今後の生活に支障もなんらないんだとかなんとか。ただ、リーダーだけは両腕が捻じ切られており、俺はそれで懲役刑になったんだとか。
さすが、俺、手加減ばっちり。と喜ぶべきなのか、やりすぎだろ、俺、と自身を蔑むべきなのか、迷った。
そこで、正気に戻り、檻を引き千切って逃げた。
が、その後あっさり捕まった。
もう一度檻にぶち込まれた俺の前に、そいつは現れた。
その男はただひたすらに、黒かった。黒のスーツ上下に黒のカッターシャツに黒のネクタイに黒の靴にわざわざ黒に染めなおしているとしか思えない黒い髪。
俺の視線に気付いたのか、そいつはズボンの裾をおもむろに持ち上げると、言った。
「靴下も黒だ」
…ひたすらにどうでもいい。
「君には私と一緒に来てもらおう。だが、無理強いはしないよ。君には選ぶ権利があるからね。ここで死刑にされるか、それとも、私と一緒に来て、社会的な何もかもを捨てて、琴香狩麻は死に、第二の人生をスタートさせるかだ」
その男は、そこで言葉を切り、牢屋の鍵を開けた。
「さぁ、選びたまえ。君には選ぶ権利があるんだからね」
俺は、何も言わず牢屋のドアをくぐった。
「それでいいんだ」
☆ ★
男についていくと、黒塗りのリムジンに乗せられた。
そして、男は偉そうに足を組むと、俺の方を向き、言った。
「まだ名乗っていなかったね。私は、能力開発促進機構のトップの、美杉研史と言う。ADPOと言うのはだね、君たちみたいな能力者を育て、観察し、データを取る機関の事だよ」
は? ADPO? さっぱり意味がわからない。…ていうかこいつ、俺のこと知っているのか? 待てよ、こいつは君たちと言った。俺みたいな奴が他にもいるのか?
混乱しまくっている俺を面白そうに眺めていた美杉が、肩をすくめると、言った。
「要するにだね。君たち能力者を全面的に支援する機関が私率いるADPOと言う訳だよ。分かったかね?」
その説明ならなんとか飲み込めそうだ。
あぁ、と相づちを打ち、話の続きを促す。
「それでだ、簡単に言えばだね、君に私の、あ、いや、私達のモルモットになってもらいたいのだが?」
今私のって言ったよ? 何されるの、俺?
でも、と気持ちを切り換える。どの道、社会的に死にたくない俺には選択肢なんて無い。モルモットにでもなんだってなってやるさ。
それでいい、と目で返事する。
「いいようだね?なら、まずはこれに着替えたまえ」
そう言って出してきたのは、
「制服?」
そう、制服だった。しかも、偏差値が八四の超有名私立高校、志義野学園の制服に似ている。が、明らかに色がおかしい。
その制服は、白のカッターシャツに黒を基調に赤いラインが入ったブレザーと、黒のスラックス。ネクタイまでついているのか。色は落ち着いたワインレッドだ。
ハッ! つい普通に描写してしまった!
「なんで学校なんだ!」
そう、そこだ。真っ先に疑問に思うところがここだよ。
「なんでって、それは、君、この春から高校生だろう? 私が理事を務めるこの学園に君を通わせようと思ってね」
そんな事言ったって、並くらいしか勉強ができない俺が、こんな学校でやっていける訳がない。授業が始まって二日くらいで不登校になるぞ?
その旨を美杉に伝えると、そいつは、ニヤリともせずに言った。
「ああ、君が通うのは、普通科でも、文理科でもない。特殊科だよ」
そして、さらりととんでもない爆弾をほうってよこす。
「あと、特殊科の存在が世間に洩れたら、君たち特殊科生全員殺されるから。他言無用で頼むよ」
え、何この人「今日の天気は晴れか」くらいのテンションでとんでもない事言ってるの?
美杉は、チラッとも窓の外を見ずに、
「さぁ、そろそろ学園だ。準備をしておきたまえ」
たいした準備が無いのはお互い分かっているので、美杉が言う準備は心の準備のことだろう。
さて、全く持って話は変わるが、俺は二二人の人間を殺すつもりだったんだが、心のどこかでブレーキ
がかかったのか、完全に俺が壊れずにすんだ。
「そうだ。言い忘れていたが、君の罪は私がもみ消しておいた。感謝してくれたまえ」
…本当に一体何者なんだろう、この人。
そして、俺は、学園内に入った。
☆ ★
大して広くなく、かといって狭くも無い教室にやっとたどりつき、空いている席に座る。
「全く、なんて広さだ…」
あの後、車を降りてすぐに美杉は、
「では、私は大事な用があるからね。先に特殊科の教室まで行っておいてくれたまえ。教室は、一般人と生徒立ち入り禁止と書かれてある教室だからね」
と言い残し、どこかへ行ってしまった。
この学園には初めて入るし、下手に一般生徒に聞いて特殊科の存在がばれたら、その時点で死は確定す
るしで、結局全部屋回って探した。小一時間かかった。
美杉の嫌がらせとしか思えないが、気を取り直して、級友達を観察することにする。
そこには、俺と同じ年ぐらいの少年少女が、思い思いの形で居る。ただ、居る。何をするでもなく。いや、俺と同じできょろきょろ辺りを見回している人間はいるにはいるんだが、なぜか、あれに関わっちゃ
いけない気がする。
彼女は、(言うまでも無く性別は女)極短いショート丈の短パンに、これまた極短い、へその少し上から、鎖骨の下辺りくらいまでを、布みたいな物で胸を覆っており、首の所には黒い革のベルト、右手首にも同じ物が二本、クロスする形で巻かれている。それと、足元はこれまた黒のハイソックス。編み上げの紅いブーツを履いている。
それくらいの服装ならば、まだ許容範囲内なのだが、いや、許しちゃダメだな。普通に着てたら周りか
らドン引かれるしな。まあいい、それくらいの異常がまだ普通に思えるほど、彼女は不思議な髪の色をしている。
白いのだ。底抜けに、ただ白く白く白く。白鳥の羽を、更に漂白しても足りないくらい白い髪が、毛先が腰に届きそうな髪を、ポニーテールにしている。ちなみに、その髪は、すごく服装に映えている。
おまけに、眼は黄金で、蛇みたいな縦長の瞳をしている。その勝気な瞳は大きく、猫みたいにも見える。
なぜ、そこまでの美人と関わっちゃいけないか?
簡単です。背中に明らかに悪魔の物と思しき漆黒の羽があるからです。
…絶対悪魔だ。
他にも、体中に鱗が浮いている者、あぐらをかいて浮きながら眠っている者、水が体中から滴り落ちている者、身の回りが凍り付いている者、様々だ。
そして、俺がそこに居た人間達の観察をしていたところ、教室のドアが開き、美杉ともう一人、カジュアルスーツの若い(俺たちより若く見える)女性が入って来た。
美杉は、パンパン、と二回手を叩くと、口を開いた。
「ようこそ、能力者の諸君。君達が、当学園で有意義な時間を過ごせる事を願う」
そして、女性に手を向けて言った。
「彼女が、君達の担任の、小村真李先生だ。
三年間お世話になる先生だからね。敬いたまえよ。それでは、私は忙しいのでこれで失礼させてもらうよ。じゃあ、後は小村先生に任せます」
言うだけ言うと、美杉は教室から出て行ってしまった。
そして、小村先生は、皆を見回すと、言った。
「ひとまずはぁ、そうですねぇ、皆さん、座ってもらってもいいですかぁ? 場所はどこでもいいですからぁ」
俺はもう座っていたからわざわざ移動しなくてもいいが、ほとんどの生徒が座っていなかったので、しばらく机や椅子が動く音がする。
全員が席に着いたのを確認してから、小村先生は口を開いた。
「それではまずぅ、自己紹介でもしてもらいましょうかぁ」
それにしても小村先生、どうも間延びした喋り方をするな。いや、別にいいんだけどさ。
「それじゃあ、もうこの席の順番で行っちゃいますねぇ?」
と、言い、小村先生が指差したのは、一番窓側の席、つまり俺から一番遠い席だった。
ということは、俺には自己紹介までたっぷり考える時間があるということだ。机に突っ伏して寝たふり
をしていたら、思ったよりも早く順番が回って来た。ヤベ、なにも思いつかなかった。
教室の一番前の教卓の所まで行き、教室を改めて見回す。見事に誰も俺のことなんざ見てねぇ。このま
ま席に戻ってもばれないんじゃないの? とか思いつつ、一応律義に名前だけは告げ、席に戻る。
自己紹介は俺で最後だったらしく、小村先生は教卓の所に立ち、口を開く。
「ではではぁ、まず、君達の能力、について説明させて頂きますねぇ。さて、この能力はですねぇ、科学
では証明できない、神や、伝説上の動物や、悪魔の眷属などからぁ、加護を受けぇ、俗に超能力と呼ばれるぅ、超常現象を体現する人間の事を指しますぅ。そしてぇ、その、その能力者達を集めて観察・育成・実験するのがぁ、当志義野学園特殊科なのでぇす。お分かりですかぁ?」
小村先生は、そこで舌っ足らずの甘い声を切ると、ここまでで質問はないですかぁ、という意味であろう間を取ったが、誰も何も聞かない。
「君達はぁ、書類上はこの学園の志義野学園普通科に通っている事になっていますのでぇ、なにかあったらぁ、普通科生を名乗って下さいねぇ。後、私服登校可能なので、制服は別に着なくていいですよぉ?」
言葉の最後の方で俺のことを見てた気がする。そういえば、制服を着ているのは俺だけだった。…覚えて置けよ! 美杉!
「それではぁ、君達にはぁ、自分の能力が何なのかぁ、知ってもらわなければなりませんのでぇ、特別教室に移動してくださぁい。この教室のすぐ隣ですからぁ、ちゃっちゃと移動してくださいねぇ」
☆ ★
隣の教室は、真ん中に一つだけ椅子型の機械が置いてあった。
「ではぁ、順番にこの椅子にすわってくださいねぇ」
誰も、怪しい機械に近寄ろうとはしないかと思いきや、案外皆簡単に機械で検査を受けている。俺だけ能力を検査しない訳にもいかないので、椅子に座る。
座ると、電極を体中に計八つ貼り付けられる。
隣では小村先生が、小型のデータ端末みたいなのをのぞいて、ときおりしきりにうなずいている。
そして、俺の体中につけた電極をぱつっぱつっと取っていく。正直、なぜこんなので能力の正体が分か
るのかは、甚だ疑問だが、俺に機械の詳しい事はわからない。
「検査結果がでましたよぉ」
俺の電極を全て外してから、小村先生は言った。
「君の能力はぁ、破壊神の加護を受けた、能力発動時に強大な攻撃力を得るかわりに、防御力がゼロに等しくなる力の増幅系能力ですねぇ」
なるほど、ってか、能力発動時防御力ゼロって、超諸刃の剣( つるぎ)能力じゃねえか!でも、攻撃は最大の防御って言うし、なにより、攻撃力はある。大丈夫だろ、多分。
そんなことを考えながら、右手を握ったり開いたりしていたら、いつの間にか全員の検査が終わったのか、小村先生は手を一回叩くと、言った。
「では、能力以外の注意を行いますので、もう一度教室に戻ってもらいますねぇ」
☆ ★
教室に戻り全員が席に着いたタイミングを見計らい、小村先生は口を開いた。
「それではぁ、順番が逆になりましたがぁ、当学園で過ごすことについてのぉ、注意事項を説明しますね
ぇ」
言われてみて、確かに、学園における生活について説明されて無いことに気付き、自分も緊張してたの
か、とひそかに思う。
「まずぅ、君たちにはぁ、当学園寮の一般人立ち入り禁止エリアにて生活してもらいますぅ。部屋割り表
はぁ、後で配りますねぇ。
寮についての詳しい事はぁ、寮監さんにきいてくだぁい。次にぃ、学園の設備についてですがぁ、設備は使う時に逐一説明しますのでぇ、今は言いません~。
最後にですが、君たちにはぁ、学園で、君達の実験代としてぇ、月に少しだけぇ、お金が支給されまぁす。このお金はぁ、自動的にデータ化もされておりますのでぇ、これから配る生徒手帳のIDで学園内の支払いは全て済ますことができまぁす。残金はぁ、自室のスキャナで確認してくださぁい。もう、君達の口座にはぁ、前金としてぇ、いくらか振り込まれているはずなのでぇ、また後で確認しておいてくださぁい」
小村先生はそう言うと、どこから取り出したのか、生徒手帳を配り始めた。俺も受け取り、観察してみる。本当だ、裏にIDがついてる。無駄に凄い。
「これでぇ、あらかた説明は終わりましたのでぇ、今日のところは、解散ですぅ。速やかに寮に行ってくださいねぇ」
小村先生は言うだけ言うと、教室を出て行ってしまった。が、すぐ帰ってきた。
「言い忘れてましたがぁ、寮の裏ロビーでぇ、寮監さんのオリエンテーションがありますのでぇ、一度裏ロビーに集まってくださいねぇ。…あ、裏ロビーって言いますとぉ、一般人立ち入り禁止エリアの寮のロビーってことですからねぇ? ちなみにぃ、一般エリアが「表」でぇ、立ち入り禁止エリアが「裏」になりますのでぇ、注意してくださいねぇ」
それじゃ~先生忙しいので、と小村先生は最後に告げると、教室を出て行ってしまった。
ほんと、見た目と同じくらい子供っぽいな。
ともかく、俺にする事はないので、寮に向かう事にする。
☆ ★
「ここか」
目の前にそびえ立つ寮の前で一言。とにかくデカイ。その言葉しか感想がでてこない。
あまり入り口の前で立ち止まってるのも何なので、思い切って中に入る。
うお、エレベーターまでついてる。エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。小村先生は確か、
「エレベーターに乗ったらぁ、まずは最上階に昇ってぇ、エレベーターを出て真っ直ぐ行った突き当たりの壁を、二回叩いて下さいぃ。ドアになりますからぁ」って言ってたからな。
エレベーターから降りて、突き当たりまで行き、二階ノック。
ドアノブが壁の右手側からせり出してくる。それを捻ってまわし、中に入ると、背後で勝手にドアが閉
まり、目の前に現れたのは螺旋階段だった。
出方が分からないので、俺に残された選択肢はこの螺旋階段を昇るしか無い。
よし、と心を決め、昇ってみる。
昇りきった先は、ロビーだった。や、正確に言うと、裏ロビーだな。
既に何人かが来て、思い思いの形で待機している。
俺も、ロビーの椅子に座り、寮監を待つ事にした。
☆ ★
全員が集まったところで、寮監が入って来た。
中学生くらいの背丈に、茶色いふわふわしたロングヘア。青系のカジュアルスーツの上下に青いハイヒ
ール。眠たそうな双眸。間延びしたその喋り方は、
「小村先生じゃないか!」
そう、小村先生だった。
「そうですぅ。人材不足なのでぇす。小村先生改めぇ、小村寮監でぇす☆」
最後にウィンクを一つ。…あまり触れないでおくことにする。何か深みにはまりそうだからな。
「寮にはぁ、消灯時間に起床時間はありませんがぁ、学校には遅れないようにしてくださいねぇ? それ
と、寮にはぁ、この階にありますのでぇ、ここで食事を摂っていただいても結構ですぅ。昼はぁ、弁当も売ってまぁす。利用してくださいねぇ? ではぁ、何か質問はありませんかぁ?」
誰も何も言わない。何だかんだでこの先生、説明するのが上手い。
「ではぁ、部屋割り表を配りますねぇ? 部屋はたくさんありますのでぇ、一人一部屋ですぅ。あ、部屋
の鍵はぁ、生徒手帳であきますのでぇ、鍵はありません~。他にはですねぇ、部屋にある備品は全て支給ですのでぇ、自由に使ってくださいねぇ?」
そういって小村先生はプリントを配り始めた。俺は、……一三号室か。微妙に縁起悪いな。
「あ。そぉだ、消耗品はぁ、無くなった時に購買で買って下さいねぇ?」
と言って、指差した先に購買はあった。
「プリントを受け取ったらぁ、今日はぁ、もうこれ以上何も無いのでぇ、解散としますねぇ? あ、でもでもぉ、明日の朝はぁ、七時に教室集合ですのでぇ、遅れないようにしてくださいねぇ?いくらもう春休みと言ったってぇ、一般生徒の一部が寮に残っていますのでぇ、集合時間は早めでぇす。ではではぁ、鍵を取りに来てくださいねぇ」
俺は、とりあえず部屋に向かう。
「と、一三号室は、と。……お、あったあった」
裏ロビーから階段を上がった二階(……二階?)の、一番端っこに俺の部屋はあった。
ドアには白紙の紙がついている。きっと表札だろうな、と、その紙をとりつつ部屋に入る。後で名前を
書いておこう、と心にメモする。
部屋は、確か四畳半の1DKって小村先生は言ってたな、と頭の片隅で思い返しつつ、新しい我が家の
中を探検する。
さすが超有名私立高校だな。床はもちろんフローリング、壁紙は落ち着いた白。おまけにユニットバス
と、トイレまでついてる。それに、ベランダもあるな。
極めつけは、家具がすでにある。
「すげぇ、ベッドなんて始めて見た!」
俺の家は貧乏だったので、いつも床で布団敷いて寝てたからな。これはテンションあがる。これで毎晩
寝ていいの? お金とか取られない?
部屋にはキッチンがついていて、小型冷蔵庫もある。試しに開けてみると、
「ま、何も無いよな」
急にテンション下がった。
他に何か無いかと、ベッドがあった部屋を見に行く。おぉ、学習机がある! 前住んでた家では食卓兼
学習机だったからな。
ちなみに、さっきリビングを見た時、綺麗な木の机が置いてあるのも確認している。すげぇ、家に二つ
も机がある! 落ち着け、落ち着け俺。今日はどうかしている。
時計(枕元にあった)を見る。そろそろ食堂が開く時間だな。
部屋の入り口の所にあるスキャナに生徒手帳をかざす。残金を確認しようと思っただけだが、表示され
た金額を見て、目を見張った。
残金が、十万円もある。一瞬、遺産も入っているのかと思ったが、美杉は全てを捨てて、と言っていたから、これは全て前金として振り込まれたお金なのだろう。
部屋のドアにも生徒手帳をかざし、開錠する。入るのも出るのも生徒手帳が必要なら、無くせないな。無くしたら大変な事になりそうだ。いや、なるな、必ず。
廊下に出ると、自動でドアが施錠される。出る時にも生徒手帳が必要なのは、締め出されないようにする意味合いもあるのだろう、多分。
とにかく飯だ。寮食堂に向かおう。
☆ ★
券売機に生徒手帳をかざし日替わりランチの食券を買う。
それをカウンターごしに渡す。
厨房にいて俺の食券を受け取ったのは、中学生にしか見えない幼い見た目、茶色いふわふわのロングヘア。割烹着を着て、頭には白い帽子。いつも眠たそうな双眸。間延びした喋り方は、
「小村先生じゃないか!」
そう、どこからどうみても小村先生だった。
「そうですぅ。人材不足なのでぇす。小村寮監改め、小村シェフでぇす☆」
この人は本当に、何やってるんだろう。あとウィンクするな。なまじ見た目が綺麗なだけに、無駄にドキドキする。
「日替わりランチですねぇ?」
厨房の奥に向かって繰り返す。日替わりランチ入りまぁす! その後、厨房の奥に入り日替わりランチを持って出てくる。
「はぁい、日替わりランチでぇす」
小村先生から日替わりランチを受け取り、空いている席を探す。というか、ほぼ空席だった。浮かれすぎて、どうやら早くに来すぎたみたいだ。まぁ、まだ食堂が開いてから二分しか経ってないからな。
食堂の席は、四人がけの席と、二人がけの席があり、更に、四人がけの席が二つくっついて八人がけに
なっている席がある。大体、四〇人くらいは座ることが出来そうだ。
壁際の二人がけの席に座り、手を合わせる。
「いただきます」
食べ物と作ってくれた人に感謝する。基本だな。
本日の日替わりランチ、メニューは豚のしょうが焼きに、キャベツの千切りと味噌汁、白飯がついてい
る。味噌汁の具は、筍だな。軟らかくて美味い。
そんな事を考えているうちに食べ終える。
「ご馳走様でした」
ちゃんと手を合わせて。食べ物と作ってくれた人以下略。
トレーにのっていたそれを、カウンターの返却エリアに返し、今日は部屋に帰ることにする。
結局、部屋に帰るまで廊下では誰とも会わなかった。
☆ ★
部屋の洗面所にて歯磨き(新品が置いてあった)をして、風呂に入った。湯船で足が伸ばせてびっくり
した。あ、後、シャンプー各種石鹸類まで新品で揃っていたのには戦慄を覚えた。
今日は、特にすることも無かったので、スキャナで、天気予報を見たり(超便利!)ニュースを見たり
(すげぇ!)テレビを見たりした。(テレビなんて始めて見た)スキャナは、自由に動かせる事に気付い
て、部屋のいたる所に置いたりして遊んだ。
…俺かなり暇人だな。もう寝よう。我に返ったら、急に虚しくなった。
寝よう。
もし読んでくれてる方がいれば、お疲れ様です。
結構変わってるところ多かったでしょ?




