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さよならバイバイまた来世

作者: しゅがー



みんなは知らない。


それはまるで掌のブドウ、足下のモモ、頭上のサクランボ。

潰すのは簡単だけど…後片付けが面倒くさいし、何より、そう…全身が汚れる。だから私は腐ったその実をあえて潰さないのだということを…みんなは知らない。











「しゃがめ!!」


その声に従って耳と目を塞ぎながら素早くしゃがむ。

コンマの差で後方から響く強い光と小さな悲鳴。

只でさえ脆い廃ビルが、ギシリと軋んだ音がした。



「ちっ、まだ閃光弾持ってやがったのか」

「まったくしぶといなぁ…。ゴメン、助かった」

「生きていてくれれば、そんでいい」


会話を交わしながら伸ばされる手を掴む。ゆっくりと立ち上がって服に着いた砂をはらえば、途端に手のひらに感じる生ぬるい感触。


「…汚れた」

「…お前も、随分とたくましくなったなぁ、一條」

「だって死にたくないもん」

「うん、まぁ、そりゃそうだ」


笑いながらそういう眼前の男の名前は時宮時雨。私との関係―――クラスメート。特徴、地味で眼鏡。…備考、但しこちらでは強い。









私が此の世界にやって来たのは、今から1ヶ月程前のことだ。


いつものように対して面白くもない友達の話に相槌を打って、対して面白くもない昼休みを適当に過ごしているときだった。

一回瞬きをしたその瞬間に…そう、私は此の世界にトリップした。

そこは人々が――詳しく言えば私の学校の生徒たちが、無差別に殺し合う世界だった。


顔見知りがいるなら殺し合いなんてしなくてもすむんじゃないか、と最初は思ったのだが、時宮曰く「もし皆が同時にトリップしてるなら、全く話題に上らない方がおかしいでしょ。実際トリップしてるのは、俺と一條さんくらいだと思うよ」…なるほど、素直に納得してしまった。


私はなんの前触れもなく飛ばされて、そしてこの廃ビルで時宮に出会った。



「そろそろ時間だね」

「次の授業何?」

「英語。予習してきた?」

「あたったらわかりませんって言うし」

「ですよね」


最後に小さく笑いあって、私達は元の世界に戻る。

毎日、24分の1時間だけ命がけのサバイバル。

ふっ、と一瞬にして襲ってくる眠気にしたがって目を閉じる。


「ねー、楓ー。聞いてる?」

「あっ、うん。で椿くんがどうしたって?」


時間は一切進んでないから、話を合わせるのもとてつもなく簡単。それだけ相手が薄い話をしてるってこと。

視線を教室の全体に向ければ、自分の席で本を読んでいる時宮が目に入る。

やっぱし…、改めて見ると暗いんだよなぁ…。









「時宮ってさぁ、何でそんなに強いの?」

「両親が海保だからじゃない?」


時宮は私が飛んでくる1年も前から一人で戦っていたらしい。ホント、よく死ななかったと思う。


もちろん、この男がクラスでも根暗男で通っている時宮だと気づき納得するのには時間がかかった。それでも彼は私の命を救ってくれたし、戦い方を教えてくれた。

ぶっちゃけ、この男が本当に私の知る時宮かなんて、この際どうでもいいことなのだ。


因みに、こっちの世界での死はあっちの世界の死に繋がるらしい。但し、私達二人に殺されたもの限定。つまり、彼らの命を握っているのは紛れもない私達自身だということだ。




1ヶ月、二人きりで戦ってきて、こっちの世界の時宮とは随分親しくなった。

呼び方も「一條さん」から「一條」になったし、口調もフランクになった。

でも、だからと言ってあっちの世界でも親しいかといえばそれは嘘だし、あっちの世界の私と時宮は相変わらず一人ぼっちだ。


「ねぇ、時宮」

「なに?」

「なんで私達飛ばされたのかなぁ…」


今まで沢山の事を時宮に聞いてきたけど、これは初めてする質問だ。



時宮は暫く考えて、あと10秒で戻る、その直前に口をゆっくり開く。ここ1ヶ月で一度も見たことのないような満面の笑みで時宮は私の質問に答えた。


「自分以外、みんな死んじまえって思ってるからじゃね?」

「えっ、ちょ、時宮!ときっ…時雨!!」



…そう、時宮があまりにも悲しそうに笑うもんだから、慌てて手を伸ばしたけれども、私の右手は虚しく空を切る。



「ときっ…!!」

「とき?どうしたのいきなり大きな声だして

「え、あ…」


眉間にえいっと軽くチョップをされて、私は元の世界に戻ってきたのだと実感する。


「全くもー、しっかりしてよ」

「あはは、ごめーん…」


そう言いながら、目の前の友人Aを見る。長い髪、濃い化粧、甲高い猫なで声。名前は…何だっけ。


『自分以外、みんな死んじまえって思ってるからじゃね?』

時宮の悲しげな声が私の脳裏に反芻する。




――あぁ、そうだった私は…。



『自分以外、

私以外の人間なんて、



みんな死んじまえって

みんな死んでしまえばいいと、



思ってるからじゃね?』

思いながら毎日を送っていたんだ。




「ごめんねー…」

「え?あぁ、もういいよ」

「本当にゴメン…」



ゴメンねみんな、さようなら。




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