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5 山賊と犬、そして……

「で、考えって?」


「こういうのは単純なのが良いんだ。暗闇に紛れて犬かっさらう、それだけよ」


「絶対吠えるじゃん」


「そこでだ。おいカリル、ちょっと服脱げ」


「え?」


「お前……そっちのケもある触手なの?」


「ちげーよ馬鹿! 臭いだ臭い! 元の主人の臭いを嗅げば大人しくなるだろ!」


「ああ、そういう……」


「じゃあ、僕のシャツを貸すよ。お願い、バーニーを連れて帰ってきて!」


「おう、任せろ!」


「体を動かすのは私だってこと忘れんなよ」



 俺たちはカリルのシャツを手に来た道を戻り、山賊たちの廃村を目指す。向こうもまさか逃げた獲物がノコノコ戻ってくるとは思うまい。これぞ、心理的死角を突いた一手ってやつだ……



「ったく、なんでアビリティの意見を聞かないといけないのよ……」



 道から逸れて茂みを縫い歩く中、ストラが不平をたれた。こんなやつだが当面行動を共にする以上、それなりに付き合いってものが要るだろう。まずは……



「そのアビリティ、とか触手、って呼び方止めようぜ。俺だって一人の人間なんだしよ」


「触手じゃん」


「今はそうだけどな! 俺だって前はな!」


「はいはい、じゃあ何て呼べばいいのさ」


「俺はな、俺、俺の名前……」



 おかしい、名前が出てこない。いやそれだけじゃない、元の顔、家族。人生のあらすじみたいなものは覚えてるのに、その詳細を思い出そうとするとたちまち(もや)がかかったようになる。自分のことを忘れるなんてことあるか? ボケるような歳じゃないぞ俺は。



「名前、思い出せねえ……なんだ、どうなって……」


「はい、触手で決定ね」


「ま、まてまて! そんなあっさり流すことじゃねえぞ!」


「知らないし。割とどうでもいい」


「おーまーえー……!」


「そう言うことじゃなくてさ。お前は私の付属品なんだから、勝手に何するとか決めるなって話よ」


「よーし、その辺はハッキリさせとこうぜ。俺はお前に協力はする。だが俺には俺の目的がある、それについては文句は言わせねえ」


「目的ってエロいことでしょ」


「何が悪い! 人が生まれ持った原初の機能の一つだろうが!」


「触手じゃん」


「今はそれは置いていてだ! とにかく、俺とお前は離れられねえし、 お互い相手に抵抗はできるが決定権を握ってるわけじゃねえ」



 こっちがストラに逆らったところで、体の主導権がストラにある以上根本的な所でストラには従うしかねえ。一方のストラも、山賊やらなにやらから逃げ、欲しいものを手に入れるには俺が居た方が良いのはわかっているはずだ。



「ここはよ、お互いを尊重してだ。うまいこ~とやってくべきだって思わねえか? 邪魔しあって潰れるより、その方がずっと賢いってもんだろ」


「言い分は正しいかもしれないけどさ、それを私が居ないと存在できない奴に言われるとなんかムカつく」


「ワガママ女が……」


「なんか言った?」


「言ってませ~ん」


「……まあ、わかったよ。少なくとも裏切ることはないわけだし」


「よーし。それじゃあ対等な関係って奴を築いたところでだ。ちゃちゃっと犬連れて帰るとするか! 美人の未亡人が俺を待ってるわけだしな!」


「ちょん切ってやろうか」



 名前については今度神と話すときにキッチリ問い詰めねえといけねえとして、とりあえず今のところは目の前の女。ついてはそのとっかかりとなる犬を無事連れ帰る! 俺は意気揚々と山賊たちのねぐらへ向かうのだった。


 到着した山賊たちのねぐらは静まり返っていた。草が風で揺れる音がわずかに聞こえるが、人の気配はない。



「へっ、やっぱりな。昼間は総出で獲物を探しに出てやがるんだ」


「なんでわかったの?」


「あの時出てきた人数とねぐらに居た人数が同じだったからな。なけなしのお宝も掠め取った以上奴らがここに残る理由はねえだろ」


「なるほど。それじゃさっさと犬捕まえて帰るか」



 一応体を伸ばして上から見てみたが、村の中に人の姿は無い。ストラは姿勢を低くして、山賊たちの拠点になっていた家へと駆けよっていった。



「お~い、犬~、犬~、居ないか犬~」


「バーニーって言ってたろうがよ……」


「犬に違いはないじゃん……あ、今足音……」



 外から呼びかけると中で動く気配がした。窓から覗き込むと……中には繋がれた一匹の犬。長い鼻の顔には白い十字の模様が見えた。



「居たぞ、おい、シャツシャツ」


「わかってるっての……」



 中に誰も居ないことを確認し、シャツを片手にストラは中に入る。こちらに気づいたバーニーは唸り声を上げたが……ストラがそっとシャツを鼻先に差し出すと、臭いをかぎ……大人しくなった。



「よし、上手くいったぜ!」


「それじゃ、連れて帰るよ」



 ストラがバーニーを繋いでいた紐を切り、握る。あとはさっさと村まで戻るだけ……



「ぎゃああああ!!」



 だという時に、外から悲鳴が聞こえてきた。



「え、何……!?」


「おいおいおい、何だってんだ」



 窓から外をのぞく……悲鳴の聞こえた方から、3,4人の男が泡を食って走ってくるのが見えた。



「ありゃ、山賊どもじゃねえか。一体……」


「討伐隊でも来たんじゃない?」


「だとすりゃ楽な話……」



 言葉を言い終えるより前に、先頭を走っていた一人が雷を数段小さくしたような光と共に倒れる。さらに一つ、二つ。光は森の中から飛んできて、山賊たちを打ち倒した。



「な、なんだありゃ」


「知らないよあんなの……小さな雷……!?」


「ひっ、ひいいっ……!」



 最後に残った一人……山賊の親玉が家の手前で転び、地面を這うようにして後ずさる。その視線は、光の飛んできた森の中へと向いていた。その森の中から人影が現れる。だがそれは……人間じゃあ、なかった。



「ま、待ってくれ! 期限は五日後のはずだ!」


「ハァ~……ああ、そうだな。だが今まで成果なしだろ?」



 全身が薄茶色でツブツブとした肌、髪がなく頭の周りには角がある。そいつは一見すると二本足で立つトカゲのような見た目で、その背丈はそこらの男を上回っていた。着ている物は俺達とさほど変わらないが……腕に青く冷たい光りを放つ籠手を着けている。



「見切りを付けさせてもらった。五人分の首はお前たちで賄う」


「や、やめ……!」



 そいつが籠手を山賊の親玉に向けると、籠手から雷が飛び出し、親玉を打つ……その瞬間親玉の体は痙攣し、口から煙を吐き出して倒れてしまった……



「なっ……何……!?」


「やばい、なんか知らねえがやばい、隠れろ!」



 ストラと俺は身をかがめ息を殺す。外からはザク、ザク、と、何かを切る生々しい音が聞こえてくる。



「……!」



 ストラの体が震えているのが伝わる。表情、口を震える手で抑える姿からは怯えが感じ取れる……



「(くそ、くそ……来んなよ、こっち来んなよ……)」



 音はしばらく続き、そして止んだ。



「フゥ」



 まるで一仕事終えたような声が聞こえ、重い足音が離れていく。



「(よし、そのまま、そのまま行っちまえ……)」



 ストラも少し表情が緩み、こわばらせていた体の力を抜いた。その足が、近くに立てかけてあったクワか何かに当たって……



「ぁ……!」


「(やべ!)」



 体を伸ばし倒れそうになったそれを支える。



「(ふう……)」



 腐っていた柄が折れて、先端が床に落ち音を立てた。



「(嘘だろおい!?)」



 俺とストラの『しくじった』という顔が向き合う! 足音が止まり、近づいてくる……



「(どうする、逃げるか!? 相手は飛び道具持ちだが俺が囮になれば……けどあんなもん見たことねえ! 斬られたときみたいにまた生えてこれるのか!?)」



 足音が家の前まで来た。



「(ええい、やるしか!)」



 俺は窓から体を出し、謎の大男の後ろ頭に一発……かまそうとした時、家から何か飛び出した! 大男はそれに腕を向け……



「ガウガウガウ!」



 バーニーだ。飛び出し、大男に吠え立てている。それを見て居た大男は……



「……ハァ」



 ため息をついて手を下ろした。急いで体を縮め窓の中に引っ込むと……足音は離れていき、やがて聞こえなくなった……



「……ぶっはぁ~……」


「い、行った……よね?」


「ああ、とっとと戻ろうぜ。ありゃヤバい」



 家から出ると、そこにはグロテスクな光景が広がっていた。倒れていた山賊たちは全員首をもぎ取られて、そこから血だまりを作り出している。その光景に、ストラは顔をしかめた。



「うげ……」


「首を取ってったのか……一体何なんだ……」


「とにかく行くよ、戻ってこないうちにさ……」


「そりゃ同感だ」



 ストラはバーニーの綱を握ると村の方へと小走りに駆けだす。後を追ってくる者はおらず、俺達はどうにか犬を連れて帰ることができた……


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