49 第一部「旅立ちと出会いと」編 完
「さて、どうしよっか。サイアから宝石貰う約束したし、取りに行こうかな」
「流石に姫さんに請求に行くのはヤバいだろ。しばらく時間潰してりゃ、呼ばれるんじゃねえか? 例の毒液用に買い物だってしなきゃならんしな」
「あれ、本当に使うんですか……?」
宿の食堂。開放的な雰囲気の空間で朝食をとる。王様の厚意で宿代も持ってもらってるし、もうしばらくはここに滞在してもいいだろう。
「使うよ。それはもう決めたことだから……そう言えば、微生物とか言ってたっけ。生き物ってことは、餌とかやった方が良いのかな?」
「試してみるか? 肉を溶かすわけだから、餌も肉が良いだろ……」
ストラは毒液入り水筒をテーブルに乗せると、皿に載っていたソーセージを一つ取り、その口の中に入れる。ふたを閉めてゆすると……しばらく中でソーセージが当たる音がしていたが、ほどなくタプタプという水音だけになった。
「……溶けたみたい。これで良いのかな」
「微生物群総体積の上昇を確認。維持管理の手法として適切と判断します」
「ニックがそう言うなら良いんだろうな……で。これをどう使うかだが……」
「う~ん。どんなふうにしたもんかな……リオ、なんかない?」
食事を終えた俺達は街に出る。大きな街だけあって武器の店も有るが、何を買うかについてはまだ決めあぐねていた。比較的こういうことに見識がありそうなのはリオだが……
「そうですね……毒を使う武器と言えば矢毒……弩クロスボウはどうでしょうか? 比較的すぐ習得できると言いますよ」
「だが、外したらもう一度使うには力が要る。ストラにゃちときつくないか?」
「だよね。私の力が無いのを補うためなんだから。あと手入れとか面倒じゃないのが良い」
「うぅ~ん……前提として水筒の口に出し入れできる細長い物。そして頑丈で手入れの容易な単純な武器。ストラさんが使うなら小型軽量……スティレットなんかでしょうか」
「なにそれ?」
「刺すことに特化した短剣です。尖らせた鉄棒に柄を付けたような物で、先端は鋭いですけど刃はついていなくて、刀身は太いので頑丈、研いだりする必要もあまりないんです」
「俺としちゃ、近接武器は避けた方が良いと思うんだがな。うっかり汚染された返り血でも浴びたらまずいだろ」
考えつつさらに街を移動。行き交う奴らの口から、噂話も聞こえてくる。
「聞いたか、大道に出た化け物が倒されたってよ!」
「人間の王様が軍を率いたんだって? 戦士長不在でどうなることかと思ってたけど……」
「獣人たちの兵士が最後まで戦って支えたんだってよ」
「まあ、なんだかんだ、あいつらはいざとなれば頼もしいよな。体も強いし心も折れないってのは、やっぱり頼りになるもんだ」
「なんでも助っ人が居たって話だぞ。黒い騎士と、軽業師の女だとか」
「軽業? 私は蛇使いだって聞いたわよ」
「でね、人間の王様がサイア様に求婚したって!」
「ええ、本当!? それで、どうなったの!?」
「わからないわ~、でも本当だったら近々発表があるんじゃない?」
やはり今一番の噂の種はフォーンドルのことのようで、住民は皆に安堵や関心を口に上らせている。そこには俺達のことも含まれているようだ……
「軽業はともかく、蛇使いって何よ」
「触手さんのことを知らないと蛇に見えるんじゃないでしょうか……」
「笛も持ってねえってのに……お、そうだ。吹き矢があるじゃねえか! 軽いし力も要らねえから、ピッタリだろ!」
「吹き矢は繊細な道具です。雨で内部が濡れたりしただけでも弾道の変化を起こしえます。また、矢に独特の加工が必要であり、補充の面から見ても旅をする私達には不向きです」
「割ときっちりダメ出ししますね、ニックさん……」
「でも、大体方向は決まったよね。飛び道具で、全部鉄で細くて長くて……よし! ニック、鍛冶屋探して鍛冶屋」
何か思いついたらしいストラが、ニックに先導させて鍛冶屋に向かう。そして注文した物とは……
「お前……マジでそれで行くのか?」
「マジだよ。前使ってるの見たことあるもん」
「大道芸か何かでしょうか……」
数日後、ストラが手にしたのは、釘を角ばらせたような鉄の棒、太さはストラの指の3分の2ほど。長さは手首から先と同じくらい。それがざっと20本。形が簡単なだけあってすぐ用意されたが……
「投げて使うなら投げナイフで良かったんじゃねえの?」
「水筒の口に入るような長さと細さだったらこれと大して変わんないよ」
「そうかもですけど……大分練習が必要ですよ?」
「それはやるよ。それに、別に刺さらなくても良いんだし」
ストラはちょっと浮かれているようにも見える……が、その言い分にも一理ある。形は単純だから減っても補充が効くし、ストラの機敏さを妨げない。どの道買ったんなら、使い方を考える方が前向きだ。それから続いて革細工屋に赴き、釘もどきと毒液入れとなった水筒を一緒に入れるためのポーチを買う。ベルトを腰に回して止めるタイプで、ストラの左腰に新たな装備品が増えることになった。後は新しい水筒や食料の買い足しを行い、次の旅の準備を進める中……俺達は呼び出しを受けた。何と王様と女王様連名で、だ。
「うーむ、姫さんじゃなくて王様からか……」
「な、何かまずいことしたんでしょうか……?」
「それはないでしょ、とにかく行ってみよ」
呼び出し先である神殿に赴く。正面からまっすぐ入り、大きな階段を上ってホールに入ると……そこでは正装をした王様と女王様が待っていた。
「な、なになに……?」
「何か正式な儀礼って感じです……」
「よく来られた、ストラ殿」
「さあ、皆さん前へ」
玉座の左右にはピシッと姿勢を正した獣人と人間の兵士が一人ずつ。否応なしに引き締まった空気。さすがのストラも戸惑った様子だが、そのまま前に進み出る俺達に、王様が言葉をつづけた。
「放浪者ストラ。そなたは此度、我が国の大きな脅威となる怪物『フォーンドル』討伐において、旅人でありながら命を顧みない戦いをみせた。その功績を讃え、貴殿に『エスクワイア』の称号を授与する物とする」
「神官長コラトーはそれを承認すると共に、碧羽褒章を授与する物とする」
「触手……『エスクワイア』って?」
「『騎士』の下で修行中の奴って意味だが……この場合特に実権は伴わねえが、立派な人物として認定する、くらいの意味だろうな」
「でも、名誉ですよ……やったじゃないですかストラさん」
「名誉かあ……まあ、認定されるって言うならされとこうかな」
「それでは放浪者ストラ、こちらへ」
女王様が呼びかけ、ストラが壇上に上がると、横から女獣人の侍女が歩み出て……そいつが持っていた箱から、緑がかった青色の鳥の羽をあしらった飾りを取り出し、ストラの胸元に添えた。
「わ、吸い付いた」
「小規模な風の魔法か。中々様になるじゃねえの。」
授与を終えて壇上から降りたストラに、王様が改めて言葉をかける。
「さて、放浪者ストラ。これよりどうするつもりか? そなたは我が婚約者サイアの信も得ている。この地にとどまり、国のため働く気はないか?」
「ん……」
「え、え、まさかの御声がかり……!?」
「……ごめんなさい、私には無理だと思う。ちゃんとした仕事なんてしたこと無いし、リオと聖地に向かうって言う約束もあるから」
「ほっ……」
「そうか……残念だが仕方ないな。大道を抜けるのなら長旅になる、乗り物が要るだろう。馬を手配しよう」
「えっ、馬? でも……私、馬なんて乗れないよ。世話の仕方だってわかんないし」
「大丈夫、私が教えますよ。慣れるまでは私と二人乗りで行けば良いですし」
「ああ、リオは騎士の家だもんな、当然馬は扱えるわけか」
「そう……? じゃあ、貰っておこうかな」
「ああ、名馬というわけでもないが、従順で頑丈だ。きっと旅の助けになるだろう。では……諸君らの旅の無事を祈る! またいつでも、この国を訪れてくれ!」
王様の見送りの言葉と共に、儀式は終了。俺達は謁見の間を後にし……帰り道の階段脇の通路から手招きする手があった。
「此度は本当に世話になったのう。改めて礼を言わせてくりゃれ」
「あ、居た居た。例の物なんだけど」
「うむ、これを受け取るがよい!」
サイアが差し出すのは……焚火のようなオレンジ色の中に虹のようなきらめきを持つ宝石! かなり大粒のそれは見ただけで高価な品だとわかる。
「オパールか、かなりの上物だぞ」
「良いんですかこんなもの……!?」
「良い、わらわからの感謝の気持ちじゃからな!」
「んじゃ、遠慮なく。それにしても、最初泥湯に落っこちてきたときは何こいつって思ってたけど、まさかこんな大ごとになるとはね」
「まったくだな……お、そうだ。泥湯で始まった一件なんだ、泥湯で締めるってのはどうよ! みんなでシッポリ湯につかってよー、たんに濡れただけとはまた一味違ったエッ、アッアッ」
投げ針で串打ちされた魚みたいにされた。
「どうよ、割と当たるでしょ」
「ストラさん、才能あるんですね……」
「それじゃ、そろそろ出発しないと。次来たときはお客様待遇でよろしく」
「うむ、旅先で暇があれば、手紙の一つもよこすがよいぞ!」
「次来た時には、エミル王との関係も進展していると良いですね……」
「そ、それはまあ、おいおい、おいおいな!」
「それじゃあ、またいつかね、サイア!」
針が刺さって床に伸びた俺をほっぽって、ストラたちは友情をはぐくんだりしていた……結局今回も役得らしい役得は無し、俺は一体いつになったら、この俺の体を十二分に使う時が来るのやら……
式典が終わって俺達は宿に戻り、荷物をまとめる。随分な大立ち回りをすることになったが、もともとの目的地は北にある、再び神の力を使えるという鉄の塔……あとついでにリオの聖地巡礼。この国はあくまでも通過点。そろそろ旅立ちの時ってわけだ。
俺達は大道を通って北へ向かうべく、川を渡って、対岸にある獣人たちのエリアを抜ける。南側に比べると人種が偏っている場所ではあるが……
「建設要員募集する! 高給保証!」
「大道が通れるようになったら、北側からも人が来るだろう? そしたらまず俺達の所を通るわけだ。商売するなら今だぜ。人間が喜びそうなものを考えるんだよ」
「建材がまるで足りてないんだ、急ぎで調達してくれれば……」
獣人の労働力を求める人間や、集まって人間向けの商品を考える獣人。どことなく空気が変わったように思える。偉いさん同士の結婚話も、多少は影響してるんだろうか。
「こっち側も、ちょっとずつ交流が始まっていくんでしょうか?」
「さあな。一時の流行で終わるかもしれん」
「ですけど、もしこの国が良い方に変わって行ったら……それはいいことじゃないですか? ストラさんもそう思うでしょう?」
「国がどうとか、話がでっか過ぎてよくわかんないよ」
「ま、次来た時にどうなってるか楽しみにしとこうぜ。そんときゃ俺も人間に戻って、今度こそあの薄着の踊り子ちゃんと熱々ぬらぬらの夜を楽し
「なんで毎度毎度ろくでもないこと言いだすんだお前は~~~!」
「あだだだだ!!」
ストラにつねられたりしつつ、俺達は樹海を北へと抜ける大道へとやってきた。緑を切り開く空の青が、遥か地平線に向かっている。宿や馬留が並び、まだ足らないとばかりに建物が増やされている最中。今後の発展を予感させる空気の中……一台の馬車が待っていた。二頭立てで、茶色と白の馬が繋がれている。
「うわぁ、馬車までついてる!」
「それも、ちゃんとした長距離乗用馬車ですよ。馬に乗れないって言ったから、気を使ってくれたんですね、きっと」
黒い木材で作られて質実剛健と言った見た目だが、屋根とガラス窓を備え長旅にも配慮されているのがわかる。こちらを認めた獣人がやってきて、一礼した。
「お待ちしておりました。こいつらはローウンとハイト、どちらも良い奴ですよ、大事にしてやってください」
「ありがと。わ、中はクッションもあるんだ」
「大道を移動するために設計されたものです。今回の旅で実用性が立証され次第、南北交易の主役になるでしょう」
「なるほどな、イフトの豊富な木材の活用にもなるってわけだ」
「王様も、先々を見据えて手を打っているんですね……それじゃあ、よっこいしょ、と」
荷物を積み込み、リオは御者台に、ストラはその後ろ、屋根部分に座る。リオは手慣れた様子で手綱を操ると、馬は歩き出して、馬車は北へと出発……小さくなるイフトの街並みを見ながら、ストラは呟いた。
「私達、大陸を半分来たんだよね」
「順調にいけば赤道を越えるから、そう言うことになるな」
「なんか……考えてみたらさ、すごくない? 街どころか、スラムからも出られない奴だっているのに、私なんかがそんな旅してるなんて」
「ストラさんが頑張ったからですよ。……ちょっと、頑張り過ぎな時もあると思うこともありますけど」
「ですが、ストラが明確な旅の目的を定めていない以上、旅程の遂行度は未知数です。今後も、さらなる障害と遭遇する可能性は非常に高いでしょう」
「わかってるよ。まあ……これからも、よろしくね。リオ、ニック、あと触手」
「俺が最後かよ。最初っからの仲間だってのによ~」
「拗ねたって可愛くないよ」
小さく笑って青空を見上げるストラの視線の先を、カラフルな鳥が群れをなして飛ぶ。その後を追うように、俺達は大道を進んでいくのだった……
カクヨムで更新していたのはここまでになります。
第一部完、ということで一時更新停止中ですが、また気が向いたら再開したいと思います。
それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!




