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48 祝いの後に

 樹海を貫き北へと向かう大道に姿を見せた怪物を倒し、祝勝会も終えた俺達は、イフトの宿に戻り休んだ。俺としちゃ納得のいかない終わり方だったが、ストラとリオは十分に楽しんだらしい……ベッドに入るなり、二人ともスヤスヤと寝入ってしまった。すっかり街が寝静まったころ。俺はフォーンドルの毒液が入った水筒をニックに見せる。


「ってわけでよ。武器に使うってんで採ってきたんだが。どう思うよ?」


「この毒液に有効な治療法はありません。武器としての有用性はあるかもしれませんが、同時に事故の際、大きなリスクが伴います」


魔水薬(ポーション)があんだろ、あれじゃだめか?」


「検証していないため確定的な発言はできませんが、これまでの使用例を見ると魔水薬(ポーション)と呼ばれる薬品は、主に損傷した体組織の急速な再生を促す物のようです。そのため付着した部位周辺を速やかに刃物等で除去した上で使用すれば有効かもしれません」


「自分の肉を切るか。理屈じゃそうでも実際やるとなるとってやつだな」


「付着したのがごく少量であれば、速やかに大量の水で洗い流すことでも被害を防ぐことはできるでしょう」


「う~む……」



 安全に行くなら、これは諦めさせた方が良いんだろう。ベッドの足元で、俺はニックと錫の水筒を挟み、腕……じゃなく小触手組みして唸る。


「だが、やっぱ切り札は必要だろうよ。あんな化け物がうろつく世界になっちまったならなおさらだ」


「有効な自衛手段が必要であるという意見には同意します。しかし、比較対象として魔法が存在します。事故の危険がある毒液をあえて使用する意義があるでしょうか?」


「魔法か。俺の知ってる時代とはずいぶん変わっちまったが、基本が同じだとするなら……ストラ向きじゃないな。どうしても足を止める必要がある」


「機敏性を旨とするストラのスタイルとは合わないのですね。であれば、何かしら専用の道具を用意するべきでしょう」


「武器新調か。ま、その辺は明日二人とも話してみるわ」


「了解しました」



 ニックは座って動かなくなり、俺は水筒を荷物に戻して、ストラのうなじに引っ込む……別に出てても良いんだが、出てると寝返りに巻き込まれたりするので休みたいときにはこっちが良い。で、だ。



「なあ神よ。また例によって知らないって言うんだろうがよ。漏れ出たお前とやら、一体どのくらい世界を変えちまったんだ? 元はお前なんだろ? どうなったかくらいわからねえのか」



 ストラのうなじの中……と言っていいのかわからんが、どことも取れない暗闇の中。俺は俺をこの触手姿にした張本人、神と語り合う。姿も見えない相手だが、そこにいるということはちゃんとわかる。妙な感じだ。



「私から離れた私はもはや私ではなく、その行方を知ることはできません」


「ま、そんなに期待はしてなかった。まったく……ゴブリンだのトロールだのはまだ聞いたことのある奴らだったが、肉を溶かしてすする巨大昆虫なんてバケモンまでいる世界になっちまうとは」


「あなたと仲間が立ち向かい、乗り越える姿はとても目を引かれました」


「面白かったってか? こっちとしちゃ死ぬかと思ったがな」


「あなたは死にません。あなたを形作るのは私の無限。尽きることはありません。何度もその身をもって知っているはず」


「俺の身……? あ! ひょっとしてアレか! ストラがブチブチちぎってもすぐ生えてくるあれ!」


「気づいていなかったのですね……」


「そう言うもんだとばっかり思ってたぜ……ん、まてよ? 俺が不死身だとして、ストラはどうなんだ? 俺は今ストラのアビリティって奴になってるらしいが」


「いいえ。彼女らは無限ではありません。皆少しずつ、離れた私を取り込んでいますが、無限には程遠い」


「ま、そう都合よくはねえか……だが、それならなんで俺の方が力関係下なんだ? 聞いた感じ、俺の方がお前の力を強く持ってるはずだよな?」


「無限であるがゆえ、世界に収まるためにわくが必要なのです」


「そういうもんか……無限ってのもなかなかどうして不便なもんだ。」


「枠を外れ、無限を自在に振るうことを望みますか?」


「どうせろくなことにならねえ奴だろそれ。ま、そう言うのはもっと後の楽しみに取っておくわ」


「あなたがそうするのであれば。これからも、あなたを見せてください」


「ま、見るだけなら勝手にしといてくれ。そんじゃな……」



 神は俺達を観客めいて見ているらしい。あんまりいい気はしねえが、少なくともストラに雑に扱われて、いつか再生できなくなる、なんてことはなさそうなのはわかった。とはいえ……もうちょっと優しく扱ってもらいたいもんだが。そんな事を思いつつ、しばらくうたた寝的な時間を過ごして……



「お~い、朝だぞ出てこーい」



 そんなストラの呼びかけで顔を出すと、日の射し込む宿の部屋で、服を着終えて髪を結いなおすストラと、ピッタリインナーのままベッドの上で眠そうにしながら伸びをするリオの姿。今日も新たな一日の始まり、というわけだ。

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