47 勝利の宴を
フォーンドルの死体は全部溶けてしまったため持ち帰れなかったが、代わりに前王と戦士長の遺品が勝利の証となった。大道から神殿まで来た頃には既にちょっとした騒ぎになっており、人込みを割って、サイアもエミルの前にやってきた。
「サイア! 出迎えてくれるなんて!」
「ま、まあの。怪我はないようじゃの」
「私を心配して、彼女たちを送ってくれたんだろう? ありがとう、おかげで勝つことができた」
「そのようじゃな、お主らも、ご苦労じゃった!」
「ストラの無鉄砲のおかげで怪物とやり合う羽目になったがな~」
「ひどい目に遭いました……」
「私が何も言わなくてもどのみち追いつかれてたでしょ」
シレッと王様やサイアと同じ立場で話してるが……まあ、一応勝利の立役者ってことでこのくらいは見逃してもらえるだろう。
そして、その王様だが……馬から降りてサイアに向き直り、表情を改めた。
「それで……その。彼女らの助力があった上で言うのはなんだとは思うけど」
「むむ?」
「これで、君の父上に並ぶほどの武勲を上げた、ということにはならないだろうか……!?」
「にゃっ!?」
「そういえば、最初はそう言う条件だったよね」
「そうだったな、ま、個人の力で倒したってわけじゃあないが、王様なら人の力を借りるのも能力のうちだしな?」
「え、え、これ、ひょっとして……求婚ですか!? はわわ……!」
王様に囲まれたサイアはオロオロしたように耳をパタパタ動かし、視線を右往左往させ……
「そ、そ、そんなすぐに決められぬわっ! こう、あれじゃ! もっとゆっくりと、お互いのことを、知って、じゃの……」
「ああ、そうだね。これからは手紙も届くし……いや、手紙だけでなく色んな事を一緒に積み重ねて行こう」
「う、うむ……そうじゃ、の。ひとまずわらわから、手紙の返事を返さねば……」
「はいはい御免なさいよ~」
おれはニョキっと二人の間に割って入った。両想いの美形同士のイチャイチャなんぞ見せられてたまるか。
「ふわ!?」
「立ち話でする話でも無いしよ~、俺達へのお礼の話がまだなんじゃないか姫さんよ~」
「なんか急に主張はじめたぞこの触手」
「……ひょっとして、お二人に嫉妬を」
「ちがわい! 礼の内容とかまだ決まってなかったからな~。こういうのはきちっとしておかねえとな?」
「そ、そうじゃの! さて、何が良いか……」
「お金! 沢山!」
「ストラさん……」
「ええ? だってお礼と言えばお金だよ」
「お姫様って、自由に動かせる現金なんてそんなに持ってないんですよ……」
「そうなの?」
「ま、まあ現金でとなるとの……じゃが宝石の類ならいくらかある故、それを渡そう!」
「サイアにばかり出させるわけにはいきません、私からもぜひお礼を」
「おお、王様話が分かる! それじゃあな、踊り子!」
「え、踊り子、ですか?」
「あ、こいつ!」
「踊り子くらいなら良いって言ったろ? 言ったろ~? どうせ祝勝会とかやるだろうからよ、そこにな? 露出多くて情熱的なのをな?」
「なるほど……わかりました、では手配しておきます。宴には招待しますので、どうぞご参加ください!」
「よっしゃあ!」
「ス、ストラさん、止めなくていいんですか!?」
「だ、だって約束したし……」
王様も人の上に立つだけあってなかなかに話が分かる奴のようだ。夜になり、神殿の中庭に人が集まる。まずは王様のご挨拶。続いて神官長からのねぎらいのお言葉。ま、この辺はよくあるやつと聞き流しておく。そして王様から乾杯の音頭と共に、宴が始まった! 大皿には色とりどりの料理が並んでかぐわしい香りを会場中に広がらせ、空を見上げれば満天の星。参加者たちは皆笑顔、まさに勝利の宴といった様相だ。
「おいおい、あれもこれもって一気に盛るんじゃねえよ、別になくなりゃしねえよ」
「だってどれも気になるし……あ、この魚の揚げ物も」
立食形式ということもあって、ストラは料理を片っ端から取っている。一通り全部食べようと言わんばかりの勢いだ……
「女なのにやるな! 戦士団でもやっていけるんじゃないか!?」
「そうだな、一番活躍してた! どれくらい鍛錬したらあの戦棍を振り回せるんだ!?」
「日ごろから鎧を着続けているのは常に戦いに備えた心構えなのか?」
「い、いえ、その……あはは……」
リオは戦いぶりが獣人たちの目に留まったらしく、囲まれて人気者になっている。本人は困ってるみたいだが、まあ放っておいて大丈夫だろう。で、ニックだが……
「ストラ。よろしいでしょうか」
「む? んぐ……なにさ」
どうやらストラに言いたいことがあるらしい。串焼きの肉を頬張ったままのストラと共に会場を離れて、庭の茂みの影でちょんと座る。
「私は基本的に、普通の猫としてふるまっています。私のことを無暗に暴露することは控えていただくようお願いします」
「それなんだけどさ、これだけ人間みたいな獣人とかいるのに、今さら喋るくらいで目立たないんじゃない?」
「私は製造段階において、なるべく自身の存在を隠匿するように指示されています。これは私の基本方針であり、これを変更することは私の責任を放棄することになります」
「でも先に喋ったのはニックじゃん、逃げろって」
「皆さんの生命保護のため、必要であると判断しました」
「だったら戦いになった時のために喋ってくれてもいいでしょ。こっちとしても聞く前に色々教えてくれた方が助かるんだけど」
「これは非常に繊細な問題であり、個別事例ごとに判断が異なります」
「どういう事?」
「皆さんの助けになることを拒絶する物ではありませんが、その結果私自身の特異性が周知の物となれば、私を鹵獲、分解しようとする者も現れるかもしれません。そうなれば私の本来の目的が続行不能になります」
「えーっと……触手?」
「要するにニックは自分が特別だってバレて、捕まえられたりすることを心配してるんだ。俺達に協力はするが、堂々とやるのはあまりやりたくないってとこだな」
「はい、ご理解とご協力をお願いします」
「なるほど……」
「まあ、ニックの立場もわかるが、俺たちゃ一緒に行動してるんだ。持ちつ持たれつって奴があるだろ? こいつはこの通り我が強いからな。できりゃ積極的に助けてやってくれや」
「なんか悪口言われた気がする」
「触手氏の要望を受諾しました。以後の行動パラメーターへの反映を行います」
ストラとニックの話し合いもひと段落したころ、中庭に設けられた舞台に人が集まりだした。これはそろそろ始まるか……!
「おいストラ、戻るぞ! そろそろ踊りの時間だ!」
「うわっと、引っ張るな~」
話し合いの仲裁だのなんだの、そんな面倒くさいことは早々に切り上げるに限る! それよりお楽しみの方が優先だ! 俺はストラをグイグイ引いて最前列を確保し、始まるのを今か今かと待ち構える……
「もう、踊りなんてそんなに見たい~?」
「良いかストラ。何も触ったりヤったりが全てじゃねえ。艶めかしく想像力を働かせる動き、見せるために作り上げられた体、薄く頼りない布地、そして舞台という越えられない一線、それら全部が合わさって触れないからこその独自の良さを醸し出すんだ。で、そういう触れない相手だからこそいざ事に及べるとなれば
「あ~はいはい聞いてない聞いてない」
「けっ、女にゃわかるめえこのロマン……」
まあストラは置いておいて。言ってみれば俺達は勝利の立役者なわけだし、多少なりとも要求をしてもいいのではないだろうか? 楽屋にお邪魔とかして特別なお楽しみをしても良いのではなかろうか? ある程度分離して活動できるようにもなったわけだしそこを……
「……おっ」
音楽が始まった。太鼓と、民族楽器なのかどこか妖しげな音色が響く……しかし神殿というこの場所であればむしろ趣があるといったところか! そして舞台脇からいよいよ踊り子が……!
「……がっ」
姿を見せたのは……デカい、筋肉モリモリの獣人の男たち。腰蓑一つだけを身につけ、両端に火のついた松明のようなものを両手に持ったそいつらは、リズムに合わせてステップを踏み、松明をグルグル回して踊り出す……
「おおー!」
「な、なんじゃこりゃ……」
「こんばんは、お楽しみいただけていますか?」
「あ、王様。凄いねこの踊り!」
「楽しんでいただけているようですね! 彼らは伝統の火踊りを修めた一団で、見ての通り肉体美を見せながらの激しく情熱的な踊りが特徴です。儀式の側面もあって国の外ではやっていないのですが、ご存じだとは驚きでした」
「ア、イヤソノ……」
「どうぞ心行くまでお楽しみください。それでは」
にっこりと微笑む王様に俺は何も言えず、離れるその背中を見送った……
「ほれほれ、お望みの服殆ど着てない踊り子だぞ~? たっぷり楽しんだら~?」
「くっそぅ……くっそぉ……」
ストラは煽るように俺を頭の上に持ち上げてよく見えるようにしてくる……夜闇の中で火を使った踊りは確かに映えるし幻想的と言えるが……!
「せめて、せめて女はいなかったのかよ~~~!」
「わ、火のお手玉だ、すごいすごい!」
嘆く俺の下で、ストラは無邪気に火踊り見物を楽しんでいたのだった……




