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46 溶融甲獣討伐戦

 野営地跡地で物資を回収し、死人は獣に荒らされないよう簡易的に埋めておく。そして……イフトへの道のりを、半分ほど来た時だった。



「警告、『フォーンドル』の足音を検知しました。北西から接近中、明らかにこちらを追跡しています」


「ほら、やっぱり追いかけてきた!」


「しゃーねえな、やるか!」


「各隊、事前の作戦通りに配置! 『フォーンドル』をイフトに入れるな!」



 兵たちが慌ただしく動き、俺達も迎撃の準備を整える。やがて、俺達にもわかるほど地面が揺れ、木々をなぎ倒して『フォーンドル』が姿を現した!



「やっぱりでけえな!」


「明るい所で見ると、不気味です……!」



 暗緑色の甲殻はゴツゴツして、陸生より水生の生き物に近い感覚を受けるが、六本の足は虫のそれに近い。前の二本は四方に飛び出たカギ爪のある指を持ち、自由に振り回せるようになっていた。巨大な目と、舌を収めるだけの顎も牙も無い口で出来た顔が、俺とリオを見下ろす。



「よっしゃリオ、頼むぞ! お前が崩れたら全滅だからな!」


「わかってますけどそう言うこと言わないでほしいです!」



 まずはリオが前に走り出る。敵もそれに反応して、腕を振りかぶる……!



「うなあっ!」



 妙な掛け声とともに腕の横振りを戦棍で受け止め、砂利を飛び散らせて押し飛ばされながらも踏みとどまる! さらに振り下ろされる腕、これはすんでのところで避け、地面に叩きつけられた腕に戦棍を振り下ろした! メキリという音を立て、殻が割れる!



「よっしゃ!」


「こ、これで逃げたりは……」


「しねえみたいだな!」



 感情があるのかは知らんが、まるで怒っているかのように、リオめがけて何度も腕が振り下ろされる! だがそれも織り込み済み、その間に槍を持った兵士たちが回り込み、足の関節部を狙って突き立てる!



「刺さった! ここなら刺さるぞ!」



 硬い殻で覆われているとはいえ、動くためには隙間が要る。そこに穂先が食い込めば、関節は動きが阻害され、確実に動きが鈍る! 暴れる足に蹴散らされる兵もいるが、何しろこちらには殻ごと叩き割れるリオが居る、相手もそっちに注意を向けざるを得ない。その隙に兵士たちが次々と関節を抑え、動きを鈍らせていく!



「よーし、良い感じだ!」


「う、うまく行くんでしょうか!?」


「それはこっから次第だな!」



 充分足回りを弱らせた所で、離れて様子を伺っていた王様が作戦通り号令を下す。



「今だ! 魔法隊展開!」



 茂みに隠れていた魔術師が飛び出し、離れた場所から魔法を唱え始める。数が減ったとはいえ、体を焼かれたことは覚えているはず! その上関節を塞がれて満足に動けない、となれば……



「胸郭内で流体音検知、噴射態勢に入ったと思われます。カウントダウン開始。8,7,」



 同じく身を隠していたニックが伝えてきたとおり、顔を持ち上げ、ギチギチという音と共に顔をもたげ、魔術師たちの方を向く……!



「よし、やるぞストラ。良いな?」


「大丈夫、行くよ!」


「6、5」



 ストラとリオとニック、俺達はそれぞれに配置した俺を介して連携をとっている。リオは前衛で敵の気を引きつつ抑え込み、ニックは攻撃のタイミングを計る。そしてストラは……体の上に積もらせていた砂利をはねのけ、跳び起きる! 敷かれていた砂利を使った簡単な偽装だったが、それでも奴の目を欺くには充分だった。脇に大きな布地を抱えたストラが、リオのすぐ後ろから駆け出し、前に出る!



「4,3」


「ストラさん敵の右腕が!」


「ヤバい、避けろ!」


「みえ、て、るよっ!」



 フォーンドルが、薙ぎ払うように振った腕を跳び込むようにして避け、背後で地面が抉られるのを感じながらフォーンドルの不気味な顔の下へ。そして、そのまま顔めがけてジャンプ! こちらも体を伸ばして首に巻き付け、ストラを引き上げると同時に、次の段階に向けて二本目を生やしておく……



「2,1」


「これでも、くらえっ!」



 ストラが空中で手を振り、脇に抱えていた大きな布を広げフォーンドルの顔にかぶせる! テントをばらして作った一枚布、それが顔を覆い、俺は二本目の触手で根元を締めて巾着型にした!



「0」



 濁った音と共に、その巾着袋が膨らむ!



「うわっとっと……! やっ! たっ! あだっ!」



 ストラはフォーンドルの細い背中に着地し、甲殻の背中を滑りながら駆け降り、腰、足、と飛び移り、地面に転がりながら着地! そして……顔面を自分の武器で溶かされたフォーンドルは六本の手足を滅茶苦茶にバタつかせ、砂利と甲殻の鳴る音を立てながら崩れ落ちた。その後もしばらく倒れたまま暴れていたが、やがて動かなくなり、巨体を大道の砂利の上に横たえた。



「……やったか?」


「生体パルスの消失を確認。対象の死亡確認」


「じゃあ……やった! 勝ったよ!」

『うおおおーーーーっ!』


 ストラの声に、異口同音に歓声が上がる。負傷者の手当てが始まるが、前回の時と違い、明るい空気が満ちている。



「ふえぇぇ……」


「うわ、リオべとべと……」


「やっぱ急ごしらえの袋じゃ全部は止められなかったか……」


「気持ち悪いです……洗いたい……」


「粘液内の微生物群は未だ活性状態です。安全のため、活動停止まで触れないようにしてください」


「それってどのくらいかかるんですか……?」


「現状の天候であれば、夕方までには乾燥、枯死する見込みです」


「夕方ですか、はぁ……」


「乾いたら死ぬんだ……じゃあ、水があったら、生き続けるの?」


「適度な水分と栄養分があれば活動・増殖を維持し、分解能力を保ち続けるでしょう」


「ふ~ん……増えるのか……」



 ストラは何やら思案顔でフォーンドルの死体に近寄る。巨大な体は、頭から順に溶けて粘液になっていっているが……



「おいおい、何する気だよストラ」


「はい触手、これ」


「あん?」



 ストラが渡して来たのは水筒。サールで買った錫製の奴だ。



「これ、汲んで」


「ああ? このドロドロをか? 何に使うんだよ」


「武器に使うんだよ。肉なら何でも溶かしちゃうんでしょ?」


「いや、だからってお前……危ねえだろ。うっかり自分に付いたらどうするんだよ」


「気を付けるよ。それに、こんなやつがまだ他にもいるとしたら、何かとっておきは持っておかないと」


「そりゃあ、まあ一理あるが……お前これからもこんなバケモンとやり合うつもりか?」


「やらなきゃいけないなら、やるしかないでしょ」


「……わかったわかった、だが水筒に入れておいて使う時にかけるってのは駄目だぞ、いくら何でも危なっかしすぎる。なんか工夫しろ」


「はいはい、じゃあ汲んできてね」



 わかってるのかわかってないのか。とにかく俺は水筒を受け取ると、死体を溶かし続けている粘液を汲む……というより詰めていく。



「よし、こんなもんか」


「あれ? 触手溶けないね」


「胃袋と同じでな。表面に粘液出せば体にゃ触れねえんだ」


「へ~、そんなこともできたんだ」


「おう、こうやって表面をぬらぬらさせてな、大事な所に擦り付けたり潜り込んだりあ痛い痛い痛い痛い!」



 根元からブチっとちぎられて粘液の塊の中に投げ込まれた……がその時、粘液の中に何か硬いものがあるのに気が付いた。殻や骨の類じゃあなさそうだが……俺はそれを巻き取り、粘液の中から持ち上げる。



「なんだあこりゃ……」



 それは金属製で、一目見ると妙な物体だった。だがこびりついた粘液を落とすと、それが剣と槍の穂先が合わさった物だとわかる。剣の尻に、槍が刺さっている……問題はそんな物が何で怪物の死体の中から出てきたかということだ。



「何それ、骨?」


「いやあ、こういう動物は普通骨はないはずなんだが」


「それは……!」


「おっと、触るなよ。まだ毒が残ってるぜ」



 日に照らしていると、王様が駆け寄ってきた。触らないように注意しながらも、王様はその剣を注意深く観察し……



「やはり、これは父の! それにこの槍は戦士長が代々受け継ぐ……」


「ってこたあ……」


「父はこいつと戦った……そして戦士長も。同じ一点を攻撃して破ろうとしたが、力及ばなかったのでしょう。そうだと思ってはいましたが、確証がありませんでした。しかし……」


「そっか。じゃあ……仇を討てたってことだね」


「ええ……皆さん、ありがとうございます。皆さんが来てくれなければ、私は今ここに立っていることすらできなかったかもしれません」


「いえ、そんなに大したことは……」


「したよ! 大したこと! お礼はちゃんと形でしてよね」


「はい、もちろんです!」



 謙遜するリオと遠慮のないストラ……ともあれ、大道に姿を見せた怪物は討ち取られ、敗走は凱旋に変わり、大道の安全も確保された。まごうこと無き勝利だ。俺達はイフトまで戻り、出迎えを受けたのだった。

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