表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/49

44 大道で王を追う

 サイアに王子の救出を頼まれた翌朝。樹海を抜け北へと続くアルバン大道、その端へと俺達は来ていた。一体どんなもんかと思ってきてみたが……



「ひろーい!」


「こりゃあ、立派な街道だな……!」


「馬車が何台並べるんでしょう……」



 神殿の北側、文字通り樹海を切り開いたように、緑の視界を空の青が一直線に抜けていく。地面は砕石が敷き詰められて細かいまだら模様になっており、馬車止めなどもあるが、道の規模に比して小さく、まだ発展途上といったところか。通行止めに遭って立ち往生した商人らしい姿がちらほら見える。



「で、王様はこの道の向こうか」


「追いつけるんでしょうか……?」


「行くしかないよ。ほら、歩く歩く」



 俺達は各々の荷物を背負って、北へ進む。足下で砂利の鳴る音と、障害物がないため一直線に吹き抜ける風の音が、俺達を包んでいった……


 しばらくして、街の景色も背後に消え、周りにあるのは道の左右に広がる樹海の緑と空の青、そして道の斑だけになった。



「しっかし、この幅の道を本当に樹海を抜けるまで作ったのか? 帝国でも何十年もかけるような大工事だぞ」


「舗装の下に、ガラス化した層が存在します。ゼロから森を切り開いたのではなく、直線状に森が消失していた所を道として利用したものと思われます」


「えっと、それってどういう……?」


「詳細は不明ですが、地質学的に判断するならば、100年から150年ほど前に形成されたものです」


「(『神々の戦争』の時期か)」


「そういうのよりさ、王様たちどのくらい先に居るかとかわかんないの?」


「音響探知可能な範囲には存在しません」


「急ぐしかないかぁ……」



 俺達は足を速める。王様たちは怪物を探しながら進んでいるはず、普通にまっすぐ行くよりは足は遅いはずだが……2,3日の遅れを取り戻すのにどれくらいかかるかだ。ま、それはひたすら歩くしかないってのはストラの言う通りなんだが……結局、その日は何にも会うこと無く日が沈み、俺達は野営に入った。携帯食料で食事を済ませ、各々のテントに引っ込んでから、俺は思っていたことを口に出す。



「友達は助ける物、か。お前があんなこと言うとはなあ」


「なにさ」


「上流階級嫌いのお前が、会って数日の奴のためになあ、って思ってな」


「お金沢山入りそうだし」


「それだけかぁ?」



 別にそこまで気になっているわけでもないが、まあ寝る前の小話という奴だ。ストラはスラムという自分の出自から、いわゆる恵まれている奴が嫌いだ。多分に妬みの入った感情ではあるんだろうが。そんなこいつがお姫様の頼みを口約束で聞くのは意外だった。

 俺の問いに、ストラはテントの中で座ったまま、遠いところを見るような目で下を向く。



「……前に言ったでしょ。私はスラム出身だから他より下なの。お金も、物もだけど。心だってそうなんだ。普通の、優しくて真っ当な心じゃないから。だから、良いことはできるときにやっておかないと、私は悪い奴になっちゃう。それは駄目だから」


「なるほどな……心って言うより、カルマの考え方に近いか」


「なにそれ」


「簡単に言えば人のやることには良い行いと悪い行いがあって、生きていく中でその良い悪いが溜まっていくって考えだな。悪い業が溜まれば悪人だし、良い業が溜まれば善人ってわけだ」


「ん……」


「だが、この理屈には穴があってな。何が良くて何が悪いかは結局誰も決められねえってことだ。悪人からなら盗むのも良いって考えるか、誰であろうと盗みは駄目、とかな。じゃあ、良いことをしないと悪い奴になると思ってる奴は善悪どっちだ?」


「何が言いたいのさ」


「自分卑下して悪ぶるのは止めろってことだよ。お前普通にいい奴なんだからよ」


「……」


「まあ、わかるぜ~、そう言う陰のある感じに憧れる年ごろだもんな~。でもな~、そう言うのって何年かしたら顔から火が出るほど恥ずかしく感じる物なんだぜ~。早い目にそう言うのは卒業してあた、いたっ、いたいいたい」



 顔の前でユラユラしながら笑ってやったら鞘付きのナイフでドスドス突っつかれた。



「真面目なのか馬鹿にしてんのかどっちなんだお前は~!」


「照れ隠しに刃物使うな! もうちょっと愛想ある奴にしろよ指で突っつくとか!」


「だーれが照れるか! もう寝るからね!」


「んなことしてたら悪い業が溜まるぞ~。溜めるのはムラムラとかそう言うのにしておけ~。そしたら俺がスッキリさせてやぱっ!」



 背中を向けて寝ころんだストラから手首のスナップで飛んできたナイフが顔に突き刺さった。俺はそのままべちゃりと仰向けに地面に落ちてピクピク震える……



「ばーか」



 小さくそんな声が聞こえた気がしたが、俺は結局そのままナイフと一緒に朝を迎えるのだった……


 俺達が王様を追いかけ始めて三日目。軍団が野営した跡は何度か見つけていたが、この日の夕方、ついに遠くに煙を見つけた。



「おっ、追いついたか!」


「ちょっと強行軍になりますけど……このまま合流しましょうか」


「そうだね、夜の間にはいけそう!」



 俺達は歩く速度を速め、その煙の元へと急ぐ。日が沈み、周囲が暗くなったころ。煙の根元が見えてきた……

 ざっと100人はいそうな野営地はかがり火に囲まれ、いくつものテントや荷車、それを引く馬が並んでいる。ひときわ大きいテントが大将、つまり王様のだろう。野営地に近づくと槍を持った人間の兵士がこちらに気づき、穂先を向けてきた!



「誰だ! 布告を見ていないのか!? 我々は作戦行動中だ! 早々に立ち去れ!」


「サイアからのお使い、そう王様に伝えて。手紙のことで話があるって言ったらわかってくれるはず」


「サイア……様のだと? ……おい、こいつらを見張っててくれ」


「わかった」



 隣にいた兵士にそう言うと、野営地の奥に引っ込み……少ししたら一人の連れと共に戻ってきた。その連れというのは……騎士長ウスターシュだ。



「よもやと思ったが、なぜここに? まあよい、エミル様がお会いになる」


「ありがと、どーだ恐れ入ったか」


「見張りの人は仕事しただけなんですから……」



 野営地の中央にあるテントに向かう道すがら何人もの兵士とすれ違う。獣人と人間が6:4くらい、人間が金属の装備で身を固めているのに比べ、獣人は服と大差ない程度の防具しかつけていない者が多い。武器は全体的に獣人の物が大きく、両者の体力差を示しているようだ。また、獣人は獣人と、人間は人間と集まっているように見える……



「(隔たりって奴かねえ)」


「エミル様! 例の、彼女らが……」



 そんな風に陣内を観察しているうち、中央にある大きいテントに入った。やはりそこは王様のテントだったらしく、大きな机と椅子が設置され、そして立派な鎧を身に着けたエミルがそこに一人座っていた。



「皆さん! 本当にこんな所まで来るなんて……それで、サイアからの使いだと聞いたのですが」



 とはいえ、立派な鎧を着ていても中身は変わらず。姫さんの名前を口にしたその顔は不安と期待半々でやきもきしているというのがまるわかりだった。ここはひとつ、その期待に応えてやるとしよう。



「喜べ王様、脈アリだぞ」


「え、ほ、本当ですか!?」



 俺達が姫さんの言葉を伝えると、王様の顔はたちまち喜びに緩んでいく。



「そうですか、サイアが……! はは、やったあ!」


「そ、そう言うわけですから、サイアさんを悲しませる前に早く引き返していただいて……」


「……いや、それはできない。この討伐は彼女へのアピールも目的ではありました。でもそれ以上に、国の脅威を見過すわけにはいかないのです」


「まあ、ここまで来て『やっぱり帰る』とは言えんわな」


「じゃあ、私達怪物退治が終わるまで足止め? いっそ協力する?」


「駄目ですよ、私達なんか居ても邪魔になるだけです」


「でもリオ強いじゃん」


「ほ、褒めてくれるのはうれしいんですけどぉ……やっぱり、出しゃばらない方が……」


「しかし連れ返せって話だからなあ」


「申し出はありがたいのですが、やはりこれはイフトの問題。我々だけで解決するのがスジでしょう。心配しなくても必ず戻るとサイアに伝えていただけますか?」


「う~ん、じゃあ……」



 ストラがうなったその時。テントの外から音が聞こえた。下生えを踏み、枝を折るバキバキという音。そして。



「で、出たぞーーーーーっ!!!」



 悲鳴じみた兵士の声が野営地に響いた……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ