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41 新能力:吸い付く触手吸盤

 人間の王様、エミルから獣人の姫様サイアに手紙を届けてほしい……直接に、という依頼を請け、俺達は再び神殿へと戻ってきたわけだが……


「それじゃあ、リオはさすがに向いてないだろうから留守番だね。一応連絡用に触手着けておくけど」


「ふつーに俺を毟るのやめてくんないかね?」


「いいでしょ減るもんじゃ無し」


「お願いですから、見つかったからって実力行使は止めてくださいね……? ほんとに、ほんとにシャレにならないですからね?」


「わかったわかった。じゃあ行ってくるから」



 俺達は神殿の手前で別れ、ストラは茂みに入って神殿を目指した。神殿は階段状に石が積み上げられた三角形をしており、全部で七段。その後方に庭園がある形になっている。周囲は石の塀で囲われているが……




「よし……反対側に人は居ねえ。上るぞ」



 俺とストラなら、それは問題にならない。塀の外から体を伸ばして覗き込み、安全を確認したうえで適当な所に巻き付き、ストラを引き上げる。持ち上げられる猫よろしく宙に浮かぶストラだが……



「やっといてあれだがよ、お前これ首痛くねえの?」


「ん~、全然? なんか首って言うより全身がグッて持ち上がる感じ。そっちこそ重さで切れたりしないの? 手で毟れるのに」


「そもそも初対面の時も支えられたろ? 多分あれだな、お前がどうしたいかってのがある程度こっちにも反映されてるんだな」


「なるほどね~……よいしょっと」



 ストラは塀を乗り越えて着地。神殿裏手にある庭園の一角に出た。ここから潜入を開始するわけだが……



「ニック、お願い」


「了解しました」



 ストラの鞄からヒョコ、と銀と黒の縞々頭を出したニックが周囲をうかがい、耳を動かす。そのまま少しして……



「対象の物と思われる声紋を確認。北東の角、上方です」


「よし、行こう。見回りとかが居たら教えてね」



俺達は神殿に近づく。段になっている外壁を登り、かがんで身を隠しながら、2階部分にある壁画の回廊へ。俺が体を伸ばしてだれも居ないのを確認してから、ストラは回廊に駆け込む。



「ここは、昨日通ったとこだね」


「ああ。北東っつうとあっちだ」



 俺達は回廊を前来た時とは逆に進み、これまで入ったことのない場所に入り込む。壁画は進むにつれて過去のものになっていくようだが……



「ここで最後、いや時系列で言えば最初か」


「何か気になるの?」


「ああ。見ろよ、いろんな獣人が女王の下に纏まってるところだ」


「変なの? 代々神官長が女王様なんでしょ?」


「過程がねえんだよ。獣人って一纏めにするが、あれだけ色んな奴が居るんだぞ、そう簡単に一つの国なんか作れるもんかよ」


「神官長が国作ってからの歴史なんじゃないの?」


「そう言う見方もできるが……」


「警告。接近する足音有り。前後両方からです」


「やっば、どっか隠れるところ……!」


「部屋……はねえな、上だ!」


「上って、掴まれるところないよ!?」


「任せろって!」



 この廊下の天井は高く、薄暗い。俺はそっちに伸び、大腿程度に太くした体の表面に吸盤を並べて天井に吸い付いた! 



「うわなにこれキモイ!」


「タコだよ見たことねえのか」


「無いよ! 本で見たことしか!」


「触手の原点みてえなもんなんだがなあ……まあいい、とにかく上がるぞ」


「言っとくけど! 変なところ触らないでよね!」


「わかったわかった、静かにしろって!」



 体をくねらせて背中と足を支え、長い金髪も忘れず抱えて、ニックを抱きかかえたストラと一緒に天井に張り付くような姿勢を取った。やがて足音がこちらにも聞こえてきて、俺達の下で馬型とカバ型の獣人がすれ違う……かと思えば立ち話を始めた。



「よう、聞いたか? 姫様が脱走したってよ」


「婚約者に会いに行ったって話か? せめてどんな相手かくらい見ておきたかったんだろ」


「お可哀そうにな。人間相手に売られるようなもんだ」


「次の戦士長さえ決まってればこんなことには……」


「だが、結局一年も誰も名乗りをあげないままじゃあないか」


「戦士長になれば、先代を殺した化け物を倒しに行かなければならないからな……皆、自信が無いんだ」


「奴さえいなけりゃな……」



 二人は去っていった。体を伸ばし、ストラを着地させる。放すや否や、ストラは身震いし……



「うぇ~……気持ち悪かった。妙に脈打つし、なんか熱いしヌメッとするし」


「お前素直に感謝とかできんわけ?」


「進路クリア。巡回に追いついてしまわないようにしながら進みましょう」


「よし、とりあえず上に行く道探すよ。触手、前に出る」


「へ~いへい」



 気を取り直して、俺達は神殿の中を移動する。外周寄りにある階段を上り、巡回は身を隠してやり過ごし、進んでいく。色鮮やかな絨毯や複雑なタペストリで飾られた廊下を抜け、俺達は一つの扉の前にたどり着いた。彫刻の施されたそれを開けると、中から薄い煙と共に、ふわりとした高貴さを感じる甘さと爽やかさの混ざった香りが流れ出してくる。窓一つない真っ暗な部屋の中に少数の蝋燭が立ち、その中央でサイアは香炉に向き合って床に座っていた。



「……ふゎ? なんじゃ瞑想の時間はまだあるはず……あ、お主ら!?」


「し~っ」



 口に人差し指を立てたストラは部屋の中に入って扉を閉める。蝋燭の揺らめく灯りだけが照らす中、サイアは丸くした目を輝かせた。



「もしや、わらわを連れ出しに来てくれたのか!?」


「違う。これ届けに来たの、読んで」


「なんじゃ……手紙?」


「許嫁からだぜ」


「なんじゃと? 何を今さら……」



 ぶつくさ言いながらも、サイアは手紙を広げる。ちらと見えた書面には、急いで書いたにしては丁寧な文字が綴られていた。



「なんて書いてあるの?」


「ふむ、ふむ……ふん、ようやく手紙をよこしたと思ったら、随分と語りおるわ。ほれ」


 内容が気になるのかサイアの前に座っていたストラに、手紙が広げられる。そこに書かれていたのは……



拝啓、サイア殿下


 急ぎの文故、整わぬ文章をお許しください。この手紙があなたの手に届くことを祈っております。


 昨日、一目とはいえ貴女にお会いでき、私の心は計り知れぬ喜びで満たされました。初めて会った時からこの心を離れぬあなたの姿が、より麗しくなって我が館の前に現れた時には、驚きと共に胸が熱くなるのを感じました。邸内にお招きし語り合いたいと思いましたが、すぐあのようなことになり、お別れせざるをえなかったことが、残念でなりません。


 貴女とは許嫁の間柄でありながら、神官姫という立場上、会うことができぬことを寂しく思っております。これまで幾度ととく文を送りましたが、お返事を頂けることはなく、私たちの間に越えがたい隔たりがあるのではないかと思い悩んでおりました。


 しかし、この手紙を持った者によりある事実を知らされ、もう一度筆をとった次第です。


 貴女が私をどう思っているかを伺い、お眼鏡に叶わなかった我が身の至らなさを恥じ入るばかりですが、私は貴女の夫になる者として、貴女の喜びとなる存在となり、共に私達、そしてイフトの輝かしい将来を築き上げていきたいと思っております。そのためならばいかなる試練も乗り越え、あなたへの愛の証明といたしましょう。どうか私に、挽回の機会を与えて下さることを願うばかりです。


 貴女と未来を共に歩めることを祈って。


  エミル




「ん~……んん? こりゃあ……」


「好きって書くだけでこの長さ? 貴族って暇だね」


「まあ、ようやくとは言え、手紙をよこしたのは良いとしてじゃ。何でまたお主らが持ってきたのじゃ?」


「頼まれたんだよ、直接渡して返事聞いて来いって。で、返事は?」


「返事……こ、この場でか!?」


「そう言う依頼だもん。いつまでもここには居られないし、早く早く」


「そ、そんな直ぐに言えるか! 大体、わらわは別にあやつと結婚などしたくないのじゃぞ!」


「別にそれが返事で良いよ。じゃあ私行くからね」


「ああ、いや、待て……そうじゃな……エミルに伝えよ」



 立ち上がったストラに、サイアは逡巡した様子を見せるも……目線を戻し、言った。



「神官長の夫は戦士長がなるもの、我が夫になるというのなら、それ相応の武勇を示して見せよ、それこそ、我が父に並ぶような、とな」


「それ、武勇を示せたら良しってこと? 好みじゃないんでしょ?」


「条件を付ければ、それを無下にするような男ではなさそうじゃからの。しかし、父上に並ぶほどの武勇などそうたやすくはあるまい! 当分は自由の身じゃ! その間に戦士長に相応しい者が現れるかもしれんし、本人がわらわ好みになるのなら、それはそれで、じゃ」


「割としたたかな姫さんだな……」


「種族が違うのはいいの?」


「む? それは別に構わん。牙や毛がなかろうと、共に生きる人なのじゃからな」


「ふーん」


「だそうだぜストラ。お前も俺が触手だからって偏見を持たずにだな」


「お前触手なだけじゃなくてスケベじゃん。よし、じゃあ出るよ」


「まあ、気を付けて……というのも変じゃが。貴重な休憩時間を使ったのじゃ、また牢屋から出すのに苦労する、などという事にはならぬようにな」



 瞑想という名の昼寝中だったらしいサイアを残し、俺達は来た道を戻った。上手いこと見回りをすり抜け、回廊から出て、塀を乗り越え外に出る。不安げに膝を抱え込んでいたリオを近くの茂みで見つけ、無事合流したのだった。


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