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39 王女のお悩み

 俺達は夕食を終えた後、神殿内にある客室に案内された。広々として大きな窓からは夜空が望め、なにかもわからない動物の声が聞こえてくる。俺達の荷物も、まとめてそこに置いてあった。



「ああ、よかったあ……! 鎧、どこも壊れてなさそう……」


「なんていうか、凄い一日だったね」


「まったく、こんなこともあるもんなんだな」


「一時危険度が高い状態でしたが、結果として通常接触不可能な王族に関しての有意義な知見を得ることができました」


「そういや、神官長? には何も言わなかったね。好みじゃなかった?」


「いやかなり良い線行ってたが……獣人相手がどんなもんかと気にはなったが。俺だって流石に時と場合って奴はわきまえてる」


「本当か~???」


「相手はわきまえないんですね……」


 ストラにブニブニと突っつかれながらも、俺達はてんやわんやだった一日を終えようとしていた。その時扉が開き……サイアが姿を見せた。



「ま、まだ起きておるかの?」


「あ、サイア。どうしたの?」


「ス、ストラさん、言葉遣いに気を付けてください! 触手さんですらできてたんですよ……!」


「ですらってなんだよ~」


「構わん、友人の間で言葉遣いがどうのは無粋じゃろうて」


「友達だったっけ?」


「にゃあっ!?」


「ストラさぁん!?」


「だ、だって今日会ったばっかりじゃん!」


「そ、そう、じゃな……いきなり友などと、気安かったか……」


「あ~、ひっで~、泣~かした~泣~かした~」


「な、なんだよう……あ、あ~……わかったわかった友達で良いから!」



 涙目になったサイアに負ける形でストラは友達になった……いや、こんな流れで友達になって良い相手じゃないとは思うが。で、その友達になったサイアは部屋据え付けのスツールにちょこんと座る。



「今日の事、改めて詫びるとともに礼を言いたい。見ず知らずのわらわによう付き合ってくれた」


「まあ、俺たちゃ基本暇人だからな」


「だれが暇人か」


「それにしても、高貴な人がこっそり抜け出すなんて……そんな人って本当に居るんですね……それも結婚相手を見てみたいから、だなんて」


「で、会ったら好みじゃなかったわけか」


「そうじゃ! 男というのは大きく、強くあらねばならん! あれは……細すぎじゃろう!」


「サイアさんは逞しい男性が好きなんですね……」


「うむ。父上もそうじゃった。立派なタテガミを生やし筋骨隆々、男子たるものかくあるべしという人でな。それでいてわらわや母上には優しくての。わらわも父上のような相手と結婚すると思っていたのじゃ。それがなぜ……『神託』とはいえ……」


「『神託』、食事の席でも言っていましたね。何なのでしょう?」


「お主らの言うアビリティ、というものじゃ。代々母から継承されることになっておる。これから先に起こることを見通すことができるものらしい」


「ふ~ん……占いみたいなものなのかな」


「まあ、結局のところ親の決めた結婚が嫌だって話だろ? でも仕方ねえじゃねえか、王族だろうが神官だろうが、統治者となれば結婚は重要な道具だ。生まれた時から結婚相手が決まってることだって珍しかねえぞ」



 何やらサイアの悩み相談会が開催されだした。こういうのは女と距離を縮める絶好の機会ではあるが、いかんせん王女となると迂闊にそんな流れは出来ん。というかやったところでストラに輪切りにされるのがオチだ。適当に流すかとベッドで伸びることにした。



「それはわかっておる! わかっておるが……あやつ、今に至るまで顔を見せるどころか(ふみ)すらよこさぬ! 同じ国にいるのにじゃぞ!? そのような奴と夫婦になど……」


「けど、『神託』でそうだって言われたんでしょ? 逆らったりして良いの?」


「『神託』は必ずしも正しいとは限らぬ。正しいのなら父上は……死んだりしなかったはずじゃ」


「何か、あったんでしょうか……」



 神妙な顔をするサイアだが、その時部屋の外から声がした。



「サイア様―! サイア様! どこに行かれたのですか!」


「い、いかん。勉強を抜け出したのがバレたか。ではの!」



 サイアはあわただしく部屋から出て行った……それを後ろから見ていたストラは呟く。



「何だったんだろ」


「単に、話したかったんじゃないでしょうか……」


「話しったって、私達部外者だよ?」


「だからこそってのもあるのかもな。俺ら旅人が神殿の内情についてあれこれ言っても誰も信じねえだろ? 立場があると下手に愚痴も言えねえからな」


「でも話したって何にもならないよ」


「それでも、話すだけでもいくらか気が晴れたりするものなんですよ」


「そういうもんなのかな~……」


「お前スラムで友達とか……居なかったか、そうか」


「おらぁっ!」


「ごふぁ! 石壁が痛い~!」



 槍投げよろしく壁にビターンとされた俺はそのまま床で伸びた。そのまま夜はふけ、二人が寝入ったころ……



「……神、居るか?」



呼びかけると、俺は夜の闇とも違う、無限に広がる黒……まあ、俺をこんな体にした神との対話場所に居た。



「話がしたいのですね」


「ああ。なあ神よ、『神託』ってのがあるらしいんだが……なんか関係あるのか?」


「私が見ているのはあなただけです」


「熱心なファンが居てありがてえや。まあ、それはさておき。思いついたんだがよ。お前の力をちょこっと借りたりすることってできねえか?」


「私の力を?」


「ああ、今の世界はちいと物騒が過ぎる。ストラもガンガン危険に突っ込んでいくしな。おれも少しは対処できるようにっつーの? こう、自衛程度には戦えるようにとな。こうやって話せてるんだ、ある程度は干渉できんだろ?」


「あなたに力を貸すためには世界の殻を破らねばなりません。それにはとても大きな力が必要です」


「あ~……なんかヤバそうな響きだな。わかった、自力で何とかするわ」


「あなたは、不満なのですか?」


「ん~……まあ、エロいことするつもりが全然できねえし、扱いは雑だしな。だが不満ってよりは、そうだな……俺も仲間として多少は働くか、って思ったわけよ」


「したいことが増えたのですね」


「ま、そういうこった。欲ってのは尽きねえもんよ」


「もっとあなたのことを見せてください。あなたが満たされるまで」



 神との話を終えると、雨戸の隙間から日の光が見える。相変わらず時間間隔のよくわからん空間だ。



「そんじゃま、仲間のために朝の一仕事とするか」



 俺は雨戸を開けて部屋に光を入れる。ストラが呻くような声を上げてモソモソする中、俺はリオの頬を突っついて起こしにかかるのだった。

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