32 魔人族の物資検分
宿を襲った魔人族を逆襲し、見事仕留めた俺達。なら勝者として戦利品を取る権利くらいはあるわけだ。気になるのはこいつらの持ち物……ストラは早速、魔人達の持っていた装備をはぎ取りにかかった。
「よーし、持ってるもの全部持ってってやろう。あの雷を出す奴……」
手首から前腕の半分程度を覆う籠手状のもの。奴らはこれから稲妻を出していた。ストラはそれに手をかけて引き抜こうと……
「危険です、離れてください」
「えっ?」
ニックが警告した次の瞬間、ストラが手にしていた魔人の装備から弾けるような音がして、白い煙、続いて青い炎が噴き出した!
「うわ!? なになになに!?」
「青い火!? 内側から出てんのか……!?」
火は草を焦がし、すぐに止まった……だが後には嫌な臭いが立ち込め、その籠手は焼け焦げていた。
「燃えちゃった……どうなってるの……?」
「自壊装置です。所有者の死亡を検知すると、内部機構を修復不能にする装置があらかじめ組み込まれていました。鹵獲防止のための措置と思われます」
「おいおい、じゃあ苦労して魔人族倒しても手に入るのは焦げカスだけってことか?」
「彼ら固有の装備については、そうなります」
「そんなぁ~……絶対高く売れると思ったのにぃ!」
「残念ですね……それにしてもこの人たち、どこから来たんでしょう。狩りだったとするなら、獲物を持ち帰る拠点があるはずですよね……?」
「ん~……ニック、何かわかんない?」
「周辺を走査します……空間を検知。この下です」
「下?」
視線を落とし地面をよく見ると、掘り返されたのか草が一部剥がれていた。そこを掘ると、金属製らしい大きな箱が姿を見せる。開けてみると中には、透明な容器が並んでいた。
「なにこれ、なんか白っぽいものが浮かんでるけど」
「人間の小脳および大脳基底核です。特殊な薬品により保存されているようです」
「うえっ……」
「脳みそかよ……!」
「殺された人たちの……ですね……数も同じくらいですし……」
ガラス瓶に入り、何かの液体につけられた、人間の頭の中身。それが整然と並んでいるのは、中々に悍ましい光景だ。
「あいつらの物入れってところか……?」
「こんなの、持って帰っても仕方ないね……他に何かないかな……」
ストラは瓶を取り出して中を探る。袋に入った乾いた板、血の付いた小さな刃物、使い方のよくわかわない金属の器具や薬と思われる瓶。そんな物を取り出していくと、箱の中央から何か白いものを発見した。形は三本の太い柱を互い違いに三角形に組み合わせたようなもので、大きさは両手に収まる程度。質感は磁器に似てるが、内側から滲みだすように光が明滅するのは、そうじゃないと物語る……
「なんだあ、こりゃ?」
「魔人族の道具……でも他のと違って綺麗だね」
「道具だとしても……どうやって使うんでしょうか。どこにも動かせそうなところは……」
三人揃って叩いてみたり振ってみたりしたがうんともすんとも言わない。ニックはそれに目から光を投げかけて……
「何かわかった?」
「はい。これは一種の門を作る装置です」
「門……?」
「厳密には門を作る装置自体は別にあり、これはその門を自分たちの所に呼ぶための物です」
「わかるように話してよ。門って……街なんかの入り口ってこと?」
「適切な表現を演算中……瞬間移動の概念はご存知でしょうか?」
「遠く離れた場所に一瞬で移動するアビリティですね? アビリティの中でも最上級の物として扱われていて、使い手もごく限られているとか」
「その瞬間移動をするための道具とお考え下さい。遠く離れた二地点を繋ぎ、距離や時間を無視して移動することができます」
「最上級のアビリティを、道具で……!? 魔人族はそんなすごいことを!?」
「それ、すっごい道具じゃん! どうやって使うのかな……!」
「魔人族でなければ使えない仕組みになっています。また、行き先は高確率で彼らの拠点であると考えられます」
「そっかあ……」
「そんなにすげえもんなら取り返しに来たりしねえか?」
「断言はできませんが、これは多数ある物のうち一つです。危険を冒し奪還する可能性は低いと言えるでしょう」
「(これがいくつも作れるってことか? 何者なんだ、魔人族ってのは…)」
人型をしているあたり、前に見たゴブリンなんかと同じようにダンジョンから湧いて出たってのも考えられるが、それとも何か違う気がする。
「あの、もしかしたら怪我した人を運ぶために仲間を呼んでたりしませんか……?」
「その可能性は十分にあります」
「じゃ、じゃあ早く離れましょうよぉ……」
「そうだね。とりあえず、この……門を作る機械は貰っていくとして。他のはわかる?」
「左から順に、芋や豆を原料とした保存食、解剖用具、投光、加熱等の野営用品、医薬品です。皆さんと魔人族は身体構造が異なるため、食品や薬品を使用するべきではないでしょう」
「なんにしても長居は無用ですよ、早く離れましょう……」
「そうだね。とりあえず……持てるだけ持っていこうか。脳みそ以外」
俺達は箱の中に合った物をかき集め、来た道を戻っていった。宿に残っていた奴らは俺達の顔を見るなり、恐る恐る訊いてきた。
「ま、魔人族は……?」
「全部やった。ほら、これ戦利品。疑うなら北の林を見て来ればいいよ」
「本当ですか!? お、おい、見に行こう!」
どやどやと走り出た一団がしばらくして戻ってくると、その顔は明るい物に代わっていた。
「本当だ! 死体になって転がってるぞ!」
「魔人族に勝つなんてすごいなあんた達! ありがとう! 助かったよ!」
「うん、でも……死んじゃった人たちはどうするの?」
口々に感謝と喜びを伝える宿屋の面々だが、ストラはあまりその感情に共感できないようで。いまだ放置された死体たちに目を向けて眉を寄せた表情を浮かべる。
「ああ、他所の村の連中はそこに引き取らせて……そのほかの奴は共同墓地送りだな」
「いや~、うちのもんが無事でよかったよかった」
「そ、そんな簡単なことでいいの……?」
「仕方ありませんよ……どこの人かわからない人では連絡も取れませんし、亡くなった宿泊客の持ち物を取得するのは宿屋の正当な権利です」
「とにかく、一旦休もうぜ。ダンカンも呼んでこねえとだ」
「うん……」
いまいち納得はしてないようなストラだったが、ひとまず俺達は待たせてあるダンカンと合流する。離れている間に襲われているという可能性もあったが、それに関しては杞憂で、のんびりと昼飯なんぞ食ってやがった……




