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31 逆襲

 宿屋を襲ってきた魔人族は追い返した物の、ストラも深手を負い、血を流して倒れている。生きてはいるが……!



「い゛っ! あ、う゛……!」


「くそっ、手当てしねえと……!」


「ス、ストラさん!? どうしましょう……!」


「損傷は頭骨にまで及んでいます。専門的な医療処置を施さなければ、致命傷になりえます」


「とにかく血止めだ……おい、ここ宿だろ、薬とか無いのか!?」



 カウンターやテーブルに隠れていた連中は揃って顔を見合わせる。当てにはならねえか。



「……外の連中、旅人とか商人だよな? だったら薬くらい持ってんだろ。リオ、ニック、探すぞ」


「し、死体漁りは犯罪ですよ……」


「現在の状況を鑑みると、罪に問われる危険性は極めて低いと思われます」


「うぅ、し、仕方ないです……」



 俺達は外に転がる死体を漁り、その荷物を地面に広げる。商人の売り物、旅人の日記、誰かに宛てられた手紙、使い込まれた食器……そんな物に混じって、色付きの液体の入ったガラス瓶がいくつか。



「あった、魔水薬ポーションって奴だが……どれが何だ……?」


「ラベルを見て傷薬を! 青みが強いほど良い薬で……あった!」



 迷っていると、リオが水色の液体の入った瓶を手にしてリオの元へ走る。



「高級品があってよかった……ストラさん、今手当てしますからね! 触手さんは傷口を広げてください、奥までしみこませないと……!」


「お、おう!」



 ストラの手をどけて頭の傷を見る。傷口は荒く、粘る血の塊がこびりついていた。リオはコルクが詰まった瓶の口をもどかしいとばかりにねじ折り、その中身を傷にふりかける……すると、肉が盛り上がり、裂けた傷口が水が流れ込むかのように端から埋まっていく。と、同時にストラが手足をばたつかせた!



「うう、ううぅっ!」


「おい、ストラ!?」


「強力な魔水薬は反動も強いんです、押さえて!」



 俺とリオでストラを抑え込み、少し待つと……傷口は塞がり、その跡すらもわからなくなり、細い金色の髪が生えて……完全に、ストラは元通りになっていた。顔にへばりついた血糊だけが、痕跡として残る。



「おいストラ、大丈夫か?」


「全っ然、大丈夫じゃ、ない……! 痛ったぁ……」


「よかった、治りましたね……」


「身体の損傷、99.9%以上の修復を確認。完全な健康体と言って差し支えないでしょう」


「ほら、顔拭け顔」



 水で濡らした布を渡すと、顔にへばりついた血を拭きとるやいなや、ストラは抜かれて床に落ちていたナイフを拾いあげ、鋭い目つきで言った。



「あいつら、どっちに行った? 追いかけて仕留める!」


「な、何言いだすんですか!? せっかく逃げてくれたのに!」


「逃げたってことは勝ち目があるってことでしょ!」


「ストラさん! 今あなたは怪我して興奮してるんです、まずは落ち着いて……!」


「いや、あながち的外れでもねえかもしれねえが……」


「ええっ?」


「あいつらよくわからん言葉を話してたろ? 多分あれがあいつらの母語だ。なのにわざわざ俺達の言葉を使って正面から来た。ってことたぁ、狙いは俺達をビビらせて追い込むことだ」



 裏手の二人が遠距離武器を持っていたことも、この考えを裏付ける。裏から逃げ出せば、待ち構えてる二人があの電撃で仕留めにかかるってところだろう。



「つまりあいつらは3人で10人以上やっておきながら、まだ反撃を警戒してたってことだ。実際ストラにやられたら慌てて引き上げていったしな。あいつらは怪物でも恐れ知らずの戦士でもねえ。命は惜しいし、痛いのは嫌な普通の生き物だ」


「いけそうってこと?」


「相手にはあの稲妻を打ち出す武器が残ってるが、それを持ってた二人のうち一人は、ストラに刺された奴を抱えている。状況としちゃ五分ってところじゃねえか? とはいえ、追うのが危険ってことには変わりねえが……」


「五分なら行く! とにかく追うよ! やられっぱなしでいるもんか!」


「ああっ、待ってください……!」



 考えてる間にストラは飛び出し、当然俺もそれと一緒に。リオも慌ててついてきて、ニックもそれに続いた。


「敵集団、北西に向けて逃走中。血痕を追跡します。」


「頼んだ!」


「追うって決めたなら仕方ねえがよ! 追いつく前に冷静になれよ! 相手は強敵なんだ、考えずにぶつかったって駄目だぞ!」


「そもそも、ぶつからない方がいいと思いますけど……!」


「勝ち目がないならともかく、勝ち目があるならやる! 勝てたら、私はもっと上に上がれる!」 


「普通にコツコツ行きましょうよぉ!?」


「普通じゃないでしょ! リオは騎士だし、ニックはよくわからない金属猫だし、触手は触手だし!」


「俺だけ雑だな!? じゃあさしずめお前は命知らずのじゃじゃ馬か!?」


「じゃあそういう事で良いよ!」


「じゃあそう言うことにするがな! 勢いに任せていきなり飛び掛かるなよ! 相手が手負いとはいえ強いのは間違いないんだからな!」



 地面には赤い痕跡が点々と、少し離れた林へと続いていた。それを追って茂みに入り、葉の音を立てないよう慎重に進む……敵は負傷者を抱えているとはいえ、あの雷を打ち出す武器、そもそもの対格差。リオは強いが、相手が態勢を立て直せば不利なのはこっちだ。ともかく、先手を取らないと話にならない……程なく、ニックが足を止めた。



「前方、敵集団。動きを止めています。会話内容から、応急処置を行っている模様」



 体を少し伸ばすと、茂みが開けた場所があり、そこに刺された奴が寝かされて、もう一人が周りを警戒、残る一人がかがみ込んで手当てをしているのが見える。



「近い、十歩かそこらだ」


「よし、それじゃ……正面からは厳しいよね」


「リオが前に出りゃいいだろ。あの鎧、稲妻も防げるみてえだからな」


「わ、私ですか……」


「そうだね。私は回り込んで……そうだ触手、出来るだけ小さいの出して」


「あん? 興味持つのは良いが今か?」


「ちぎって細くするぞ」


「冗談だっつの」



 なるべく細くて短いの……ふつう使わないような場所でも使える奴で、太さは藁一本程度、長さは小指程度のを体から生やして分離、ストラの手に乗せる。ストラはそれを、リオの兜の耳元に張り付けた。



「な、何ですか、気持ち悪い……」


「直球で嫌がられると……なんか興奮するな」


「いいから……触手、これから声って出せる?」


「おう、出せるぞ。耳の中に入れて言葉攻めってのも有りだからな!」


「ふざけてる場合じゃない。これで離れてても連絡取れるでしょ」


「おお……なるほど」



 前の墓場もそうだが、ストラは中々発想力がある。視覚は切って、音だけにすれば負担も少ない。



「よし、じゃあリオ、合図したら行って」


「わ、わかりました……」



 リオをその場に残し、ストラは回り込む。リオと挟み込むような位置に移動し、茂みに身を隠してジリジリと距離を詰めていく。低木一本を挟んで、ストラは低い姿勢で構えた。



「リオ、立ってる方をやって!」



 ストラの小声を、俺はそのまま伝える。リオは不安げな声を上げるが、小枝を掻き分ける音と共に鎧の足音、そして、黒い鎧が飛び出した!



「お、おりゃああああ~~!」


「Νανδα!?」


「ふっ!」


 見張りが驚いた様子の叫びをあげると同時、ストラは短い呼吸と共に飛び出す! 一息に距離を詰め、手当てしている奴の喉をすれ違いざまに搔き切……



「だめ、浅い!」



 喉を覆う細かい鱗で刃が滑り、傷こそ付けたが致命傷じゃねえ。片手で喉を抑えながらも、稲妻の武器をこちらに向けた!



「だあっ!」


「やあっ!」



 俺は体を伸ばし、構えられた腕ごと武器を持ち上げ、稲妻がストラの頭上を貫き木を焦がし、その隙に懐に飛び込んだストラが刃を振るった! 足の付け根、胸、首、立て続けに刺していく! 勢いよく鮮血が溢れ、魔人族は目を見開きながら手を傷口に当て倒れ込み、もがきながら動きを弱めて行った。



「わわわ、たあっ!」



 リオの声に目を向けると、稲妻をものともせず、大戦棍グレートメイスを振り抜いていた! 直撃を食らった残る一人は背骨が直角に折り曲がって吹き飛び、残るは手負いの一人のみ。そいつは血の染みた当て布を巻いたまま、怯えた声を出す。



「ま、まって、ころさないで」


「は? 何寝言言ってんの」



 命乞いに構わずストラはナイフを胸に突き立て、リオが顔をそむけた。後には静寂が残され、ニックが草を掻き分けて姿を見せる……



「敵3名の生命活動停止を確認。他に反応はありません。敵対集団、全滅を確認しました」


「よっし……! やった! 勝った! どーだざまーみろ! 好き勝手暴れといてタダで帰ろうとか甘いんだトカゲ人間め!」


「はあ……勝てましたけど……できればこういうのはやめて欲しいです……」



 無邪気に喜ぶストラと肩で息をするリオ。対照的な勝利の浸り方をする二人だが、ともかく魔人族3人を倒した。これであの宿も一安心だろう。それに、この魔人族とやらをしっかり調べる機会も得た。俺達は倒した魔人族の死体に近寄り、持ち物などを検分することにした……


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