27 死者の安らぎは守られり。触手の願いは……
翌日、昼前にようやく起きたストラとリオは朝昼兼用の食事をベッドの上で齧りながら、事件を振り返る。
「結局、お金目当てだったわけだね」
「取り調べの情報を総合すると、そうなります」
あれから取り調べを受け、そこで聞いた顛末によると、あの墓の持ち主、ガヴィーノは墓地の土地を再開発に乗じて住宅、商用地にすることを考えていたらしい。
「墓より儲かる物建てたかったわけだね」
「そのためには現在の利用者を退去させねばなりませんが、十年単位の貸借契約を結んでいたため、全員の契約期間終了を待っていては間に合わないと考えました」
契約ってのは重いし商機ってのは待ってりゃ逃げていく。ガヴィーノは焦ったわけだ。
「そのため、自分たちから墓を移ろうとするように、あえて自分で悪評を立てようとした、というのが今回の事件の全容です」
「人々が眠るお墓を潰してお金儲けなんて……不届き千万です! 無事解決できて、良かったですね!」
「解決はしたけどさ~。これでライア首でしょ? 雇い主が居なくなったんだから」
ガヴィーノは死体を冒とくした罪で牢に入った。正直そんなに重い罪ではなく。数年もあれば出てくるらしいが……刑罰以上に世間の目が厳しく、街に居場所はなくなるだろう、とのことだ。ともかく、墓地は一時的に公の管理になるわけだが……
「その辺は大丈夫だろ。墓が無くなるわけじゃねえんだ、あんだけ熱心に仕事してる墓守なら、みんな続けて欲しいって言うだろうよ」
「そうかな……なら支払いは大丈夫か。あのゴーレム作る道具も証拠物件だって持ってかれちゃったし、たくさん払ってくれると良いんだけど」
そうして事件のまとめをした時。丸まっていたニックがピコッと耳を立てた。
「……食堂での会話を検知。ライアが訪ねてきたようです」
「お、来た来た!」
ストラが客室を出て食堂に向かうとそこにはライアの姿……フードの墓守姿ではなく、私服なのか亜麻色の服に若草色のスカートを合わせている。髪は大き目の婦人帽で隠れているが、墓守姿よりだいぶ明るい印象になった。
「皆さん。今お部屋をうかがおうとしていた所です」
「声が聞こえたから。それで、お墓どうなるって?」
「まだ昨日の今日ですから何も……ですけど、もう何人か、これからも墓守を続けて欲しいと言って下さる方が居ます。きっとあそこはこれからも悲しみに寄り添う、静かな憩いの場であり続けるでしょう。ありがとうございました」
例え牢から出てきて、売り払おうとしたところで。もうあの土地にはケチが付いたことだし、他に転用するのも難しいだろう。墓場は当分安泰のはずだ。
「ふ~ん、まあよかったじゃん。それじゃ、礼金頂戴」
「ええ、こちらに……」
「あ、山分けな山分け!」
俺達はライアの周りに集まってそれぞれ報酬を受け取る。その額は、一人分でもなかなかの物! 金貨と銀貨を俺は自分の財布に収め、チャリチャリと音を立てる!
「よっしゃあ! この姿になってからようやくまともな財産が手に入った!」
「うるさいなーもう」
「さてさて……それじゃあライアさん、折り入ってお話が」
「なんか言いだしたぞこの触手」
「えっと、何でしょうか」
金も手に入ったが、それよりなにより俺が報酬として得たいもの……それは! この控えめ美人な女墓守! 私服も良いが墓守服でもやってみたい! やはり本物が着てこそ楽しみが増すってもの! この機会を逃すわけには行かん!
「心配事が片付いたところで、俺と一夜を過ごしませんか? 墓場に咲いた一輪の花に是非とも俺の熱情を受け止めて貰いたい! あなたにとってもきっと忘れられない体験になることをお約束しましょう……!」
「ええと、その……ごめんなさい」
「はい失敗~」
「ギャンっ!?」
振られた上に斬り落とされた。
「何すんだよ今斬る必要あったか!?」
「言いだしたところで斬ろうと思ったけど待ってやったんだよ感謝しろ」
「申し出には、その、驚きましたけど……私はこれから今後墓地をどうするかを考えて行かなければいけないと思います。なのでそう言った私事は当分後回しで……」
「そっか。お墓のこととか私よくわかんないけど、上手くいくといいね」
「ええ、今日もこれから会合があるんです。私にどれほどのことが出来るかわかりませんが、精いっぱいやっていくつもりです。重ね重ね、ありがとうございました」
「ええ、頑張ってください! あなたのこれからに幸多からんことを!」
床でビチビチしてる俺を尻目に、女たちはなんかいい感じに話をまとめていった。手を振り去っていくライアを、俺はむなしく見送る……
「あ~あ、やっと、やっと俺の真価を発揮できると思ったのによ……」
「流石にあれは、厳しいんじゃないかと……ああいう台詞は、かっこいい男性に言われるから良いのであって……」
「ぐあー! 容赦ないダメ出し! ぐあー!」
苦笑しながらのリオの言葉がグッサリ刺さって俺は地面に伸びた。
「なーにが真価だ。お前の真価は私の役に立つことでしょ」
「いいか~、人はな~、誰だって自分の生き方を決める権利があるんだぞ~」
「ふん。いいからさっさと戻りなよ。時計出来るのは明日だし、今日は街で遊ぶよ」
「あ、良いですね! 演劇とか見ますか? 美味しいもの食べますか? 美術館とかもあるかも……」
「ま~、気晴らしすっか。交易の街だっつうし、何かしら面白いもんあるだろ。昔から残ってるところ行けば大体外れはねえ」
「ま、その辺は歩きながら考えればいいじゃん!」
昼下がりの日はまだ高く、宿から出た俺達を照らす。心なしか明るい表情のストラを先頭に、俺達は街遊びに繰り出すのだった。




